表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

9、前世の記憶

9、前世の記憶



『うふふふ、嫌だ死神だなんて』


一瞬、頭の中に女の声が聞こえた。


「誰だ?」

「すみません……私です」


後ろを振り替えると、コップを持ったトパーズがいた。


「お前と違う」

「は?いえ、後ろにいたのは私ですけど……」


声が全然違う。トパーズの声じゃない。


「もしかしてと思い、さっきのジュースに思い出し草のエキスを入れてみたんです」

「思い出し草のエキス?そのせいでさっきの声が聞こえたんか?」

「そうですね。何か思い出し草?」


うわぁ……ここでダジャレ……。


「寒っ」

「ホットジュースをもう一杯いかがですか?」

「いらんわ!」


すると、トパーズは持っていたコップを庭にあったテーブルに置いて、その側の椅子に座った。


「私には前世の記憶があるんですよ。聞いたら、リーリアさんにも少しあるんですって」

「リーリアに前世の記憶?俺にはそんなもんないな」

「今は私、その研究をしているんです」


トパーズは前世の記憶のある人々に話を聞き、ある結論にたどり着いた。


「私達はこのゲームで失った冒険者の魂を元に生まれたキャラクターなのではないかという事です」

「前世の記憶があるやつは冒険者の生まれ変わりって事か?」

「前世の記憶は皆さん一様に異世界での生活でした。ここでの異世界、それは冒険者の来た現実世界の事ではないでしょうか?」


じゃあ…………もしあの、トムという男が悠希の生まれ変わりなら…………


悠希であって悠希ではない。


できれはそう思いたかった。


トパーズが言うには、新しく現れた存在のほとんどが元冒険者ではないかと言っていた。自分がいつから存在したかなんて俺にはわかるわけが無い。しかし……


「おそらく、どこかの王家や力のあるキャラクターは何かしら現実世界の記憶があるようで、元冒険者の可能性が高いと思います。ですからおそらくエメラルド様も……」

「何度も言わせんな。俺には記憶なんぞ少しもない」

「さっき声が聞こえたって言ってましたよね?」


つまりさっきのあれが……前世の記憶?


「もっと飲めばもっと思い出すかもしれませんよ?いかがですか?」

「いや、いらん」


前世の記憶があれば、俺はスカスカな俺じゃなくなるかもしれない。現実世界の人間だった、そう思いたい。


でも、何故か前世の記憶は思い出したく無かった。


そうは思っていても、自分の意図は関係無く思い出し草の効果は続いていた。


「アカネ……そいつはアカネって名前や」

「アカネ?……アカネ!ちょっと待っててくださいね!」


その名前を聞くと、トパーズは慌てて研究所の中へ入って行った。


しばらくすると、研究所から出て来たのはトパーズでは無く…………


「莉奈……」


莉奈が俺の方に近づくと、誰か知らない女とダブって見えた。


「大丈夫?緑……」

「俺は緑やない」


お前は……誰だ?


少しクセのあるロングヘアーの女だった。


「緑?何言ってるの?」


心配するその顔は莉奈とは全然違う顔だった。


「やめろ!俺に近づくな!」


そう叫ぶと、女の姿が消えた。


「あ、いや……すまん。トパーズの薬で変なもんが見えた……」

「変なもの?あの薬、変なものが見えるの?」

「前世の記憶とか何とか、胡散臭いもんが見えるらしいで」


あの女の残像に、何故か手が震えた。


嫌悪感?それとも違う。


その時初めて気がついた。俺は女が嫌いと言うよりは、多分…………あの女が怖い。


「あのさ、回復……まだしてなかったから……」

「そんなもん自分でできるわ」

「覚えてるかわからないけど、練習台に……」


莉奈のその優しさが苦しい。


俺は智樹を救えなかった。智樹は俺に肉体を譲ってくれたのに…………


「いらんわ!こんな役立たずに回復なんぞいるか!」

「いるよ!回復はいる!ねぇ、ラル、しっかり回復して、智樹の魂を取り戻しに行こう!」

「ダメだ!殺される!」


このレベルでも智樹に太刀打ちできなかった。もし悠希が俺をエメラルドだと気づかなければ、迷わず殺されていた。


どうすればいい?どうすれば智樹を取り戻せる?


「あの…………」


莉奈の後ろから、トパーズが研究所のドアを少し開けこちらを見ていた。


「頼む!トパーズ、その研究は発表しないでくれ」

「え?その研究?」


俺はトパーズに事情を話した。少なくとも1万は殺される可能性があるという事を話した。


「王族や力のある人々が元々冒険者だとわかれば、死神は冒険者かどうか関係無く、見境無く人を殺すようになる」


悠希が死神だという事は、莉奈には言わなくてもなんとなく伝わったようだった。


「冒険者の魂を集めてどうするの?」

「ほんまか知らんが『purus aqua』に必要なんだと」

「やっぱりお兄ちゃんはどうしても『purus aqua』が欲しいんだね……」


すると、トパーズは持っていた書類を見て言った。


「あの、先ほどエメラルド様がおっしゃっていた『アカネ』という名前……赤の国の女王様が前世の名前だとおっしゃっていたんです。それに、ルビー様はレベル制限解除の権限もお持ちです。一度ルビー様に会ってみてはどうでしょう?」


ルビー様?もしやトパーズは国の認定研究者か?


「ルビー?」


その名前に、莉奈は何かに気がついた。


「ねぇラル、気がついたんだけど……私の周り、宝石の名前ばっかりだなってずっと思ってたんだけど、それってこのゲームの特徴なのかと思ってた。王子やお姫様だからだと思ってたんだけど、よく考えたらそうじゃない人もいるよね?」


確かに、リーリアは姫だが宝石の名前じゃない。アメジストやトパーズは宝石の名前だが姫ではない。それに何の意味があるんだ?


「トパーズの前世の記憶ってどんな記憶なの?」

「私の記憶は…………」


トパーズは言葉を濁した。


「…………お友達でした。ルビー様と、エメラルド様と、サファイア様と……」

「そっか、前世ではみんな友達だったんだね!だからみんなで宝石の名前つけたのかな?」

「前世で繋がっているから宝石の名前?そんなわけあるか?」


それにしてはトパーズの様子が少し気になった。それは、俺達に何かを隠しているようだった。


「そうかもしれませんね……」


何かを隠されている。それがわかっていて、イグニスの城へ行くのは少々気が引ける。


「ルビーに会うより、泰希にステータスいじってもらった方が手っ取り早いわ。俺一度あっちに戻るわ」


結局、力に対抗できるのはそれ以上の力しかない。


「ラル、ちょっと待って。アメちゃんとクリスは?智樹はいたのに、あの二人はいなかったの?」


そういえば……一緒にいたはずの二人の姿が無かった。何故智樹が魂の入れ物を集めていたのか疑問が残る。それに、泰希はこう言った。『一緒におる奴の入れ知恵か知らんが』あの二人は『purus aqua』に1万の魂が必要だと知っていた?


「まぁいいや。それより、赤の城へ行ってレベル制限解除してもらおう?私これ以上全然レベル上がらないんだよね」

「ちょっと待て?お前、俺が行っとった間一体何をしてた?」

「何って……レベルあげ!」


さも当然かのように、莉奈は言った。いや、リーリアのもてなしはどこ行った!?


「あ、リーリアちゃんに回復してもらって、ここで一番弱いモンスターを倒してたんだよ?」


なんだ?その安全ですアピール。意味不明だ。


後で聞いたら、リーリアは自分の魔力回復のためにアイテムを使いまくったらしい。そのアイテム購入に金貨を注ぎ込んだ事を涙ながらに告白した。


悪いな……リーリア。まさか莉奈が観光ではなくレベル上げをするとは想定外だった……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ