5.幕間 黒猫と癖っ毛わんこ
「イオリちゃん、また明日ねー」
「おー。またな!」
曲がり角でクラスメイトのトアに手を振って別れ、幼少部のある別棟の一つに向かった。
あたしは今何故か忙しい。
学校が終わると育児が始まる。
「こんにちはー」
オートロックのセキュリティを指紋認証で開け、壁のようにも見える透過扉ピアドを斜めにスワイプした後通り抜けた。
元は開発した会社名で、似た形式の出入口の通称として定着しているらしい。
「あらお帰り。今日は早いのねぇ。リトちゃんお姉ちゃんよー」
「いおいー!」
年配の保育士さんが声をかけると、トタトタトタトターっと小さいのが何人も集まってきた。
「トもかえうー」
「うん、そのために迎えに来たんだよ」
自分より先に他の子たちがあたしのまわりを取り囲んだから、先を越されて置いていかれるとでも思ったのか、リトが半泣きなのが笑えた。
「大丈夫よ。お姉ちゃん置いていかないって」
保育士さんも笑っている。
「おいで」
手を広げると抱きついてきたからそのまま抱えた。
保育士さんたちにお礼を言って、後追いをしている他の子どもたちにも全員にタッチをして、幼少部を後にした。
工場地帯みたいな配管と煙突だらけの市街地と違って、家の手前まではきれいな石畳の歩道を通って行ける。
「いおいー」
「ん? どした?」
「といしゃん」
「鳥さん? どこ?」
あたしは空を見上げたり、あちこち見回したけれど、鳥らしいものは見つからない。
「かぁいーねー」
リトはだっこされたままニコニコしながら宙の一点を見ている。
どこだろう?
赤ちゃんにだけ見える世界があるのかもしれないとも思った。
石畳の歩道をゆっくり空を眺めながら歩く。
車とかは通ってなくて、基本みんな歩いている。
それかキックボードやインラインスケート、スケボーみたいなもので走ってるのはよく見かける。
どれもタイヤがないけれど。
ヨースケと二人でリトを拾ったのは989年3日向日葵。初夏で暑くなり始めの頃だった。
今は椛で秋も終わりに近づいてるからリトを拾ってからもうすぐ半年。拾った日を誕生日にしてあるから、リトはもうすぐ1歳になる。
親は見つかっていないようで、何かわかったら連絡くれると言っていた役所からも音沙汰がない。
「おうち帰ったらなにして遊ぼうか?」
「ぼーう。ト、ぼーうやう」
「ボールかぁ。新しいの買ったもんな。帰ったらやろう」
「うん。やう」
自分の名前をまだ上手く言えなくて、『ト』になってしまうのが可愛い。
巻き毛のリトには頭の両サイドに少し垂れた耳がある。
人間の耳より少し上の部分についていて、髪の毛の間から横にぴょこっと出てる感じ。
あたしの黒い猫耳はアルさんが送ってくれた偽物だけど、リトのは本物だ。
「いおいのみみー」
「ん? ちょっ、リト引っ張らない……あっ!」
「とえたねー」
普通は取れない。
取れたのを誰かに見られるわけにはいかなかったから、すぐにまた付けた。
「もー」
あたしが文句を言うと、リトはきゃっきゃ言って喜んでいる。
リトを降ろして、手をつないで歩くことにした。
フラフラしてるから手をつなぎながら歩いて帰る。
ヨースケ今日は早く帰って来るかなー。
夕飯何がいいか、こっそりお菓子でも買おうかとか、色々なことを考えながら、のんびり歩く。
振り返るリトのニコニコ顔が今日も可愛かった。




