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冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい  作者: 喜楽直人
冷めたイモフライは本当は誰かに愛されたい
14/57

14.それは悪魔の微笑み



 おじいさんが、後ろについてきていたらしいマダムに向かって「いいだろ?」と笑顔で問い掛けた。

 どこまで会話を把握しているのか分らないけれど、まったくなにも説明を聞かされていないにも拘らず、マダムは「あなたがいうなら」と、笑って請け負ってしまった。


 貴族相手の商売で、どこの馬の骨かわからない私の様な平民に接客させていいのだろうか。

 本当は、阿漕な商売に飽いていて、潰しちゃいたいとか?


 これだけ手の込んだ空間を作り上げているのに。そんなまさかよね。


 頭の中で愚にもつかない思考がグルグルと巡っていく間にも、慣れた仕草でワインボトルの栓を客の前で開けてみせる黒服をきたスタッフの動きを見ていた。


 遠目からでもわかる綺麗に磨かれたグラス。シミのない壁紙やカーペット。

 部屋の隅にも埃どころか塵ひとつない。

 なにより、いま自分の手で触っている艶のある階段の手摺りが、それを毎日綺麗に磨いている下働きの勤勉さを物語っている。


 このお店を維持管理する為に割かれたすべての労力。

 その仕事が上質であることは、私みたいな部外者にもすぐわかるほどだ。


 すべてが行き届いた空間。

 下町の総菜屋とは全然格が違う。


 接客をしている女性の動きも令嬢教育が垣間見える美しいもので、笑う仕草も色気はあっても下品さとはほど遠い。



「私なんかに接客されたら、客を怒らせちゃうかもしれないわよ?」


 いや、確実に怒らせる。私が貴族令嬢として作法を勉強したのは遠い昔のことだ。

 正直なところほとんど覚えていない。カッツィひとつだってまともにできる気がしなかった。


 賭けの内容とはまったく違う部分で尻込みしましたと、不戦敗を申し込んでもきっとおじいさんは受け入れてくれないだろう。それは私もなんとなく嫌だった。


 でも、お店の迷惑になることも嫌なのに。


「おや。美人なら簡単なんだろう?」


 あくまで軽く言うおじいさんのその笑顔の迫力に、おもわず怯む。

 なんだろう、妙な圧を感じる。


 強面でもなければ、これ見よがしに筋肉自慢という訳でもない。

 ただ普通に、立っているだけなのに。


 有無を言わせぬ迫力を感じて、おもわず一歩、後ろに下がってしまった。



「さぁ。マダムについて行って、この店での接客の基本を教えて貰っておいでよ」


 おじいさんは、私が尻込みした理由もなんとなく分っているみたいだというのに、それを完全にスルーして、にこやかな笑顔で私を送り出したのだった。


 悪魔かよ。


 くっ。




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― 新着の感想 ―
[一言] おじいさん、言葉の節々に愛情を感じるとはいえ、すごくサディスティックですね…わざわざここまでサディスティックなことを言ったりしなくても、と思いはするのですが、どこか心が曲がっている彼女を整え…
2023/05/09 11:39 退会済み
管理
[良い点] ほんとに悪魔ですべて幻……なんてユメオチにはならないでしょうけど……なんなんだー!w
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