婚約のお話。
それから…約5年。
私と姉とルル様とレオナルト様は様々なことを共に過ごした。
おそらくは…お互いの婚約候補として。
姉とレオナルト様は私たちよりひと足先に学び舎に行っていたから、特に私とルル様は仲良く過ごした。
時には私よりもたくさんの知識をもつルル様から色々と学んだり。
時には私よりも体力のないルル様を引き摺り回して泣かせてしまったり。
『全く…君といるとボクは休まる暇も無いよ。』
『でも、楽しいでしょう?』
『そうだね。君といると退屈することはないね。けれど君に付き合うには、体力を付けなければ今にも倒れてしまいそうだけど。』
『是非ともそうしてくださいまし。』
気の置けない、親友の様に…私たちは過ごした。
ーーけれど、その関係性は…姉が15歳を迎える年に、変わってしまった。
姉が病に倒れてしまったのだ。
やっと姉と同じ学び舎で学び始めて2年後の事だった。
姉はいつ身罷られるか分からない病にかかったことで今までの明るさはなりを潜め、優しさは変わらぬものの…別人の様に儚い存在になってしまった。
姉が病に伏せてから1年後。
私は恐らくは姉の代わりに。
"侯爵家の娘"として次期皇太子となられたレオナルト様の婚約者となった。
私としては初めて会った日から密かに憧れていた優しい王子様との婚約は嬉しくもあり、けれども大好きな姉の代わりで悲しくもあり…複雑な気持ちでの婚約だった。
それからの日々は…正直な話、思い出すのも嫌になるほど辛かった。
皇太子殿下を支える存在として、様々なことを叩き込まれた。
元々厳しかった祖母は更に厳しくなり、3年も経つ頃には"お転婆"の欠片も見当たらない、完璧な淑女へと変貌していた。
…ルル様とはレオナルト様の婚約者となってからは距離が出来て。
王城ですれ違う時に挨拶を交わすのみ。
完璧な淑女に変わった私と時を同じくして、ルル様も3年で昔の泣き虫で引っ込み思案で体力の無かった姿はなりを潜め、凛とした佇まいの立派な青年になりつつあった。
ただ、風の噂によれば真面目で優秀な皇太子殿下とは比べようも無いくらいに性に奔放で、堕落した人間にもなりつつあるとのことだった。
(レオナルト様に負けず劣らず真面目で優秀だったのに…人は変わるものね…)
ーーー『君が頑張っているという話は侍女長から聞いている。毎日大変だと思うが…無理はしないように。』
レオナルト様と婚約してから、5年の間。
好きだとか愛しているだとかそんな言葉こそ無かったけれど、優しく…大切に扱ってくださった。
毎日顔を見せて少しの会話をして。
皇太子として忙しいはずなのに…合間を縫って会いに来てくれた。
たったそれだけのこと。
それだけで…私はこの人の特別なんだ、と。
より、お慕いする気持ちは増した。
一生を添い遂げる相手なんだと。
安心することが出来た。
それなのに…
平和協定の為、と隣国から王女が輿入れするからと。
いつもの、大好きな笑顔で残酷なことを告げなさる。
仕方ない。
それは分かっている。
分かってはいるけれど…
レオナルト様にとって私はその程度の人間なんだ、と理解しまって辛い。
そして…婚約破棄を発したその口で。
残酷にも、愛妾になって欲しいなどと言いなさる。
アティス国の王族は一夫一妻制。
もちろん、側室制度なんて無い。
隣国の王女様の陰に隠れて生きていけ、と貴方仰るのですね…
後半部分、あまりにもベニカが淡白なのとレオンハルトへの気持ちが薄いなぁと感じたので直しました!