第二十二話 ボス戦前
「すいません。遅れました」
俺達のパーティが東の門の前に到着するともうすでに他のメンバーは到着していたのでケン兄が代表して謝った。
そう、今日は会議で話したように東西南北の各方角のボスを一斉に攻略する日だ。
今の時刻は朝8時少し前、集合は8時ちょうどなので遅れてはいない。が、時間ギリギリになってしまったのは、もちろん俺が寝坊したからね!
もう、リオ姉にいつもの数倍の折檻をくらって俺は既に満身創痍だよ・・・
メンバーは俺たち『四重奏』と村長、アヤ、それに重さんにフーリンなどの待機組の合計12人が揃っている。
待機組の残り4人は、知り合いではなく会議の時に初めて顔を合わせた人達だ。
全身黒一色の軽装で顔はフードのようなもので顔を隠している男の名前はマツと言って、最初は服装から根暗な人かと思っていたら話してみると超ハイテンションな関西人で、なんかちょっと面倒くさそうな人だった。
次は全身をガチガチの甲冑でいかにもタンクって感じの強面のおじさんは、無口なのかあまり話してないので良く分からない。
あとの二人は女性のプレイヤーで、一人は長身、褐色の肌に胸が凄いアマゾネス風の装備をしたステイシアさん。
話をしてみると見た目通り男勝りな姉御風のカッコ良い人だった。
もう一人の女性は小柄で色白、胸は防具で隠れて見えないが恐らく残念な感じで、スカート型の細身な鎧を装備している少女ルナ。
この子とは話していないので良く分からないが、まぁ大丈夫だろう。
なぜなら・・・
女性は二人とも美人だったからね!
ルナちゃんの方は(中学生っぽかったからなんとなくちゃん付け)可愛い感じだけど。
とりあえず可愛い・美人は正義!
既に集まっていた人達がこちらを振り向きそれぞれ反応を返してくれる。
「まだ時間前だから大丈夫だよ。ケン」
「どうせまたユウが寝坊でもしたんでしょ? 」
いつものように穏やかな笑みを浮かべる村長と、俺の遅刻理由を的確に当てながら笑っているアヤ。
今日二人には俺達のパーティに入ってもらうのでしっかりと話し合いをしなきゃな。
「こんな日にも寝坊出来るとは、ユウも大物だな! 」
「俺なんてボス狩り楽しみ過ぎて一時間前に来ちゃったよ」
俺の寝坊を豪快に笑う重さんと、爽やかスマイルしながらとんでもないことを言い始めるフーリン。
もう俺が寝坊したのは決定なんですか重さん・・・
まぁ寝坊したんですけど。
それとフーリン、デスゲームのボス狩りを楽しみにしているのはお前ぐらいだ。
「いや〜、朝から可愛い娘ばっか見れて、お兄さん幸せやわぁ〜」
「・・・」
朝っぱらから黒ずくめの関西人は周りの女性を見渡しセクハラ発言をし、もう一人のガチガチタンクの人は相変わらず無口なようで何も喋らない。
おい、そこの関西人!
マリに手ェ出したらモグぞ!
リオ姉にはいいのかって?
・・・うん、まぁ死にたいならやってみればいいんじゃないか?
「まぁ、寝る子は育つと言うしな! 」
「・・・」ジー
快活な笑い声とともに俺を慰めてくれる美人アマゾネスのステイシアさんと、無言で俺を見つめてくる美少女ルナちゃん。
ステイシアさん、フォローは嬉しいんですけど・・・
ゲームなんで育ちませんよ?
この人もしかして意外と天然なのかもしれないな・・・
あと、ルナちゃん?・・・なんでそんなに俺を見つめるんだい?
無表情で見つめられると、新しい世界に・・・これ以上はアカン。
「全員集まったことですし、出発しましょう」
俺達が雑談をしていると時間になったのか東の攻略班のリーダーである村長の声が聞こえる。
会議の時に、知らない人同士で組んでいるので纏まりがなくなる、と言うことで形式的にリーダーが立てられている。
うちの班は誰もリーダーになりたがらなかったので、一番落ち着いていそうな村長が選ばれた。
ちなみに副リーダーは重さんで、選ばれた理由はただ年をくってるからというだけだ。
雑談をしていた俺たちは会話をやめて村長の方に向き直る。
「準備はみなさん問題ないですか? 」
「大丈夫です」
「いいですよー」
「行けます! 」
「オッケー! 」
「俺も大丈夫だぜ」
「やっと戦えるね」
「準備オッケーや! 」
「・・・」
「問題ないぞ」
「・・・」コクッ
俺の装備も問題無し。
「準備万端! 」
「それじゃあ行きましょうか」
村長の後に続いて町 から出て魔物達のいるフィールドを駆ける。
************
草原フィールドを最短距離で駆け抜け、2時間弱でボス扉の前にたどりついた。
街から扉まではだいたい歩いて五時間程度なので走ればこの位で着く。
これでも戦闘スタイルからAGIにあまり振っていないプレイヤーもいるので遅いほうだ。
「それでは、装備を確認次第、ボスの部屋に突入します」
村長の声に反応して各自自分の装備を確認していく。
俺達の装備はこの前ドクターに頼んで作ってもらったものだ。
今回はしっかり作られたものなので、装備の質は尋常じゃない位高くなっている。
俺が装備しているのは、化け猫の素材から作られたヘッドフォン、アイアンゴーレムから取れた素材を使った胸当て、他の部分はロックゴーレムやマージモスの素材を使った繊維で作られているらしいので防御力は今の時点で最高レベルだとドクターは言っていたが・・・
いや、デザインも中々良くて、服の裾が後ろだけ長かったり、かっこいいデザインが所々に施されているんだけど・・・
色が黄土色って!!
もし、アニメやマンガだったら確実にモブな感じの色だよこれ!
ここにいるメンバーは一人を除いてみんなアニメの主役か?と思うぐらいの顔と服を着ていて、(重さんはかっこいいけど年齢的になんか違う)さらに俺の兄弟の中でもケン兄に至っては、整った顔と南の廃墟で倒したユニークモンスターの素材から作られた黒のコートを羽織っていて、もうTHE主人公みたいになってる。
それに比べて俺はなんだよこれ!?
顔も並なら服はモブっぽい、挙句にヘッドフォン装備とか・・・
もう泣きたい・・・
だがしかし!
俺にはこの中でも一番良いかっこいいと断言できる装備がある!!
それはアイアンゴーレムが守っていた鉱石、ロッククリスタルを使ったバスタードソードだ!
柄は俺の手に合わせて作られているので握りやすく、柄巻きもしっかりされていて滑ることもない。
鍔の中央にはライトグリーンの魔法石が埋め込まれていて、横に伸びている鍔には先から中央の魔法石にかけて、銀色の装飾が施されている。
そして、ロッククリスタルを使った刀身は鍔に埋め込まれている魔法石と同じライトグリーンだが、透明度が高く、光にかざすと光を反射し輝いて見える。
この剣の名前は【ヴァンクラルテ】
これをドクターから受け取った時は、もう本当にドクターに感謝した。
まぁその後この防具を渡されて一気にテンション下がったけど。
俺の装備はこんなものかな。
実はもう一つ、ドクターが折れた【狼刀・改】を改修してくれたので【狼刀・改+】を予備で持っているが、【ヴァンクラルテ】の方が圧倒的に性能が良いので使うことはないだろう。
あとは、HP、MP、SPの各種回復薬などの消耗品をチェックしてっと・・・
よし、準備完了!
周りの人もぼちぼち準備が終わったようで、気を引き締めた表情で他の人の準備を待っている。
「ふぅ・・・」
俺も正直不安はある。
死んだら終わりの世界で実力が未知数のボスに挑むというのは怖い。
俺達はゲーム内ではトップに近い実力を持ってると思ってる。
けどそれでも負けることはある。
いや、負けることは実際これまでのゲームで数えられないほどあった。
自分より強い的に倒されること、弱いと思って油断して足下をすくわれたこと、少しの失敗で負けてしまったことなどいくらでもある。
それもVRMMORPGを始めたばかりの頃だけでなく、ここ最近でだって負けることなんてザラにあった。
だけどゲームならそれでいい。
負けても生き返るんだから、何回死んだって最後に勝てばいい。
だけどここは違う。
一回死んだら終わりのデスゲームでは、二度目は無い。
それにこれは俺一人の問題じゃない。
もし兄弟の誰かが死んだら、俺達はたぶん戦えなくなる。
少なくとも俺はもう戦うことは出来なくなるだろう。
「それじゃあ行こうか」
ネガティブな思考にとらわれはじめていると村長から声がかかる。
周りを見るとみんなは既に準備を済ませて扉の前に集まっていた。
俺も慌ててそっちに集まる。
ボスと戦うメンバーと、扉の前で待機する組で別れて向かい合う。
「それじゃあ、重松さんお願いします」
代表して村長さんが副リーダーの重さんに挨拶をする。
「おう、任せときな!そっちも頑張れよ! 」
「こんなところで死なないでくださいよ」
「お嬢さん達、気ぃつけてな! 」
「・・・」
「サクッと倒してきなよ! 」
「・・・」ジー
待機組から声援を送られる。
「じゃあ、いってきまーす! 」
「あとはよろしくお願いします」
「皆さんも頑張ってくださいねー」
「頑張ります! 」
みんなが明るくエールを送り返す。
そんな光景を見ると、余計にさっきの考えが恐ろしく思えてくる。
すると、不意に肩を叩かれて振り返ると、村長が立っていた。
「戦うのが怖いのかい? 」
そう静かに尋ねてくる。
「戦うことは怖くありませんけど・・・、もし誰かが死んだらと思うと・・・」
「私達を信じなさい」
「え? 」
「私たちはパーティなんだ。お互いに信じ、守り合えば必ずこのボスも・・・いや、このゲームも攻略出来る。それに君たちはこれまでそうやって来たんだろう? 」
そう言って俺から離れて扉に向かって行く村長。
その後ろ姿を見ていると
バンバンと背中を叩かれて振り返ると
「ユウ、何暗い顔してんの?シャキッとしないと! 」
「ユウしっかりしてくれよ? 」
「ボヤボヤしてるとやられるよ! 」
「しっかり!ユウ兄! 」
アヤ、ケン兄、リオ姉、マリがすぐ近くにいた。
四人とも負けるなんて露ほども思ってないような笑顔で話しかけてくる。
いや、本当に俺は何を柄にもなく暗くなってたんだ。
負けるかもなんて思ってちゃ勝てるものも勝てなくなっちまう。
それにデスゲームのボス戦前でも笑っているような心強い仲間がいるんだ。
もう本当、さっきまでのシリアスはどこ行ったって感じだわ。
うっし!気合入れて行こう!
ボスなんて余裕余裕!
「ごめんごめん、もう大丈夫! 」
俺達は扉の前にいる村長のところまで行く。
「準備はいいかい?」
村長の問いに俺達は頷く。
そして数秒後俺達の体は光に包まれた。




