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第15話 素直な間者。

 


 ヴィント国の王宮にてその妃は大理石の床に額を擦り付けるほど深く平伏していた。それをつまらなさそうに玉座から見下ろすヴィント国王。


「其方にはがっかりさせられてばかりだな。クローヴィスを産んだことだけは評価するが、それが無ければとっとと追い出したものを……」


 平民出身にもかかわらず妃にまで上り詰めたクローヴィスの母は平伏したまま歯を食いしばった。


 ……胸ぐら掴んで頭突きをかましたい。


 妃になる前は女騎士として国王に仕えていた。気性の荒い彼女にとって騎士という大義名分のもとに堂々と悪党を成敗する役目は大変やり甲斐があった。そんな素晴らしい日々をぶっ壊してくれたのが仕えていた目の前の国王だ。


 毛色が変わってるという理由で手を出しやがって!


 無論、国の最高権力者に逆らえば親にも親戚にも罰が下されるので、ぶっとばせなかった。


 好きで妃なんてやってねーよ!


 内心では罵倒しながらも妃は平伏し続けた。


「……戦争などやめて下さい。我々に大義はございません」


 息子に時間稼ぎを頼まれた妃は下げたくもない頭を渋々下げた。


 そんな妃の心境を知ってか知らずか、豊かな赤い髭を撫でてヴィント国王は呆れた様に呟いた。


「……あるだろう。我らの同盟国カルマの屈辱を晴らすという大義が」


 いや、ないだろう。と妃は思った。


 確かにカルマ国は優秀な人材を奪った故アッローラ帝国を憎んでいる。その血を受け継ぐピアチェーヴォレ国を憎むのは、まあ分かる。分かるがその分家が建国したヴィント国と協力するとはどういう了見だ?


 もしかすると、ピアチェーヴォレ国を滅ぼした後にヴィント国をかもしれない。


 この国王は戦争が出来る大義名分を手に入れればそれで満足なのだ。後になってカルマ国がこちらに刃を向けても願ったりかなったりで喜んで返り討ちにするんだろうな。


 ……全く。その考えはわからなくはないが、いつか破滅するぞ。


 かつて正義という大義名分のもと悪を容赦なく成敗した自分を棚に上げて妃は王を諭す。


「……それは我々も同罪です」


「……もう良い。下がれ」


 聞く耳を持たない王はしっしっと手を振り妃に部屋から出てけと命じた。


 私は犬じゃねーよ!


 笑顔を貼り付けたまま妃は立ち上がろうとしたが、扉が開かれた音が部屋に響き動きを止めた。


「痛い痛い!! 許して下さい!! もうしません!!」


 涙を浮かべた貧弱そうな青年がヴィントの貴族の青年に襟首を掴まれて引きづられてきた。


 ヴィント国王は忌々しげにうるさく喚く青年を睨む。


「……何事か?」


「ええええっ!? もしかして、ヴィント国王!?」


「お前は黙ってろ! 陛下! ピアチェーヴォレの間者を名乗る怪しい男を捕えました! 折角の機会ですしこの男の首をピアチェーヴォレに送りつけてやりましょう!」


 は? あっこいつは確かクローヴィスが間者だろうと怪しんでた奴だな。……馬鹿正直に間者だと名乗る奴がいるのか。


 阿呆らしすぎてヴィント国王はため息を吐いた。


「間者が間者と名乗る筈ないだろう」


 珍しく同意だな。


「俺もそう思います。この男は俺の妻に言い寄っていた憎き男です。間者だと偽り、情報収集と言い訳し、妻を口説き落とすつもりだったのでしょう。頭の良い言い訳は思いつかなかったようです。流石ピアチェーヴォレ人です」


 流石ピアチェーヴォレ人……庇えない。何であの国の男は年中ナンパしてるんだ。


「嘘じゃないです!! 僕は間者です!! ピアチェーヴォレ国の情報は何でも話しますから離して下さい!!」


「だから、嘘を吐くならもっとまともな嘘を吐け!」


 ……この男は本当に間者なのだが、黙っておくか。


 ヴィント国王が信じられないものを見るような目で自称間者を見つめた。


「……これがピアチェーヴォレ人なのか? この意気地なしで情け無いのが?」


 貴族の青年は真面目に「そうです。ピアチェーヴォレ人とは、男に限りますが意気地なしで情け無い年中発情した連中です」と頷いた。


 妃はピアチェーヴォレ国を助けようとする息子に協力していたが、段々とその想いが揺らいできた。


 ……そんなナンパ男達は滅んでしまった方が世の為の気がしてきた。


 ヴィント国王は頭を抱えて悩み始めた。


「……おかしい。アッローラの面影はどこに? いやっそんな筈は……」


 ……現実逃避した? まさかピアチェーヴォレの男がこんなんだと知らなかった? 嘘でしょ?



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