第十話 女の闘い
「はっ! 」
「うわっ!? 」
俺の持っている木刀が、マリの脇腹に当たると、周りに展開されていた不可視の壁は消えた。
「よーし、俺の勝ち〜」
「うわ〜、中学生の妹相手に勝って喜んでるなんて、恥ずかしい〜」
ふっ、なんとでも言え。
勝った奴が正義だ!
俺たちはあの後午後を目一杯使って、広場でPvPをしていた。
武器は比較的人の少ない武器屋で木刀や、木の棒などの安いおもちゃの武器を買って使っている。
そして、今のマリとの闘いで予定していた分は全部終わった。
「ふ〜、流石に30戦は疲れたな」
「結局、またケン兄に一回も勝てなかった・・・」
「ユウ兄はまだいいじゃん!私なんか全敗だったんだから! 」
「そんなんいつものことだろう? 」
「私だってユウに負け越した・・」
「いや、レベル差もあったし、魔法も無かったんだから。逆に三敗した俺の方が落ち込むわ」
みんなが自分のPvPの結果を愚痴る。
俺の対戦結果はこうだ。
vsケン兄
0勝10敗
レベル差が8もあるのに普通に負けた・・・
こっちが敏捷値を活かしていくら速く斬り込んでも剣で的確に捌かれ隙が出来た瞬間打ち込まれる。
そうやってジリジリ削られて負けた。
やっぱりケン兄も人間超えてやがる!
vsリオ姉
7勝3敗
リオ姉に初めて勝ち越した!
リオ姉は木の六尺棒を使って闘っていて、リアルスキルがあるのでスキルを取得していないのに、アホみたいに強かったが、流石にレベル差もあって敏捷とアーツをフル活用して倒した。
セコイ?戦いにセコイもクソもない。
でも同じステータスならたぶん負け越してたから素直に喜べないけどね。
vsマリ
10勝0敗
いや、もう余裕だった。
他のゲームでも10回やっても1回勝てるぐらいなのにレベル差があればもう負けるはずがない。
マリは木の短剣を一本ずつ両手に持って闘っていたが、レベルが1なので速さを使った戦い方が出来ず、敏捷値を上げた俺はすぐに追いつき斬り込んだ。
ただ半端じゃない反射神経でめちゃくちゃ躱されたけどね。
そんな感じで本日の榎本兄弟のPvPが終わると周りにいたギャラリーはバラバラと散って行った。
このギャラリーは俺たちがPvPを始めるとどんどん集まってきて、しまいには広場を埋める程の人数が集まっていた。
一回だけ、ギャラリーから一人のヒゲの生やしたおっさんがマリになら勝てると思ったのか途中で割り込んで来たが、マリに瞬殺されてた。
勘違いしちゃいけないのがマリはこの中では一番弱いかもしれないが、全体からしたらトップクラスの実力を持っている。
並の相手が勝てるわけがないのに、俺たちの闘いを見てもヒゲオヤジは実力がわからなかったらしい。
それからは誰も手を出さず観戦しているだけだったので、邪魔されずに済んでよかった。
「よし、それじゃあご飯を食べてから宿に戻るか」
「お腹すいたー」
「腹減った〜」
「ご飯〜」
俺たちはたくさんのプレイヤーの中をグダグダと東の大通りに向かって歩いて行った。
途中で見つけたお店で夕食を食べたが、メニューは違うが味はファミレスの感じがする。
たぶん、NPCの作る料理はそうなるように設定されているんだろう。
宿に戻ると宿のカウンターの前には見憶えのある姿があった。
「ユリ、俺達に用か? 」
後ろから声をかけるとビクッとしてユリは振り返ると
「あ、ユウか」
「おう、でなんか用事があるの? 」
すると俺の顔を見て顔を赤らめながら
「や、やっぱり知り合いが居るところの方が安心出来るというか・・・そのー・・・ユウがいるからというか・・・」
「まぁ俺しか知り合いが居ないからな」
そう言うとさっきまで赤らめていた顔が不機嫌そうな顔に変わった。
俺は何か気に障ること言ったか?
するとリオ姉が
「いや〜、ゴメンねユリちゃん、こいつどうしようもない鈍感野郎なんだ」
「いや!あの、その、そういうんじゃないです。それにユウが鈍感なのは今更ですから」
「誰が鈍感だ、誰が」
言った瞬間女性側からの冷たい視線にさらされました。
全く失礼な!鈍感どころか敏感すぎるだろ。
もちろん、そういう意味では無いからな!
宿の受付の前で女性達の陰口(本人に聞こえるように)で、メンタルを折られていると、宿のドアが開いて、一組の男女が入ってきた。
はい、アヤと村長です。
「村長どうしたんだ?」
ケン兄が村長に聞くと
「いやぁ、アヤがどうしてもユウ君の・・・」
村長が喋っている途中で一瞬の間に後ろに回り込んだアヤが村長の口を押さえる。
「ほ、ほらこっちの方が賑やかで楽しそうだったからさ!」
村長の口を押さえたままアハハと笑いながらアヤが言った。
するとユリが
「あの人誰? 」
「あいつ?あいつはアヤって言って昔からゲームを一緒にやってるんだよ」
「リアルで知り合いなの?」
「いやリアルではあったことないけど、小学生の頃から色々一緒にいろんなゲームやって来たから、まぁ幼馴染みたいなもんだな」
「へぇー、幼馴染ねぇ」
あの、ユリさん?どうしてそんな無表情なんでしょう?
めっちゃ怖い
するとアヤも俺とユリが話してるのに気づいたようで
「ユウ、その子は? 」
「ん?ユリはリアルで同じクラスの同級生なんだよ」
「へぇー、同級生」
アヤさんも無表情やめて下さい。
ほんと怖い
「初めまして、ユリです。よろしくお願いしますねアヤさん」
「いやいや、こちらこそよろしくねユリちゃん」
ねぇ、なんか二人の間からゴゴゴゴゴっていう文字が見えるんだが。
助けを求めて他のみんなを見回すと全員の慈愛に満ちた視線がこっちを見ていた。
(なぁ、リオ姉、あの雰囲気不味くない? )
(大丈夫よ、これは女の闘いだから口を出しちゃダメ)
(そもそもなんで会ったばかりなのに、こんなに険悪な雰囲気なんだ? )
リオ姉はクズを見るような目で
(その鈍感さはもう犯罪レベルだよ)
そうやってヒソヒソ喋っていると
「ねぇ、ユリちゃん。後で私の部屋で二人っきりで話さない? 」
「奇遇ですね、私もアヤさんと二人で話したかったんですよ」
そう言って二人で笑いあってた。
(仲直りしたみたいで良かった)
(どこをどう見たらそう思えるのよ)
呆れたように言うと村長とケン兄達が喋ってる方に言ってしまった。
アヤとユリの方に顔を向けると二人がこっちを見てた。
正直ちびるかと思った。
「ねぇユウ、明日一緒に、ドクターのところに装備を取りに行こうよ! 」
「ん?そりゃあもちろんいいけど・・・」
なんでアヤは勝ち誇った笑みを浮かべ、ユリは負けたように唇を噛んでいるんでしょう?
「ねぇユウ? 」
「ユリ、どうした? 」
「私も一緒にそのドクターさんのところに連れて行ってくれない?
前から一度会ってみたかったんだ! 」
「別にいいぞ。やっぱあいつも有名だなぁ」
あれ?今度はアヤとユリの表情が逆転してる。
そんなことがありながらダラダラと雑談しているともう21時を回っていた。
「ユウ、そろそろ他のプレイヤーにも迷惑になるし、部屋に戻るよ」
「んー、分かった」
「それじゃあユウ、また明日」
「ユウ、また明日ね」
「あぁ、また明日」
そう言って二人と別れると、村長と話していたケン兄達のところに行き、一緒に部屋に戻った。
部屋に戻ったらすぐにベットに飛び込む。
「あ〜、疲れた〜」
生身の身体じゃないから身体的な疲れではないが、精神的に疲れた。
「お疲れ様」
そう言いながらケン兄が俺のベットの端に座る。
「なぁユウ、フィールドはどうだった? 」
「んー?前も言ったけどお話にならないって」
「デスゲームだとしてもか? 」
「安全マージンを多く取れば大丈夫でしょー」
「そうか」
それだけ言うとベットから立ち上がり電気を消した。
「おやすみ、ユウ」
「おやすみ、ケン兄」
その言葉を最後に俺の意識は途切れた。




