第九話 PvPの結果
「いやー、あれは危なかったよ〜」
アヤはすごく嬉しそうに俺のことを褒めるが、勝った奴に褒められても嬉しくもなんともない。
あの試合の後、俺たちは大きな人だかりとなったギャラリーの輪から抜け出して俺たちの宿に戻って来ていた。
そこでさっきの戦いの話になったのだが・・・
俺は今ベッドの中で不貞寝している。
だってさ!あんな大勢の前で負けたんだぜ!
これまでの勝負は全部身内しか居なかったけど、今回は大勢のプレイヤーや俺の負けた姿が見られていた。
しかも終わった後のアヤに対する大歓声がさらに悔しさを大きくさせた。
そりゃあ、俺が勝つよりも可愛いアヤが勝ったほうがいいだろうけどさ。
もうちょっと俺の健闘を讃えてくれても良いんじゃないか?
もちろんこんな理由で不貞腐れてるわけじゃない。
一番悔しいのはあいつがずっと手加減したことだ。
いつもは手加減なんてせず、もっと早く決着が着いていた。
それが今回に限ってわざと受けに回って試合が長引いた。
それがすごくイライラする。
しかも今、手加減していても余裕で勝てるとでも言うかのように笑いながら話かけてくる。
俺が反応しないで布団にくるまっていると、ベッドの上に誰かが乗ってきた。
お、おいアヤ、みんなが居る前で何をするんだ!?
そう思って布団から顔を出してベッドの上を見ると、そこに居たのはアヤでは無く笑顔を浮かべたリオ姉だった。
そして次の瞬間、
「しっかり、返事しろ! 」
「あああぁぁぁぁぁ!?痛い痛い痛い!ギブギブギブ〜〜!? 」
俺はリオ姉に4の字固めを決められていた。
俺が何かやらかすといつも決まって4の字固めをやられる。
あ、でも本人に何かした時はもっとヤバイ技が繰り出されるから、まだマシな方だ。
俺がベッドに手を叩き、降参すると技を解きながら
「アヤが手加減をしたからって負けたのはユウの実力が足りないからでしょ?それを高校生にもなって子供みたいに不貞腐れて恥ずかしくないの? 」
うっ、さすが姉、俺が何を考えていたか全部読まれてる。
「すいませんでした」
俺も子供っぽいとは思っていたが、
引き際が無くて困っていたからちょうど良かった。
俺はベッドの上で土下座をする。
「謝るのは私にじゃないでしょ」
それもそうだ。
いつも謝ってたからつい癖で
改めてアヤに向き直って、頭を下げる。
「本当すみませんでした」
すると、いつもは明るく自分勝手な奴なのに俺が怒られてる辺りからずっとアワアワしていた。
何この子可愛い。
「いや!こっちこそゴメン!別に私ユウのことを舐めてたわけじゃ無くてね、その・・・」
舐める・・だと!?
いやいや、アヤはそういう意味で言ったんじゃないから。
本当こういう時にこういうこと考えてるから反省してないとか言われるんだろうなぁ
そうやってくだらない事を考えていると、俺が黙っているのを何か勘違いしたのか
「ユウと久しぶりに長く戦っていたかったの!」
と顔を赤くして叫んでいた。
あら、可愛い
顔を赤くしてるアヤの顔をじっと見つめていると、顔をさらに赤くしたアヤは
「お、お、お父さん!迷惑になるからもう帰ろう!」
そう言って村長を引っ張って部屋から出て行った。
残された俺は正座の状態で、兄弟から生暖かい目で見られていた。
「ユウやるねぇ〜」
「さすがユウ兄、いろんな女の子にあんな事してるんだ〜」
とリオ姉とマリがニヤニヤしながら言ってくる。
「は?なんの事だよ?そもそも俺は女子と関わることなんてほとんどないぞ?」
そう言うと二人は呆れたようにしながら
「リオ姉、あれが今流行りの鈍感系主人公ってやつ?」
「いやいや、あれを素で言ってるから問題なんだよ。本当ユウは女たらしの才能があるなぁ〜」
なんかあからさまに聞こえるように二人で嫌味を言ってくる。
俺が女たらし?これには流石に俺もキレちまったぜ
「あ?俺は彼女いない歴=年齢の童貞だバカ野郎!ほんとこれだからリア充は・・・」
と言っている途中にいきなり首に圧迫感を感じたと思ったら、
「姉に向かってバカ野郎と言うのはこの喉かぁ! 」
「あああぁぁぁぁぁ!ごめんなさいごめんなさいぃぃ! 」
チョークスリーパーを決められてた。
ゲームの中だから息が出来なくなるわけではないが痛いものは痛い。
逆にリアルだと気絶出来るから長くは痛みを感じないのだが、なまじ息が出来るので気絶も出来ず、ひたすら苦しい。
さらにマリも面白がって脇をくすぐってくるので、拷問みたいになっていた。
「ほらほら、もう反省してるみたいだから離してあげなよ」
「「は〜い」」
さすがケン兄!惚れそう!
いや、俺はそっちの気はないからな、勘違いするなよ?
にしてもこの二人、ケン兄の言うことは聞くんだよな〜
あれ?もしかして兄弟内カーストって俺が一番低いのか?
俺が落ち込んで居るのを反省ととったのか、それ以上は何もせず俺から離れた。
もう今日は疲れた・・・
いくらか落ち着くと、テーブルの上に石が置いてあるのを見つけた。
そう言えば帰って来た時ケン兄たちがこれをガン見してたな。
「なぁケン兄、俺が帰って来た時、なんでこの石をなんで見つめてたの?」
ケン兄に質問すると、3人で喋っていたのを中断して説明してくれた。
「それは『感覚』のスキル上げだよ」
「スキル上げ?」
「あぁ、村長が見つけ出した方法なんだが『感覚』っていうスキルは五感に刺激が与えられるとそれに応じて経験値が入るらしいんだ。でも、意識せずに使っても意味が無くて、その感覚に集中しなければ経験値が入らないみたいなんだ。」
「だから、ケン兄は石を見ることで視覚に集中したんだね?」
「そういうことだ」
おお〜、マリは中2の癖に頭いいな!
でも、そういうことなら俺が黒猫との戦闘でレベルが一気に上がったのも納得出来る。
「そうだユウ、どの位レベルが上がったのか見せてくれないか?」
そう言えばまだ見せてなかった。
「いいよ、ちょっと待って」
そう言って自分のステータスを開いてみんなに見せようとしたのだが
「ん?」
あれ?俺の目がおかしくなったのか?
数字がおかしい
「どうした?」
ケン兄が聞いてきたので困惑しながらもみんなにステータスを見せる。
基礎ステータスはおかしなところはないのだが、問題はスキル欄だ。
『刀剣』レベル7
『回避』レベル5
『格闘』レベル2
『感覚』レベル14
感覚だけ一桁おかしくね?
するとケン兄は眉に皺を寄せながら
「う〜ん、多分戦闘した方がレベルが上がりやすいのはわかるんだが・・・」
「ケン兄はいくつ上がったの?」
「俺たちは一時間石を見つめてたが1レベルしか上がらなかった。」
おい、男三人で一時間石眺めてるとか・・・
「ユウは狩りの時に集中してたか?」
「いや、雑魚は集中する必要無い程弱かったからなぁ。でも途中でユニークモンスターの化け猫と戦った時は集中したかも」
「でも、それだけでそんな上がるはずないしなぁ」
「PvPで上がったんじゃない?」
「それしかないよな」
「なるほど、確かにあの時はすごい集中した」
「それで上がったってことはPvPでもレベルが上がるってことだね」
「そういうことだね」
PvPでレベルが上がるのはほぼ確実だろう。
だとしたら俺たちが今からやることは一つ。
「PvPをやろう!」
ケン兄の言葉に全員笑顔で頷いた。