重要人物の伴侶の一歩手前で
ユータ視線へと戻りますが、所々がアレクシスの説明です。ややこしくて申し訳ない。
朝食を食べ終わって、メイドの二人に食器を片づけて貰った。
部屋に二人だけとなった瞬間に、アレクシスが奇声を上げながら俺に抱き着いてきた。
なるほど、他人がいるところでは甘えたりしないようにしていたんだ。
「んにゃぁあああ、ごめんねぇごめんねぇ!ユータを困らせるつもりはなかったのにぃい!」
「ふふ、大丈夫ですよアレクシスさん。よしよし」
大きな猫がご主人である俺の肩にスリスリしている。
本当にアレクシスは、素面で猫になる。身体を向かい合わせにさせると、すごくションボリしていた。
ご主人様に怒られた飼い猫みたい。
アレクシスにとっては、本当に不本意なことを勝手に言われてしまったんだろう。
それには本人のことも関わっているようだけど、ひとまずはションボリ猫ちゃんの頭をよしよしと撫でてあげる。
なでなでが嬉しいのか、表情が少しずつ緩やかになる。落ち着いたようだ。
「いくら、僕が宝具所持者だからって本人の意思関係なく言うのはおかしいよぉおぉ……」
「それは確かに。ところで、その、宝具所持者ってなんですか?」
「あ、そうか。宝具っていうのは、国宝級の武具のことを言うんだけど……説明長くなってもいい?」
「大丈夫ですよ。ゆっくり教えてください」
ここからはアレクシスの説明になる。
その昔、この世界は女神に見捨てられたという話をしたと思う。
その女神が見捨てる前に、東西南北の四か国それぞれに神にも匹敵する最高峰の武器を、それぞれの国に沈めた。
武器は一体、どこにあるのかは不明だ。
ある時は地面から生えてきた。ある時は、空から落下してきた。いつの間にか、家の壁に刺さっていたなど。
そのような現れ方をするものだから、神出鬼没とも呼ばれている。
「武器が生えるって、なかなかにシュールな光景ですよね……」
「本当だよねぇ……僕の時は、どうやって手に入れたか覚えていないんだよねぇ」
「記憶がないんですか?」
「うん、僕自身の頭が真っ白になっている最中に終わっちゃっていたから」
「あぁ、確かにそれは記憶にないですよね……」
そんな出現条件不明な国宝の武器は、必ず対象者の元へと現れる。
そして、その対象者の体内へと格納することができるという。そういうことから、宝具所持者、と呼ばれている。
「つまり、その宝具所持者になったら、みんな体内に武器を持ち歩けるってことですか?」
「そうだよぉ。しかも、その武器を使うと一国の戦力全てを殲滅できると言われるくらい非常に強力なものなんだぁ」
「歩く核兵器ですかね?」
「核兵器が何かわかんないけど、たぶんそういうことだと思う」
たったひとりいるだけで、国ひとつ分の戦力。このような人物が見つかると、必ず国に保護される。
そして絶対に国外へと出さないようにするために、早い段階で国内にて結婚させて永住させるのだ。
現段階で、宝具所持者であると発覚しているのは、アレクシスただひとり。
そういった理由で、どんなに脱走癖や引きこもりであっても重宝されるのだ。
「アレクシスさんが持っていたのは、確か槍?でしたよね」
「うん。イースト国の国宝武器は、槍だからねぇ」
「……あれ?他国は違うんですか?」
「東西南北で、それぞれ武器が違うんだ。ウエスト国は、剣。サウス国は、弓。ノース国は斧らしい」
ウエストは、西の国。サウスは、南の国。ノースは、北の国。
そして今いるここが、イーストなので東の国だ。
「意外とわかりやすい国名だった……!」
「んふふ、他国の名前とか覚えている暇がなかったものねぇ……」
国宝武器については、それぞれ名称が存在しない。
武器に認められた所持者により、形状が変化するからだ。
それでも、武器としての本質はそのままらしい。
「持っている人に合わせて形を変えてくれるって、なんだか柔軟な対応をする武器ですね」
「親切設計だよねぇ」
宝具所持者というのは、一見いいこと尽くめのように思えるだろう。
ただし、武器を体内に収納している関係もあってか、常に情緒不安定になりやすい。
その感情のコントロールを担ってくれるのが、伴侶や番と呼ばれる特殊な相手だ。
宝具所持者はその相手が誰なのか、出会えばすぐに理解できる。
けれど、その相手はこちらの状況を知っているわけでもないので、結ばれるかどうかは所持者次第である。
「あー……だから、アレクシスさんの伴侶になってくれ、に繋がるんですね」
「そういうことなんだぁ……ただでさえデリケートなことなのに……」
「あの、ちなみに伴侶になることを断った場合、所持者はどうなるんですか?」
「国が滅ぶと言われているねぇ……そうでなくても、最悪な事態は免れないと思うよぉ」
それが重要人物の「宝具所持者」なのである。
ここまでが、アレクシスの説明だった。
のんびりとした猫ちゃんだと可愛がっていた相手が、まさかの重要人物だったのが意外すぎた。
御子となった常連の子も、特殊ではあったけどこっちは国の存亡がかかっている。
複雑な心境でアレクシスの頭を撫でていると、そっと手を両手で包まれた。
「あのね、ユータ。僕はユータのことが一番好きだよ。手放すのは絶対にやだ」
「それは……俺が猫カフェの店員さんだったから、猫好きだから、という理由じゃないんですか?」
「違うよォ!確かに猫の話題ですごく盛り上がったけど、そういうのじゃなくて!ひとりの人間として!愛しているんだよ!ひとめ惚れです、ごめんなさい!」
「なんで最後に謝罪が入るんですか……ふふ、騎士としてお仕事している時とは違って不器用で可愛い猫ちゃんですね、アレクシスさんは」
「飼い猫の前に一人の男なんだから……あぁ、もうこんなカッコ悪いところ見せるつもりなかったのにぃいぃ……!」
肝心なところで不器用さが見える。
それでも視線は真っ直ぐこちらを向いていて、頬は赤い。
可愛い。本当に、可愛くて、愛おしい。
思わず笑顔になって、額を合わせていた。
「こんな俺でよければ、よろしくお願いします。あ、まずは恋人からで!そもそもお付き合いしたこともない恋愛初心者だからリードして下さいね?」
「え?いいの?ユータはいいの?」
「もちろん。こんなに凄い婚約者がいるから、俺はもっと頑張らないといけないね」
最後の最後まで締まらないけれど、よほど嬉しかったのか半泣きで抱きしめられた。
それから、自然と顔を合わせてキスをする。
まだまだ可愛いバードキス。それでも、俺たちはこの度恋人になった。
その後、さっきは考えさせてくれと伝えたアレクシスのお父さんに伴侶前提でのお付き合いを始めたことを報告。
その日の夜は、俺たちが結ばれたことを祝う盛大なパーティーで盛り上がったのだった。
(終)