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守護の魔王─最弱魔王の転生─  作者: 芯ノ一
はじまりと出会い
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出発

 リアンとメルテロリスは一時的な協力関係を結んだ。ならば話そうと、リアンは足のことをメルテロリスに伝えた。加えて、このあたりの地理を知らない事。最低限の服と現金しか持ち合わせていない事。


「俺が言うのもなんだけど、あんた結構謎だな?」

「気が付いたらここにいたのだ。仕方がない」

「気が付いたらここにいた?」

「そうだ。まあそれはどうでもいい」

「えー……」


 リアンはレイから受け取ったショルダー式鞄の中身を物色しながら考えた。

 メルテロリスの協力も得られた事であるし早々に街へと移動を始めるか。それとも一夜明けるのを待つべきか。

 時は昼過ぎ。日も傾き始めた頃。精霊の森は朝と変わらず涼やかで静かだ。


「なあその鞄、何か食いもんはいってねぇの?」


 ジッとリアンの鞄を見詰めるメルテロリス。


「あいにく、食物は入っていない」

「う〜俺、もう四日は何も食べてねえんだよ……腹減ったぁ〜」


 メルテロリスは黄緑の芝生に座り込んでそう嘆く。四日で腹が減るということは、まだ成人していないのかもしれない。外見は少し童顔な青年ともとれるが、どうなのだろう。何であれ、ずっと空腹というのは好ましくない。

 しかし、精霊の森は黄緑の木ばかりで他の樹木などが生育する隙がない。つまり天然の果物などは存在しない。腹が空いたと言うのなら、早く街へ向かった方が良さそうだ。


「ここから街までどの程度か分かるか」

「そうだなー。一番近いのは森を西に出て、少し行ったところにある農村かな。でもそこはちっさい村だから奴隷の店なんてないぜ。農村から馬車になると思うな」

「なるほど。農村までは?」

「ん〜分かんねえ、今森のどこら辺なのか分かんねえし。まあ星か山でも見えりゃ方角は分かるぜ」

「そうか」


 一人で旅をしていたと言うだけあって、その辺りには自信がありそうだった。

 鞄から一着の上着を出してメルテロリスに差し出してみたが、勿体無いと言って遠慮された。本人も今の服装は腑に落ちていないようだが、枷が取れるまでは何を着ても同じだと言う。それならと、リアンはその主張を受け入れた。寒くなったら借りるとも言ったので、痩せ我慢ではなさそうだ。


「今から歩き続けられるか?」

「おうおう俺は有角族指折りの武闘派……の、出身だぜ?舐めんなよ!」

「それは僥倖」


 ない袖を捲くるようにジェスチャーまでしてアピールしてくる。少々自信家の気があるようだ。大丈夫だろうか。


「では行こうか。あと四時間は日が落ちないだろう。それまで進もう」

「おう、てかその椅子、森の中進めるのか?」

「まさか。車輪で森は中々困難だ。そこはお前に頼ることになる」

「つまり……?」


 リアンは何でもない事のように言う。


「この椅子の背面には背負うためのハーネスが付いている。私が椅子を背負うから、お前は私を背負ってくれ」

「おん?何か面白い事になりそうだな、俺は椅子を背負ったあんたを背負うのか?」

「そうだ。いけるか?」

「問題ねえぜ。俺は有角族指折りの武闘派のフル……げふんげふん、おっと、とにかく武闘派だぜ!それくらいなんてことねえ」


 フル……何と言いかけたのだろう。不自然すぎるほど不自然に誤魔化して、少し不安げにちらりと見てくるものだから、何も聞こえなかったと無言で微笑ってやる。ホッとあからさまに息をつくメルテロリス。どうやら分かりやすく隠し事があるようだが、それはリアンとて同じ事。それと同様にどうでも良いことだと判断した。


「じゃあ取り敢えず大雑把に、日の向き的な西方向へ向かうぜ。夜になったら星で判断するんだ」

「任せよう」


 背の高い木々に囲まれているため、ここからは小さな泉の範囲内しか空が見えない。もちろん山なども見えない。

 しかしメルテロリスはさっさと方角を確認するとリアンを椅子から降ろして椅子を背負わせ、その前にしゃがみ込んだ。思いのほか大きいその背に手を伸ばし、促されるまま体を預ける。メルテロリスがふらつくことなく立ち上がると、リアンの視線は随分高くなった。自分も背負っているから分かるが、この自走椅子はそこまで軽いものではない。有角族は魔力の多さが特徴であるが故、戦士であっても魔法頼りの者などは体を鍛えることなどあまりしないが、メルテロリスは体も鍛えるタイプの男であるようだった。自身も槍を振っていた経歴のあるリアンとしては、好感が持てる。


 背負われながら黄緑色の森を進むと、数十分もしないうちに景色が変わった。


「お?なんだ?森から出たぞ?」


 黄緑に苔満ちた森からいきなり開けた視界。広がる草原。背後を振り返ると、先程までとは違う深い緑の葉の木々が森の始まりを告げている。明らかに不自然であったが、動揺するメルテロリスとは対照的にリアンは落ち着いていた。感心するように森を見て、礼を口にする。


「お見送りありがとう。見事な術だった。心遣い感謝する」


 その時、さらりと柔らかな風が二人を包んで消えていった。


「誰かいんのか?」

「恐らく精霊だ。どうやら森の出口まで送ってくれたらしい。お前からも礼を言っておくといい」

「せ、精霊?わわ、あ、ありがとう、ございました!!」


 姿の見えない存在に向かってしっかりと謝意を示したメルテロリス。しんと静まった森は何も言わない。


 顔を上げ前に向き直って進もうと森に背を向けた時、小さく、気のせいかと思うほど僅かなコロコロした笑い声が二人の耳に届いた。

 再び振り返ってメルテロリスは森を見詰める。


「俺、精霊って初めてだ」

「……お前。精霊に連れられて私のもとまで来たのだぞ」

「え!?そうなの!?」

「小精霊という精霊だ。精霊の森以外にも存在している」

「マジかー。気付かなかった……そういやなんか声に釣られて歩いていったような?夢かと思ってたぜ」

「気に入られればまた会う機会もあろう」

「そっか!楽しみだな」


 少し上機嫌になったメルテロリスは一つの山を指して、その方向を目指せば農村に着くはずだと言って歩きだす。日はまだ高く、十分に明るい。解放的な道中は、森とはまた違った爽やかさを伴って二人を迎えた。



ありがとうございました。

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