第1話その21『友達でいよう。これからも』
「────サヤマさん」
サメジマを沈めたイルマは静かにサヤマに歩み寄る。
「少し話をさせて貰えるかい」
断る理由など無いサヤマは「うん」と静かに頷いた。話というのは先に渡された瓶の事だろう。イルマはサヤマの前に両膝をつき、少しだけ間を開けてから、ゆっくりと口を開いた。
「あ、あのね……サヤマさん」
先程までの強い存在が嘘のように今は弱々しく声を震わせ言葉を紡ぐ。
「サヤマさん、ごめんなさい。君の大事な大事な、大事なペンダントを壊してしまって。もう二つとない大事な物を壊してしまって。それに君を裏切った。君に友達になろうだなんて言っといて、僕は君の物を盗んでそれを壊した。だから、本当に、本当に、本当に、ごめんなさい」
深く謝る。
「イルマくん────」
サヤマは撫でた、そっと優しく。今にも壊れてしまいそうに弱々しく震えるイルマをそっと優しく包み込んで。
「イルマくんいいんだよ。君は何も壊してないんだよ。だってほら、ペンダントはここにあるじゃない。良いんだよイルマくん。君は悪くない。悪くないんだよ」
サヤマはイルマの手中に瓶を包ませて、その上から力強く彼の手を握る。
「君が綺麗だって褒めてくれたから、だからもっと見ていて欲しいって思って渡したんだよ。それで今日ここにほら、確かに君が返してくれたじゃない。ここに確かに君は返してくれたんだよイルマくん。だからイルマくんは悪くない。何も悪くないんだよ」
「サ……サヤマさんっ…………!」 涙が溢れる。
「それにね、君が好きでやった事じゃないってわかってるから。君は何も悪くないんだよ」
「違う……違うんだよサヤマさん。僕は、僕は、自分が助かる為に壊したんだ。自分が助かる為に君から盗んで……」
「そんな事無いよ。君は私も守ろうとしてくれたじゃない。だからもう、自分を責めるのはやめようよイルマくん」
大粒の涙が流れた。サヤマの優しさに当てられて隠そうとしていたものは曝け出されてしまう。
「痛かったね。苦しかったね。怖かったよね。だからイルマくんは悪くない。絶対にイルマくんは悪くないんだよ」
イルマが壊れてしまわぬようにサヤマはもう一度、今度はその小さい体を精一杯に大きく大きく広げ強く、強くイルマを抱きとめる。もう一度彼が遠くへ離れてしまわぬように、強く。
「痛かった……! 苦しかった……! 怖かったんだ……ぼ、僕はっ! でもそれだって君はずっと一人で耐えてきたじゃないかサヤマさんっ! それなのに僕は……僕はずっと!」
溢れる涙と鼻水は留まることを知らず。時折しゃっくりと嗚咽を混じらせつつも必死に言葉を絞り出す。
「遠くから見ているだけで何もしなかったんだ! 見えていたのに! 知っていたのに! それでも君は一人で耐えていたじゃないかサヤマさんっ! ずっと……ずっと! さっきだってあんなに囲まれて酷い目に遭わされていたって君は、サヤマさんは負ける事無かったじゃないか! それなのに僕はたった少しで、たったの少しだけで僕は! 僕はあの時に死んでしまえばよかったんだ! 君のように強く耐えて、どうせサメジマの言いなりになるくらいだったらいっそあの場で死んでしまえば良かったんだ! 本当はもっと耐えられたんだ! それなのに! 逃げ出したんだよぉ!!! 僕は君を裏切って! 逃げ出したんだぁ……!!! うああああああああああああああああああああ」
「逃げてなんかない! いっそ死んでしまえば良かったなんて絶対に思わない! イルマくん! 流石に私は怒ったよ! いま本当に君の事を怒ったよ!?」
強く抱きしめていた両の腕は今度はイルマの顔をガッツリと掴んで目を開かせた。イルマの視線には初めて怒りの顔を見せるサヤマの姿が強く映る。
「死んでしまえば良かったなんて言わないで! 死んでしまえばそこが終わりなんだよ!? たった1回挫けたとしたって、次また頑張れば良いだけじゃない!!! それに君は逃げてない! ここにこうして戻ってきて、今度は私達を守ってくれたんだよ!? 本当に逃げ出したのなら、ここにペンダントを持ってこない! ここに来て彼らと戦わない! 君は、君は勇気を出して確かに立ち向かったんだよ!? そんな勇気ある私の大事な友人を酷くいうならもう一度深く謝って!」
「???……あぇ……? えぇっと……その、ごめんなさい?」
声にもならない声とはこの事かと思えたし、彼女が誰への謝罪を求めているのかわからなかったけど、それでも、イルマはもう一度深く頭を下げると……。
「……良いよ、イルマくん。わかったよ。君の気持ちは確かに伝わったから、私は君を許してあげる。だからもう自分を責めないでよね。それでお終いなんだから。それと、ね? これからも、また友達になってくれるかな。こんな私だけど、もう一度私と友達になってくれるかな」
サヤマはイルマの手を取りじっと見据えて静かに言った。その目には大粒の涙を浮かべて。
「……こちらこそ、だよ、サヤマさん。君さえ良ければ……僕の方、こそ、お願いするよ。僕の方こそ……! ありがとうサヤマさん。ありがとう。ありがとう……!」
晴れ渡る空の下、二人は大いに泣いて笑った。いま自分が感じるものを何一つ隠さず全てを曝け出して。
天からは、暖かい光が祝福する様に。




