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料亭料理

 「ちっとやばい」ある日大地が投稿した。

 「どうした?」

 「何何?」

 「家政婦さんが来ることになったらしい」

 「家政婦さん?」

 ファンは紛糾する。

 「出た、金持ちワード」

 「何で家政婦? 朱里が料理作れなくなった?」

 「朱里飯見られなくなるのいやだー!」

 紛糾を抑えるべく、大地が続けて投稿する。「朱里のご飯マジでうまいのに、勘違いしてるのかも」


 その晩のことである。

 「なんかいっぱいすごい」

 そんなコメントと一緒に載せられた写真は、ダイニングテーブルに並びに並んだ和食の数々。メインの天ぷらを中心に、小鉢がいくつも付けられ、お吸い物に漬物までとあたかも高級旅館の体を成している。

 「はあ」

「昨日とのギャップ」

 「すごいですね」

 とりあえずファンはそれしか言えない。今まで朱里飯だからこそさんざん騒ぎに騒いできたので、いざ本職の仕事が出てくるとどう反応していいのかわからないのだ。しかししばらくすると、

 「俺らが見たいのはこれじゃない感」

 「朱里飯を返せ」

 「人間国宝の皿に『調和』してる。人間国宝の皿に『勝てる』のは朱里飯しかない」

「朱里は?」

 「朱里どうしてる?」

 大地、「朱里ご飯食べてる」と投稿。

 「自分の飯とプロの飯比較されてかわいそう」

 「朱里飯なくなるんですか?」

 「家政婦さんいつまでいるんですか?」

 「朱里元気出してほしい。俺らは朱里の味方だ」

 コメント欄は応援の言葉で一気に埋まっていく。しかし大地の返答はない。

 それらに対する返答として深夜に始まったのは、大地のリアルタイム動画だった。


 リビングと思しき部屋でソファに座って、おそらくはスマホで撮っているのか、画像は暗かったがそれよりを目を引いたのは、大きな窓の外に拡がる夜景である。都会の街並みが一望できる光景に、ファンは瞠目する。どう見ても高階層のマンション。さらに、目ざといファンは大地が座っているそのソファにも言及した。

 「これカッシーナじゃね?」

 「インテリアどうなってんだ!」

 「てか、テーブルもカッシーナ 今まで全体見えてなかったけど」

 「奥見て、ワインセラーがある」

 初めて見る大地のリビングの様子にチャット欄が次々に埋まっていく。

 唐突に大地の、ライブMCでおなじみのいつもの茨城弁トークが開始された。

 「あのな、今日のごどみんなに説明しどぐど、朱里の飯が想像以上に話題さなって、それが朱里のおっかさんに見っかって、そんでなんでか家政婦呼ばれる騒ぎになっちまったんだ」

 「お母さんはなんて?」

 「お母さん朱里飯に絶望し家政婦を召還」

 大地は首を傾げつつ語る。

 「朱里のおっかさん、朱里の飯食ってねえからか、美味ぐねえって思いこんでるっぽいんだよなあ。えれえ勘違いだべ。うめえのに」

 「大地の愛が最大の調味料」

 「愛の深さに泣ける」

 大地は腕組みしながら言った。

 「ほんで家政婦さん寄越すって言われてよお、そらあそれで朱里楽できるからいいのがなって思ってたら、朱里、なんかさびしそうなんだ。ほんで話聞いたらよ、料理自分でやりてえんだど」

 「泣ける」

 「大地への愛」

 「20歳バンドマンとは思えぬ発言」

 「ここでみんなに色々教えてもらっだごども、すげえ嬉しがっだみてえだ。ほら、普段朱里おめらと喋れねえかんなあ。こういう形でもやりとりできるのは、嬉しかったみてえなんだ。あとな、ルアンにも実は料理教わることあってな。こいづの母ちゃん昔ベトナム料理屋やってだぐれえだから、なっかなか料理巧ぇんで。そういうことひっくるめて朱里、てめえで母ちゃんに説明しだら、ほっだら朱里が作れねえ時だけ家政婦さん頼むってことで落ち着いて。明日からはまた朱里が飯作ることになりました」

 大地はそう言ってにっこりとほほ笑む。

 「良かった!」

 「うれしいです!」

 「朱里飯万歳!」

 「でも何でだっぺな、旨いんだど? 朱里が作ってくれたご飯。俺の好きなのいっぱい作ってくれるし」

 大地はそう言うと、チャット欄に質問が来ていることに気づく。

 「なんだべ、こら。ひどづ答えさせてもらうべかな」

 「大地さんは料理しないんですか?」

 「ああ、朝は結構作るど? おにぎりと卵焼きとかだけど。あんま朱里に労力かけたくねえし。昼は適当にどっか食べに行くこともあっけど、作る時は俺か朱里か半々って感じだな。んで夜は朱里がまいんち頑張って作ってんだ」

 「朱里飯で一番好きなメニューはなんですか?」

 「おおおお」大地は頭を抱える。「こら難しいな。全部好きだ。全部うまい。マジでうまい。でも一個だけっつったらやっぱおいなりさんかな。特に畑耕した後外で食うとバリうまい」

 「食器の総額教えて」

 「わがんね。朱里の母ちゃんが新婚祝いだって送ってきたやづだから」

 「新婚祝いだったのか!」

 「名家確定」

 「ソファとかテーブルとかインテリア系は朱里さんが選んだんですか?」

 「違ぇど。朱里の母ちゃんが、インテリアコーディネーターって人に言って揃えさしたんだちけ。朱里は音楽のこと以外は、あんまこうしてえああしてえってねえがんな。でもすんげえふっかふかすんだ、これ。だから気に入ってる!」そう言って大地は両手でソファをぐいぐい押してみせる。

 「ヤバい、住居者何もわかってない」

 「ふっかふかの一言で済まされるカッシーナ」

 「朱里ちゃんの実家議員だって噂出てますが、本当ですか?」

 大地は目を瞬かせて、

 「ううん……そらあ、あんま言っちゃいげねえど思うから、それは黙っとく。悪いな。俺のことだったら全然いいけど」そう言って胸を張る。

 「うぢは農家だ! 米、梨、ネギ、白菜、色々やってる。下妻で江戸時代からやってる農家だ。こんで我慢してくろ」

 「知ってる」

 「江戸時代はすごい」

 「朱里の実家守るために自分ち犠牲にできんのかっこいい」

 「自慢げでかわいい」

 「料理出す時、何のメニューなのか朱里ちゃんは教えてくれるんですか?」

 「別に何も言わねえど? 食えばわかるし問題ねえべ」

 「本当に食えばわかるのか?」

 「さすがに大地ハッタリでは?」

 「朱里ちゃんはSNSやらないんですか?」

 「朱里は喋れねえし、あんま人づきあいっつうもんが昔っから得意でねえがんな。代わりに俺が発信すっから、それで我慢してくろ」

 「出待ち入り待ち勢は改めて心に留めるべし」

 「朱里ちゃんファンレターは読んでくれてますか?」

 「そらあ当然ちゃんと読んでる。プレゼントで最近、料理の本くれる人もいっぺえいっけど、あれも全部朱里読んでっから。あと、こういうどごに朱里宛に書き込んでくれた料理のコツ、みてえなのもきちんと読んでメモしてる。みんなありがどな」

 「朱里飯楽しみにしてるって伝えてください」

 「わがっだ。ありがとう」

 そんな形でとりあえず配信は終わった。

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