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動物病院日誌   作者: じょんどぅ


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猫の泌尿器トラブル・秋の陣、あるいは沈黙の砂場

猫の泌尿器トラブル・秋の陣、あるいは沈黙の砂場


### 1. 涼しさが招く「渇き」

十一月も半ばを過ぎると、京都の底冷えがじわじわと忍び寄ってくる。人間が温かいお茶を欲しがる一方で、猫たちは「動くのが面倒」「お水が冷たい」という理由で、極端に水分を摂らなくなる時期だ。


「先生、ルナがさっきから何度もトイレに行くんですけど、砂が全然濡れていないんです。さっきはトイレの中で『ウーッ』と唸っていて……。これって便秘でしょうか?」


アビシニアンのルナちゃんの飼い主、伊藤さんが駆け込んできた。しかし、僕は「便秘」という言葉を聞いて、すぐにルナちゃんの下腹部へ手を伸ばした。


### 2. 触診で感じる「ピンポン玉」

「伊藤さん、これは便秘じゃありません。……おしっこです。膀胱がパンパンに張って、硬くなっています」




猫の泌尿器トラブル(下部尿路疾患:FLUTD)は、秋から冬にかけて激増する。

原因は、飲水量の減少による「尿の濃縮」だ。尿が濃くなると、その中でミネラル分が結晶化し(ストラバイト結石など)、それが砂状になって尿道を塞いでしまう。


「特におしっこが全く出ない『閉塞』状態になると、体内に毒素が回る尿毒症を引き起こし、**24時間から48時間で命に関わる**極めて危険な状態になります」


### 3. 救急処置:開通への道

「河野、すぐにカテーテル準備! 鎮静をかけるぞ。膀胱が破裂する前に抜かなければ」




処置室は緊張感に包まれる。細いカテーテルを尿道に慎重に挿入し、詰まっている「砂のストルバイトプラグ」を押し戻す。

数分の格闘のあと、カテーテルから勢いよく、血の混じった濃い尿が流れ出した。


「……ふぅ、間に合った。見てください、伊藤さん。このキラキラした砂のようなものが、ルナちゃんの尿道を塞いでいた犯人です」


### 4. 秋から始める「水飲み場の革命」

ルナちゃんが安定したのを見届けてから、僕は再発防止のための「秋の温活」を提案した。


1. **お水の『温度』を上げる:** 冷たい水は猫も嫌がります。ぬるま湯にするか、循環式給水器の近くにヒーターを置く工夫を。

2. **水飲み場を増やす:** 寒い中、遠くの水飲み場まで行くのは億劫なもの。寝床のすぐ近くにも設置しましょう。

3. **ウェットフードの活用:** 食べ物から水分を摂らせるのが最も確実です。ドライフードにお湯をかけて『スープ仕立て』にするのも有効です。


### 5. トイレの溜息

「先生、お疲れ様です。……猫って、痛みを隠すのが本当に上手ですよね。何度もトイレに行くのを『熱心だな』くらいに思ってしまう飼い主さんも多いですし」

河野が、洗浄したカテーテルを片付けながら言った。


「そうだね。だからこそ、僕たちは『トイレの回数』ではなく『砂の塊の大きさ』を見てほしいと伝え続ける必要がある。秋のトイレチェックは、愛猫の命をチェックすることと同じなんだから」


窓の外では、冷たい雨が降り始めていた。

今夜、こたつで丸まっている猫たちが、喉を鳴らしながらしっかりお水を飲んでくれることを祈りつつ、僕は次のカルテに手を伸ばした。


「さて、次は……。冷え込みとともに関節が『悲鳴』を上げる老犬たち。朝一番の『こわばり』を解消する、冬の準備のアドバイスだ」


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