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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第8章 武装勢力の悪意
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5.偽者と裏切り

 俺の偽物?


 ユーキは目の前に現れた自分と同じ顔の存在に、混乱していた。


 自分を偽物扱いしてくるそれをみて、いくつか腑に落ちたこともあった。


「Dr.ディアフルス。アルの協力者、いくつかの量子論絡みの書籍を書いたのはお前だな?」


「いかにも。俺は色々と思い付いたことを言っただけで、自ら書いたわけではないし、見て思ったことや感じたことを呟いたら勝手に色々開発していっただけだよ」


「俺と同じ記憶を持ってるのか?」

「さぁ? ある時頭が冴え渡り、大体のことはわかるようになったんだ。まぁ、君の存在理由についても、予想は出来てる」


「どういうことだ?」


 ユーキが尋ねると、Dr.ディアフルスは、頭にアンバランスにのって落ちかけていた王冠を近くの台座の一つに置いた。

 ユーキと同じ顔のDr.ディアフルスは、豪華そうな青いドレスシャツに、燕尾裾のベストを身に付け、左右不揃いのマントコートを着ていた。


 ここの主だということは、雰囲気から感じ取れた。


「つまりこうだ。量子論において、転送機問題と言われる議論がある。量子テレポーテーションの際、転送装置の不具合で、元データが消去されず、全く同じ情報が二ヶ所に同時に存在してしまうことが起きてしまうこと。それと似たようなことが、転移において生じた可能性。この場合、転移先とその発生時期や条件に誤差が生じ、境遇の違う2パターンが生まれたと」


 知識量が違う。

 こいつ、本当に俺と同一人物か?

 ユーキは試しに尋ねてみた。


「俺の存在には気付いていたのか?」


「いや、今知ったよ」


 ふと、ユーキはこの城に来てから頭に流れた映像について思い出した。


「もしかして、獣人に奴隷扱いされていたのもお前か?」


「ああ、何故知ってるのか知らないけれど、あの低俗な連中に、日々頭に損傷を与えられていたことで、脳が目を覚ました感じだから、ある意味感謝している」


 頭部の過度の損傷が、結果として脳の活性化に繋がったということのようだ。


「でも、同じ人間は二人もいらないよね?」


 物騒なことを言い出した。


 よく見ると、手には赤いものが滴る猛禽類の頭部の飾りが柄に付いた、細い剣を持っていた。

 その少し離れた足元には胴と生き別れになった、先ほどの鳥顔と半鳥人の頭転がっていた。


 ヤバい! 消される!


 思ったのと同時に、Dr.ディアフルスが床を蹴って距離を詰めてきた。


 十分に距離が離れた場所にいると思ったが、目算が甘かった。


 ふと、気が付くと目の前で、刃が横一閃。

 咄嗟に槍? で受け止め、条件反射でそのまま滑らせて角度を変えて反撃に転じた。


 Dr.ディアフルスの手首を打とうと払うが、それは避わされ、今度は突きを繰り出してくる。

 それを槍? の柄を使って下から弾き、刃の先端が軽く頬を掠める。


 もう体が条件反射で動いて何とか対応出来ているような、綱渡りな状態だった。


 ちょうど槍? の先端がDr.ディアフルスの体を捉えた瞬間、ユーキはさっき暴発したスイッチを押した。


「試作のグングニルか。誰かが意図して拾わせたのか、厄介なものを拾ったね。」

 

 そう言ってDr.ディアフルスは身を(ひるがえ)す。

 何もないはずの空間に立ち、壁の向こうに歩いて消えていった。


「移動の仕方がわけわからん」


 特に立ち位置や体の運びが意味不明だった。

 脳がどうにかなると、常識の(たが)が外れるのか?


 何とか死を免れたユーキは、クリスがいるかもしれない中央広間とやらを目指して走り始めた。


◇ ◇ ◇


 両手でグングニルを持ち、油断なく構えながらユーキは廊下を走っていた。

 もう隠れる気は無かった。

 Dr.ディアフルスのあの様子だと、隠れることにあまり意味はなさそうだ。


 いつ奇襲をかけられるかわかったものではない。


 通りかかった兵は皆不意打ちで倒し、昏倒(こんとう)させながら立ち止まることは無かった。


 外部からの出入りがあったのか、若干慌ただしい兵たちの動きがある。


 鳥人兵と、()虫類系が主で、どちらも武装している者が多かった。


 鳥人兵はユーキが拾ったよりも随分簡素な造りの槍を持ち、ワイヤー(べん)と短銃、ショートダガーをレザーホルダーに納めて、もしくは引っ掛けてある状態で装着していた。


 爬虫類系の兵はレッグホルスターにアサルトライフルっぽい小銃、ひどく鋭利な長い爪を利き手に装着していた。


 団体だと流石に身を隠してやり過ごし、2、3人なら打ち倒して走った。


 回廊の途中に縦に長い窓側あり、巨大な塔が立ち並ぶ、外側から見て位置的には中央部分だったと記憶に残っていた建造物が見えた。

 ユーキは大体の方向がわかるかとも思ったが、随分ぐるぐると走った。


「やっべ! 袋小路だし!」


 思った次の瞬間、壁から金色の何かが飛び出してきた。


 不意打ちで避けられず、思いっきり体当たりを受け、ユーキは真後ろにひっくり返った。

 背後が壁だったので、ユーキは壁に頭だけめり込んだような状態で仰向け倒れた。


「うわー!! 大丈夫!? って、頭だけ無いーーーー?!!」


 焦ってユーキの体を揺すっている。

 ミシェルの声だ。


「大丈夫だ」


 ユーキが体を起こすと、メガネがずり落ちたミシェルと目が合った。


「なっ! 頭出てきた!? なんだユーキさんか」


「俺で悪かったな」


「いや、そんなわけじゃないよ」


 壁から頭が出てきたことに驚いたミシェルの口から続いて聞こえた残念そうにも聞こえる声に、ユーキが不満を()らした。

 しかし、通り抜けられる壁があることがわかった。


「どうやって来たんだ?」


 ユーキは率直な疑問を口にした。


「えっと、あれ、何て乗り物だろ? あの、鳥の人たちが乗ってきてた1人乗りのやつ」

「あー、乗りこなすの大変だったあれか」

「そうそう、難しいよね!」

「何とか宙返り出来るくらいにはなったな」

「凄いねぇ。あたしはそこまでは……」


 話に花が咲く二人だったが、ふと目的を思い出したのか、どちらともなく歩き出した。

 壁を抜けると通路の見え方が変わり、どのような仕掛けなのか、壁の内側からはきちんと通路として見えるようになっていた。


 そこを確認したあたりから、走り始める二人。


「そうそう、ゴーグル外してみた?」

 ミシェルが()いてきた。

「あー、外してみたよ。もうここで外す勇気無いわ」


 ミシェルは、ゴーグルより外れやすいメガネだから、ずれたりしたときとかどんな風に見えてるんだか。


 ユーキはそんなことを思ったが、さっき思いっきりずれてたことを思い出した。


「ちょっと待て」

「ん?」


 少し先を走っていたミシェルが止まった。

 多分ユーキに合わせてスピードは落としているはず。

 全力で走るときは四足歩行になるし。


「さっきメガネ外れかけてたけど、城の廊下どう見えてた?」

「あ、そういえば普通に廊下だった」


 ユーキは恐る恐るゴーグルを外してみた。


「あー、普通に廊下、実体あるな」


 可能性の域を出ないが、外側から見たときは、大規模なステルス迷彩だったのかもしれない。


 Dr.ディアフルスが立っていた空中にも同様の仕掛けがあった可能性も出てくる。

 自分の分岐の一つと考えると複雑だが、あいつ手品師(マジシャン)か?


 ユーキは様々な可能性があるが、ひとまず窮屈なゴーグルを外し、アルから貰ったスマートグラスに付け替えた。

 壁の陰で誰かが様子を伺っているのが見えた。


「そこにいるのは誰だ?」

「誰かいるの?」


 ミシェルはユーキの顔が向いている先を見た。

 ミシェルもメガネを外し、腰のポーチにしまったところだった。


「よくわかったな。もう一人のDr.」


 少しくぐもった声だった。

 続いて姿を現したのは、ポロリに連れられていた時にこちらを見ていた、ダークチェリー色のシルクハットに、黒い燕尾服を着た何とかっていう将軍だった。


「さっきすれ違った奴!」

「リグーリア・オルトロス・ラストだ。一応将軍職をやっている。そのグングニルを君が見つけるよう置いておいたのは私だ」


「何で? そんなことして大丈夫なの?」


 ミシェルが言った。


「Dr.ディアフルスも気づいていることだろう。表立って歯向かうと、粛清(しゅくせい)されるからな。神出鬼没で手の内が理解不能なのだ」


「力と恐怖で従わせていると、反乱も起きるわな」


 リグーリアはギョロギョロした目をこちらに向けて(うなず)いた。



「しかし、あんたが本当に俺らの敵じゃない保証はないよな」


「確かに」

 楽天的なミシェルも流石にここは同調してきた。


「ふむ。証明すれば良いわけだな」


 ユーキとミシェルは頷いた。


「中央広間に案内しよう。流石に最初に君たちを見たときは多少混乱もしたが、Dr.が二人で、同じ顔の娘がいても大した驚きではなかった」


 まだ疑わしかったが、二人はひとまず様子を見ることにした。

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