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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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一年の感謝を込めて、あるいは冬凪の朝

一年の感謝を込めて、あるいは冬凪の朝


### 1. カレンダーの最後の一枚

十二月の半ば。京都の街を鮮やかに染め上げた紅葉も、今はすっかり落ち葉となり、鴨川の川面を冬の冷たい風が撫でていく。

診察室の空気清浄機は、秋の換毛期に舞い散った大量の毛を吸い込み続け、ようやく一息ついたところだ。


「先生、今年もあと少しですね。振り返れば、六月からずっと『暑さ』と戦っていた気がします」

看護師の河野が、診察室の窓を丁寧に拭きながら言った。


「そうだね。記録的な酷暑から、いつまでも終わらない残暑。そして、急激にやってきたこの寒さ。動物たちの体にとっても、飼い主さんの心にとっても、本当にタフな季節だったよ」


### 2. 「夏バテ」は秋に完成する

この三ヶ月、当院には多くの「秋の病」が運び込まれた。

* 低気圧に翻弄され、食欲を落とした猫たち。

* 落ち葉に潜む小さなダニに、真っ赤な鼻を痒がった犬たち。

* そして、涼しくなった瞬間に水を飲むのを忘れ、トイレでうずくまった子たち。



「多くの飼い主さんは『急に具合が悪くなった』と仰います。でも、実はその多くは、過酷な夏を乗り切ったあとの**『蓄積した疲労』**が、秋の寒暖差をきっかけに溢れ出したものなんです」


### 3. 冬を越えるための「最終チェック」

本格的な雪が降る前に、僕は来院するすべての方に「三つの確認」を伝えてきた。


1. **「皮下脂肪」の厚み:** 冬を越すための蓄えはあるか。あるいは、秋の食欲で「蓄えすぎ」ていないか。

2. **「お水」の習慣:** 寒い朝でも、彼らが美味しく飲める水場(温かさ、場所)は確保されているか。

3. **「心の距離」:** 夜が長くなるこの時期、シニアの子たちが不安にならずに眠れる居場所はあるか。




### 4. 命のバトンを繋ぐ

「先生、お疲れ様です。……今年もいろいろありましたが、最後はみんな、飼い主さんの笑顔と一緒に帰っていきましたね」

佐藤さんが、明日から始まる「冬の健康診断キャンペーン」のチラシを掲示板に貼りながら微笑んだ。


「それが僕たちの、最高の報酬だよ。言葉を話せない彼らの代わりに、飼い主さんが異変に気づき、ここへ運んできてくれる。その『絆』というバトンがある限り、どんなに厳しい冬が来ても、命の火は消えないんだ」


### 5. 次の季節へ

診察室の時計が、静かに午後の終わりを告げる。

窓の外では、遠く比叡山の頂がうっすらと白く染まり始めていた。

夏から秋へ。僕たちが必死に守り抜いてきた命は、今、温かなリビングで丸まり、新しい季節を迎える準備を整えている。


「さて、明日からは……いよいよ**『冬編』**のスタートだ。クリスマスケーキの誤飲に、除夜の鐘のパニック。そして、凍てつく朝の『シニア猫の関節ケア』。冬には冬の、守り方があるからね」


僕は白衣のボタンを留め直し、今年最後の、そして新しい季節へと続くドアを力強く開けた。


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