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最終話~過去、現在、未来~

※稀に最終話から読まれる方がおられますが、最終話を先に読んでしまうと、ネタバレ&意味が判らないと思います。出来れば1話から読む事をおすすめします。




 ◇◆◇


 ~十年後~


 何処までも果てしなく続く青空を見上げれば、夏の訪れを知らせる大きな雲がゆったりと流れている。僕は相変わらずこの空を眺めながら、スージーの事を考えていた。


 あんな事があってから、もう十年の時が経つ。今や、スージーは当時の僕と同じ、三十五歳になった。

 彼女と出会ってから既に四半世紀が過ぎている。時の流れの速さに気持ちが追いついていかず、思わず苦笑いが出た。


 スージーは歳を重ねるごとに素敵なレディへと成長し、その姿は誰もが目を見張るほどだった。少し妬いたりする事もあったが、美しい彼女を持つと言う事は、男としてまんざらでもない。


 彼女が喜んでいる時は共に笑い、誰にも悟られないようにこっそりとキッチンで泣いている時は、何も言わずただ静かに背中を抱きしめた。


 スージーと過ごした全ての時間が、僕にはとても大切で意味のあるものだと感じていた。


「――、……?」

「リオ? リオ! 何処なの?」


 僕の膝を枕がわりにして頭を置き、ブランコに横になってリオは眠っている。リオを探す声が聞こえて、僕はハッと我に返った。


「リオ……。ほら、お母さんが君を探しているよ」


 リオの肩を何度か叩いてみるが、リオはぐっすりと眠ってしまった様で全く起きる気配がない。

 芝を踏みしめる音が徐々に近づいて来たことで、彼女がすぐ側まで来ていることがわかる。


「こっちだよ」


 そう声を掛けると、目の前に現れた彼女はブランコですっかり眠ってしまっているリオを見つけて安堵の溜め息を吐いた。


「もう、リオったら。こんな所で寝たら風邪引くじゃない」


 眉間にしわを寄せながら、僕達の方へ近づいてきた。


「あ、ごめん。家の中に連れて行くべきだったね。つい、僕が考え事しちゃってて……」


 彼女はリオの足元側に腰を下ろし、リオをすっぽり包み込んでいる僕のシャツに手を這わした。


「また……先生のシャツを――」

「何もかけないよりかはましかなと思って。無意味だったかな?」


 困った様な顔をしてその女性は微笑んだ。

 笑うと目尻に出来る皺で、その人柄が滲み出ている。彼女は小さく溜息を吐くとさっきまで僕が見上げていた空を見上げ、独り言を言うように小さな声で呟いた。


「……先生?」

「ん? 何?」

「実はね……。私、プロポーズされたの」

「――そう……」


 そう言うと、僕達の間で眠るリオに視線を落とし、まだ幼いリオの髪をかき上げている。お目出度い話なのに、何故か彼女は浮かない顔をしていた。


「隣町の人なんだけど、とても私達に良くしてくれる人なの。リオも彼になついているし……」

「うん……」

「時々、この子にも父親が必要なのかな、って思うことがあって。パパの事を何度も聞いてくるしね。先生、貴方はどう思う? 私、やっぱり身勝手な事……言って、るの……かな?」


 伏せた目から涙がポトリと落ち、それによって僕のシャツに染みを作る。

 彼女はずっと女手一つで、自分の事よりも常にリオを優先してきた。そろそろ、彼女自身の幸せを考えてもいいはずだ。

 そう思った僕は、一つの決心をした。


「君が幸せになれるのなら、心から祝福するよ。僕は君の幸せを一番に願っているんだから。……でも、もしその人が君を泣かすような事があれば、すぐに僕を呼ぶんだよ? 僕の名前を呼んでくれたら、すぐに駆けつけるからね」


 悩んでいる彼女を見て僕は手を伸ばし、彼女の頭をポンポンと軽く触れた。


「……――!」


 その時、ぶわっと強い風が彼女の髪を吹き抜け、大きく目を見開いた彼女は俯いていた顔を咄嗟に上げた。


「今のって、……もしかして」


 両手で心臓の辺りをぎゅっと掴む。そっと目を瞑ると、穏やかな笑みを浮かべた。


「ミック……ありがとう」


「ケイト? ケイト、居るかい?」


 表の方で、彼女を呼ぶ優しそうな男性の声が聞こえる。


「ほらっ、彼が来たよ。行っておいで」


 僕がそう促すと指先で涙を拭い、その声のする方へと向かった。家の角から出てきた男性と出くわし、驚いた彼は彼女の両肘を掴んでいる。


「ああ、ケ、ケイト、ここに居たんだね。いや、特に用事があった訳じゃあないんだけど……その、元気かなぁってね」


 取って付けたような理由に、彼女はクスクスと笑いだした。


「今朝、会ったじゃない?」

「ん? ああ、そうだったかな?」


 二人で笑い合い一息つくと、その男性は真剣な表情に変わった。


「あの、本当はね。君に会いたかったんだ。その、よければ返事を貰えないかなって思って」


「私も――。私も貴方に会いたかったの。貴方と結婚したいって伝えたくて」

「ほ、本当に?」


 彼女は黙ってコクリと頷いた。

 思いも寄らぬ良い返事に、その男性はホッと安堵の表情を浮かべると、すぐに彼女をキツク抱きしめながら誓いの言葉を口にした。


「絶対幸せにするからね、約束するよ」


 午後の柔らかな日差しが二人を優しく包み込み、やがて二人の影は重なっていった。


 これで彼女も一人じゃない、やっと、自分の幸せを掴む時が来た。祝福すると言ったものの、本当は寂しい思いで一杯だった。そんな気持ちをぐっと堪え、僕は立ち上がり二人に背を向けると、両手を空に向かってグンと伸ばした。パタンと脱力してそのまま手をポケットに突っ込み、もう一度二人を振り返る。


「君と巡り会えた事を、心から感謝してる。――ありがとう、スージー……幸せになるんだよ」


 そう言い残すと、僕は又背中を向けてゆっくりと歩き出した。


 青々と生い茂った芝に足を踏み入れ、青空を見上げた。目を閉じ、大きく息を吸うと晴れやかな気持ちになる。


 もう、僕の役目は終った。


 彼女はこれから僕の居ない人生を歩んで行く。少し寂しいけれどいつまでも僕を想い続けて彼女が幸せを逃して行くのを、何も出来ずにただ黙って見ているよりかはこの方が幾分いい。


 もう二度と、僕の名前が呼ばれることが無い事を願いつつ、まるで背中に羽が生えてきたかの様に、僕は反射する太陽の光に包まれると徐々にその姿を消して行った。


 ありがとう、スージー。いつまでも愛してるよ……。


 そんな言葉と共に……。








 ~THE END~


こんにちは、この度はご訪問有難う御座います。


今回で、『青空の下で君を想う時』は完結致しました。

このお話は、全体的にちょっとまったりとしていますが、個人的に好きなお話だったりします。

少しでも、楽しんで頂けているといいのですが・・・


さて、一応、明日or明後日から『運命の人』の第4章をUPしていきたいと思います。

どうぞ、生暖かい目で見守って下さい。


では、又のお越しをお待ちしております。


PS:少しでもこのお話が『良かった』と思えた方、もし、いらっしゃいましたら、拍手をポチッとして頂けると、単純な私は嬉しすぎて小躍りします!

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