↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
動物病院日誌   作者: じょんどぅ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
315/395

新緑のひかりと、初夏へのバトン、あるいは季節を駆け抜ける準備

新緑のひかりと、初夏へのバトン、あるいは季節を駆け抜ける準備


### 1. 五月の終わりに、きらめく緑


五月の終わり。京都の街を彩った薄紅色の桜はすっかり深い青葉へと姿を変え、東山の山々は燃え立つような新緑――「新緑のひかり」に包まれています。

鴨川のせせらぎもどこか力強さを増し、通り抜ける風には、もうすぐそこに待つ夏の匂いが混じるようになりました。


この日の夕暮れ。狂犬病の注射とフィラリアの検査、そしてノミ・マダニの予防薬の処方をすべて終えたミックス犬の「ハル」君(3歳・男の子)と、すっきりした笑顔の飼い主の斉藤さんが診察室を後にしようとしていました。


「先生、これで春の予防は全部コンプリートですね! ハガキが届いた時は『やることがたくさんあって大変だな』なんて思っちゃいましたけど、これでハルと一緒に、何の心配もなく思いっきりお出かけできます!」


ハル君は斉藤さんの足元で、自慢の毛並みを新緑の夕日に輝かせながら、「早く走ろうよ!」とばかりに嬉しそうに足踏みをしています。


「斉藤さん、お疲れ様でした。これでハル君の体には、目に見えない『鉄壁の盾』がしっかりと備わりました。これから始まる眩しい季節を、思いっきり楽しんできてくださいね」


### 2. 駆け抜けた春、僕たちが手に入れた「目に見えない盾」


三月の終わりから始まった、動物病院の一年で最も忙しい「春の予防シーズン」。

それは、ワンちゃんや猫ちゃん、そして飼い主さんたちにとって、新しい季節を安全に生き抜くための「約束の儀式」でもありました。


ここで一度、私たちがこの春に整えた「命を守るステップ」を振り返ってみましょう。


* **目覚める吸血鬼から守る(ノミ・マダニ予防):** 草むらで手ぐすね引いて待つ小さな吸血鬼たちから、痒みだけでなく「バベシア症」や人間への「SFTS」といった恐ろしい媒介感染症をブロックする盾。

* **心の土台を支える(環境ストレスケア):** 引越しや新生活、模様替えによる「心のそわそわ」を、変わらない匂いと静かな砦で守り抜く優しさ。

* **歴史と社会を繋ぐ(狂犬病予防):** 日本ののどかな平和を次の世代へ繋ぎ、万が一のウイルスの侵入を防ぐ、飼い主としての誇り高き証明書。

* **心臓の未来を守る(フィラリア予防):** 蚊の羽音に怯えることなく、月に一度のおやつで、健やかに脈打つ小さな命のポンプを100%守る約束。


これらはすべて、単なる「手続き」や「義務」ではありません。言葉を持たない大切な家族へ、私たちが贈ることができる「最高の愛情のカタチ」なのです。


### 3. 初夏へのバトンタッチ。次に待ち受ける「夏の足音」


「先生のおかげで、ハルとの毎日に大きな安心ができました」と笑う斉藤さんに、僕はハル君の背中を優しく撫でながら、これから始まる熱い季節へのアドバイスを少しだけ添えました。


1. **お散歩の「時間帯」のバトンタッチ:** 予防が万全になったからといって、油断できないのがこれからの「暑さ」です。五月の終わりからは、日中のアスファルトは想像以上に熱を持っています。お散歩の時間を「朝の早い時間」と「日が完全に落ちた夕方以降」へと、夏仕様にシフトしていきましょう。

2. **「お留守番のエアコン」をケチらない:** これから梅雨を迎え、湿度と気温が同時に上がります。動物たちは汗をかけないため、高い湿度は熱中症の最大の引き金になります。「まだ五月だから」「梅雨だから」と思わず、お留守番の時は早めにエアコンを除湿・冷房で稼働させてあげてください。

3. **予防薬の「日付」をカレンダーに:** フィラリアやノミ・マダニのお薬は、ここからの継続が命です。「毎月1日」「毎月15日」など、ご家族で決めた日付をカレンダーに大きく丸をつけて、うっかり忘れを防ぎましょう。


---


### 4. 輝く季節へ、いってらっしゃい


「よし、ハル! 準備は万端だから、明日は新緑のドッグランへ行こうか!」

斉藤さんが声をかけると、ハル君は「ワン!」と高く弾むような声で返事をしました。

病院の自動ドアが開き、二人が京都の爽やかな夕暮れの中へと歩き出していく後ろ姿を、僕は温かい気持ちで見送りました。

ハル君の首輪の裏で、新しく交付された狂犬病の鑑札が、夕日の光を受けてキラリと眩しく反射していました。


### 5. 黄昏の診察室で、次の季節の扉を開く


「先生、本当にお疲れ様でした! 今年の春の予防シーズンも、大きな事故なく、たくさんのワンちゃん猫ちゃんを送り出せましたね」

看護師の河野が、パンパンになっていた予防カレンダーの書類を整理しながら、ふう、と深く息をついた。


「本当に、みんなのおかげだよ。ありがとう。飼い主さんたちがこうして毎年、ちゃんとお薬や注射にきてくれる。その『当たり前』の裏にある深い愛情に、僕たちはいつも支えられているんだよね。さあ、春の盾はばっちり整った。次は、ジメジメした梅雨と、お肌のトラブルが待つ『夏編』のスタートだね」


診察室の窓の外を見上げると、京都の夜空は深く澄み渡り、街路樹の青葉が夜風に揺れて、サラサラと心地よい音を立てていました。

慌ただしくも愛に溢れた春が征き、まばゆい光と躍動の夏がやってくる。

どんな季節が巡ろうとも、大好きな人と手を携えて、健康に、笑顔で駆け抜けていけるように。

僕たちの動物病院の明かりは、今夜もすべての家族の「輝かしい次の一歩」を、新緑の匂いと共に温かく照らし続けます。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。