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おいなりさん

 翌日は夜を待たず、お昼に大地のポストが投稿された。

 「俺の大好物! 外で食うとマジうまい!」

 弁当箱と思しき中身には米粒がいくつも付着した、茶色い袋。そこからさらに米が零れている。もはや残飯の様相である。それはいつものダイニングテーブル上ではなく、田園風景を背景にした写真だった。おそらくは、日ごろから大地が公言している農家としての仕事の合間に撮ったものと思われる。

 SNS上ではにわかに騒ぎ始める。

 「農家の長男の日常を見られるアカウントはこちらです」

 「注・メタルバンドのボーカリストのアカウントです」

 「で、これ何?」

 ファンはしばし、考える。

 「混ぜご飯?」

 「ドライカレー?」

 数時間後、再び大地の投稿。「朱里、また悩んでる。誰かわかる人いたらよろしく。→おいなりさん 油揚げからおこめ飛び出します。どうしたらいいですか?」

 「おこめ飛び出します→もうダメ」

 「米が自由を求めすぎている」

「油揚げが限界まで戦った跡が見える」

 「朱里定型語法→〇〇します。どうしたらいいですか?」

 「見た目と大地のテンション不一致すぎる」

 ここにも主婦勢が参戦してくる。

 「難しいよね。そっと優しく、ゆっくり、焦らずやればだいじょうぶ」

 「油揚げ箸で広げるといいですよ」

 「破れても包んじゃえばOK」

 再び大地「どうもありがとう。次は飛び出なさそうって朱里よろこんでいます」

 どうやら朱里の毎日料理に勤しんでいることが、ファンの間で浸透し始める。するとある変化が生じた。それまでIN YOUR FACEアカウントに反応してみせるのは、そのほとんどが知る人ぞ知るコアなメタルファンばかりであったのに、当たり前に主婦層が参入してくることになったのである。

 「朱里ちゃん一生懸命料理頑張ってて偉い」

 「学生結婚してバンドもやって毎日料理してるの本当すごい」

 「うちの娘息子にも爪の垢煎じて飲ませたい」

 朱里飯は大地の惚気と共に更新されていく。

 「うまい! 最高!」

 そんなコメントはほぼ無視される。重要なのは写真である。要解析の、写真である。しまいには、朱里飯は料理コンテンツではない、夫婦愛観察のコンテンツだというような、名言だかなんだかわからないコメントまで登場してくる始末。

 ともかく、日頃冷徹な眼差しでギターを奏でるコンポーザーが、連日料理を失敗(と大地は言っていないが)させていることを知ったファンたちは、いつしかこれを「朱里飯」と呼んで楽しみに待つようになったのである。

 

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