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転生チートに出遅れて  作者: 月灯 雪兎
第8章 武装勢力の悪意
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4.クリス奪還 1

 日が落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。

 先ほどの騒ぎの後始末で、煌々(こうこう)と明かりの付いたカンパネルラ学院の理事長室では、リトがリゼットにかけられた施錠と竜胆翁に絡んだワイヤーせっせと外していた。

 遅れて駆けつけた警備員や医療班に、状況を説明したりもしていた。


 負傷兵や残存兵は皆回収され、残党もおらず、残されているのは光るワイヤーや大型の施錠で動けなくされた竜胆翁と、リゼット理事長の姿だった。


「リトとやら、すまんのぅ。助かったわい」


「いえいえー。じゃあまた下に行って、怪我人の処置とかの手伝い行ってきますねー」


「おぅ。頼むのー。それにしても、一体あの者たちは何者なんじゃ?」


 その疑問には、警備員に起こしてもらいながら、リゼットが答えた。


「セリム・ブラスト率いる鳥人の軍です。キンブリー・クリス・ハートの賛同者で、自発的に護衛を買って出た者たちだったのですが、キンブリーを裏切って新興国家に与しているようです」


「お前さん詳しいのう」


「以前政治活動に関わっていた時期がありまして、その時キンブリーとはよく意見を交わしあっていたのです」


 竜胆翁は、無事だったソファで、淹れ直したお茶を啜っている。


「リゼット様! これは一体……!」


 革のコルセットに赤いフリルスカートの少女が慌てて部屋に飛び込んで来た。

 長い黒髪を後ろで二つに結んである。


「ああ、ソフィア。良かった。あなたは無事だったのですね」


「ええ、私は何とも無かったのですが、一階の客人の所は被害があるようで、クリスティーナ・タチムラさんが連れ(さら)われてしまったそうです」


「なんじゃと?! こっちは鳥人間たちをユーキとミシェルが追って行った感じじゃが、まさかクリスちゃんが拐われておったのか」


「桐葉さんと真樹さんが怪我をしていて、私は介抱のお手伝いをして参りました。ヨースケ先生とイオリさんが、ユーキさんを追って助けに行くと、リトさんを探していました」


「え? 今イオリさんと言いましたか?」


 今度はリゼットが驚いた顔をしている。


「ええ。ヨースケ先生が『イオリ』と呼んでいらっしゃったので」


「一体何処に行っていたのか、もう10年以上になるかしら? ヨースケ先生の娘さんで、突然消えてしまってずっと行方不明だったのよ……彼、それはもう酷く落ち込んでいたから……。見つかって良かったわ。後でよく話を聞かせてもらいましょ」


 長い間の胸の(つかえ)がとれて、心からホッとしたような笑顔だった。


「しかし、まずはクリスちゃん救出じゃの。警察が役に立ってないのなら、他に頼れるものは何処かにおらんものかのぅ」


「私は荒事は苦手ですが……ちょっと気が進みませんが、あの人に頼めるかしらねぇ」


 リゼットは、自分の左手首に付けている、腕時計かブレスレットのようなものに触れた。


 コールしているのか、(しばら)く待っていた。

 ハンズフリーのような機能ではなさそうだが、大きな声が響いた。


「おう! リゼか、随分久しぶりだがどうした?」


「もう少し小さい声で話せないのですか?」


「今お客乗せて運転中なんだわー。あとちょいで着くからよー。こっちからかけ直すわ」


 そう言って通話は一方的に切れた。


 一瞬の沈黙。

 リゼットの不満そうな顔。複雑な心情がいくつも飛び交っているような表情だった。


◇ ◇ ◇


 時は少し(さかのぼ)る。

 リトが理事長室に駆けつける前の話だ。


「その網は簡単には破れないですよ。強力な結合の単分子ワイヤーを寄り合わせて編んでありますからね」


「そんなのどうでもいいのよ!」


 聞く耳持たないミシェルは、ひっくり返った車椅子の端に引っ掛かって浮いた部分を見つけてネットからすり抜け脱出した。


()めが甘いんだって!」


「なっ!」


 床を蹴って天井まで跳んだミシェルは、仕留めたと思って余裕の構えだったセリムの顔面を蹴り飛ばし、セリムは飛行セグウェイごと壁際に派手に転がった。


 かなりの勢いだったようで、セリムは白眼を()いている。


「将軍!」


 何名かの鳥人兵が駆けつける。

 以前自ら事務次官と名乗っていたが、将軍でもあるらしい。


 引きずるように兵たちが自分たちの飛行セグウェイに、セリムを乗せた。


 誰からともなく「撤収(てっしゅう)!」「撤収!」と声が上がり、兵たちが逃げ帰っていった。


 一機残された飛行セグウェイに乗って、ミシェルが後を追うが、操作に慣れないので酷いものだ。



「うわわわわ!」


 やっぱりグラグラだ。

 一輪車に初めて手挑戦した小学生女児のような転倒だ。

 それでも、少しずつ乗りこなし、前に進み始めた。


 ミシェルは飛行セグウェイをフラフラ何とか乗れるような頑張りながら破られた窓の外へ出ていき、エントランスを通りかかる時、鳥人兵の誰かが落として行ったらしい光るワイヤーを拾い上げた。


 よく見ると持ち手があって(むち)のような形状になっており、ボタンのような部分に触れながら振ると伸縮する仕組みのようだった。


「使えるかな?」


 飛行セグウェイに乗りながら、屋根のあたりに見えた避雷針(ひらいしん)のような形の柱に向けて、振ってみた。


 ヒュッと風を切る音と(わず)かな電子音と同時に柱に巻き付いた。

 他にも何個か触れられる指紋認証パネルのようなボタンがあって、先ほどと別のに触れると伸びていたワイヤーが一気に縮む。


「にゃっ?!」


 不意を突かれ、反対の手の握る力がもう少し弱かったら飛行セグウェイから落ちてしまうところだった。

 気付けば飛行セグウェイごと屋根のあたりにいた。


「おー。これは使い方次第でかなり使えるかも!」


 楽しくなってきたミシェルは、飛行セグウェイの飛行機能プラス、光るワイヤーの伸縮(しんしゅく)を利用して屋根伝いに鳥人兵たちが逃げ去った方を目指した。


 町並みのいたるところに煙突や配管があるので、引っ掛ける場所には事欠かなかった。


 そんな不思議な低空飛行を繰り返し、何とか一群の後尾に追い付いた頃には、飛行セグウェイは普通に乗りこなせるようになっていた。


「誰か追い付いてくるなんて思ってもないみたいね」


 数十名の鳥人兵たちは、後ろを気にする様子もなくかなり高い場所を飛んでいた。


 (くも)った空の下で、段々鳥人兵たちの高度が上がっていく。


拠点(きょてん)は空なの?」


 ミシェルは(つぶや)いて、まだ気が進まない様子だったが、高度を上げ始めた。


「ふぇぇ……」


 前に無理~と思った、三階からの風景よりも、(はる)かに高い。


「下は見ないでおこう」



 見えなくなる一歩手前くらいを見()えながら、ミシェルは追って行った。


 ふと、ある一定の高度を越えたあたりで、何もないように見えた空間に巨大な建造物が浮かんでいるのが見え始めた。


「うわー。でっか! 本物の天空の城だよ。ラピュタだよ」


 使っていた光るワイヤー、取り敢えずワイヤー(べん)と呼ぼう。

 ワイヤー鞭は、()の部分の先端に丸い輪っかがあったので、短く縮めた状態で腰のベルトに付けてあるカラビナの一つに留めて、両手が使える状態にしておいた。


◇ ◇ ◇


 一方、武器をを手に入れたユーキは、慎重に物陰から物陰へと移動しながら、城の内部を探っていた。


「見取り図とかないのか? 無駄に広いからわけわかんねー」


 インフォメーションカウンターでも無いのかと、意味不明なことを考え始めていた。


「ポロリに案内させれば良かった」


 少年兵を(おど)したことを気の毒に思い始めて解放したことを後悔し始めてもいた。


 そんなことを考えていたところで、武装したトカゲ集団が、列をなして行進してくるのが見えた。


 トカゲと言っても、多種多様だった。やっぱり半獣? もいて、さすがに手足の無い蛇の姿は無かった。


「そういえば町にはトカゲとか()虫類系は少なかったな」


 希少なのかもしれないとユーキは考えつつ、武装集団が通りすぎた所で、回廊の反対側の物陰へと駆け抜けた。


 しばらく物陰で、手に入れた槍っぽいものの造りをどんなものなのかと見ていると、複数の足音と共に話し声が聴こえてきた。


「閣下は何を考えておいでなのだろうな!」

「こら、声が大きいぞ」


「クリスティーナ・タチムラとの婚礼の後に独立宣言をするというが、何の意味があるというのか! しかも、中央広間に連れてこられたのはその娘と瓜二つのミシェルという娘となると、こじつけとしか思えなくなってくるぞ!」


「馬鹿! だから声がデカいって! 滅多なことをいうもんじゃない!」


 まぁ、こじつけというか、何かこだわりなのか?

 と、ユーキは聴きながら考えたが、何にしても救出の方法が浮かばずにいた。


 軍隊相手に無双する自信は無い。

 どんな奴らが(しゃべ)っているのか見てみると、禿鷹(はげたか)のような奴と、半鳥人のような奴だった。

 こいつは(くちばし)もなく人間に近い顔だ。


「もろに鳥だなこいつら」


 ユーキは呟くと、もう鳥人たちに関心を無くし、手元で槍っぽい武器を眺め始めた。

 すると幾つかボタンのようなものが付いているのを見つけた。


 何か見つけると触ってみたくなるのが、人の(さが)というもの。



 スッと、不意に周囲の空気が変わった。

 そして、ヒュンと、風を切るような音も微かに聞こえた。


「そう……ただのこだわりだよ。結婚するなら好きな相手としたいだろ? でも、この世界にいないんだ。そんな中運良く、いないはずの好きな相手と同じ姿の子を見つければ、我が物にしたいと思うよね?」


 コトン……コトン……。


 何かが転がる音が聞こえた。



 何処かで聴いたことあるような、無いような、澄んだ声。しかし、冷えきった声だった。


 俺は身動きが取れなかった。

 反射なのか、指が軽く槍? のボタンに触れてしまい、その瞬間、槍?の先端から放電現象のようなものが出て、眼前のオブジェが粉砕された。


 自ら物陰を無くしてしまい、ユーキは一気に窮地に立たされた。


「鼠が入り込んでいたようだね。しかも俺の偽物(にせもの)じゃないか」

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