10、ファイアーリング
10、ファイアーリング
「やっぱ嫌や!絶対嫌や!」
「何を今さら!」
「それでは、エントリーナンバー5番、midori aoiさん、火の輪くぐりどうぞ!!」
俺の目の前には業火の如く燃えたぎる火の輪が用意されていた。
それは、小一時間前の事……俺はトパーズの研究所の前で城へ行く事を拒んでいた。
「お元気で!」
そう言ってトパーズが見送ってくれた。しかし……
「嫌や。俺はイグニスの城には行かん」
「どうして?行かなきゃこれ以上レベル上がらないんだよ?」
「泰希に手っ取り早くステータス上げてもらえばええやん!」
そう言って俺は設定画面から、現実世界へ戻る意識解除のボタンを押した。しかし……
「なんでや?なんで戻れん?」
「やっぱり……私もなの……」
「マジか!莉奈もか!?」
何故だ!?
「やっぱりチートに頼るなんてカッコ悪いよ。それより城へ行ってさ、コツコツレベルあげよ?」
「待て……?帰れんのやぞ?お前、事の重大さを理解しとんのか?」
莉奈の様子がおかしい。以前なら帰れないとなればパニックを起こしていた。その落ち着きは何だ?まるで帰れないと知っていたかのようだ。
「お前、泰希と何を話してこの世界へ来た?」
「何って……お兄ちゃんを見つけたら百万円獲得~!」
「そんなわけあるか!そんな、チャレンジ番組みたいなノリで来とるわけないやろ?」
莉奈は少し下を向いて言った。
「次に帰れる時は……死んだ時だって。死んだら帰れるって」
「はぁ?」
「お兄ちゃんのお兄ちゃん?泰希って人に言われた。『悠希を本気で追うなら死ぬ気でやれ』って。それ以外認ないって」
それで……
「いや、それなら莉奈だけ帰れんなら納得いくわ。なら俺は?俺はなんで帰れん?」
「ああ……それは…………」
莉奈は気まずそうに続きを言えずにいた。
「何や?ハッキリ言いや!」
「本来の魂と別の魂が入ると、別の魂と体の癒着が強くなって、元の魂が戻れなくなって元の魂が崩壊する?あれ?肉体がダメになる?どっちだっけ?えーと、つまりは……」
「つまりはこれ以上、智樹の体に入ったらいけんのやろ?」
やっと手に入れた体は、あまりにもタイムリミットが短すぎた。
「だから、城へ行け?そんなん嫌や。だったら火の輪でもくぐれ~言われた方がマシや」
俺のその一言を聞いて、リーリアがこんな事を提案してきた。
「ではお兄様、火の輪、くぐります?」
「は…………?」
何故に火の輪くぐり?
「トパーズ様、確か広場で火の輪くぐり大会が開かれてましたわよね?」
「え?ええ、確か今日まででしたけど……」
「城へ行くのが嫌なら、火の輪をくぐればいいのですわ!」
リーリアに連れられて広場に来てみると『ファイアーリングフェスティバル』と書かれた看板があった。そこには、1つくぐれば普通アイテム、2つくぐればレアアイテム、3つくぐれば超レアアイテムと書いてあった。
アイテムの詳細を見ると、レアアイテムの中に『限界突破の水』があった。これはその名の通り、所定の城へ行かずしてレベル制限を解除するアイテムだった。
これか!これで解決しろというわけか!
「近くの城へ行けば解除してもらえるのに、わざわざ『限界突破の水』選ぶ奴がいる?」
「あれ、2つくぐれば確実にもらえるんやろな?」
「え?お兄さんあれ欲しいの?物好きだね~城へ行きたく無い理由でもあるのかい?」
大ありだ。これ以上、前世の記憶を思い出したら後悔する。そんな気がしてならない。
こんなもんいくらでもくぐれるわ!
そう思い、早速エントリーし、いざ火の輪を目の当たりにすと…………
「やっぱ嫌や!絶対嫌や!」
「何を今さら!」
「それでは、エントリーナンバー5番、midori aoiさん、火の輪くぐりどうぞ!」
こうしているだけで、燃えさかる炎の熱が伝わって来る。何だかその火に侵略される気分になる。
この状況……プールスの鳥コンを思い出す。莉奈はこんな気持ちだったのか?いや、鳴き声と火の輪は全然違う!全然別物だ!!
「俺はトラやライオンとは違うんやぞ?人間や!そら無理やろ?」
「それならお兄様は動物以下ね!豚野郎以下ね!」
「そんなん言われたら余計やる気無くすわ!」
司会が間を持たせる為に、あれこれ余計な事を言い始めた。
「くぐる時に愛の告白をする人もいるんですよ~?どうですか~?」
「うるさい、そんなんいらんわ!」
「お兄様、これ以上そこでグズグズするのは男のコカンに関わりますわ!」
いやいや!そんなマジな顔して下ボケすんな!
「リーちゃんそれ、股関じゃなくて沽券ね?」
莉奈、何冷静に突っ込んでんだよ!こうなったらヤケクソだ!!
「うぉりゃあ!」
何とか1つくぐれた。
「お見事~!もう1つ!もう1つ!次は告白ですよ~!」
「は?告白?」
一瞬、莉奈の方を見たが……
いや、告白はもういらん!今はそんなんいらん!今はこれに集中や!!
「くそっ!」
何故か俺が叫んだ言葉は……
「パイオツカイデー!」
だった。
「彼女さんは胸が大きいというノロケでしょうか?いいですね~!この調子でもうひと超え行ってみましょう!」
「もう1つ!もう1つ!」と会場中がコールしてきた。そのコールに思わず……
もうヤケクソだ!!
そして、気がつくと……火の輪を3つくぐってしまっていた。
「あれ?最後の1ついらんのと違う?」
それでも、レアアイテムの中の『限界突破の水』が欲しいと言うと……
「お客さん、お客さんが飛んだのは3つだったでしょ?超レアアイテムの中からしか選べないんだよ」
「はぁ?ランク下げてレアアイテムの中から選んでもええやろ?じゃ、やり直しや!」
「すみません1人一回きりとさせていただきます。ボーナスイベントなんでノークレームでお願いします~」
仕方なく、どうでもいい超レアアイテムを持って二人の所に戻った。城に行かないと言い張って火の輪くぐりに挑戦し、望むアイテムが取れないとは……何だか情けない……
「も~!しょうがないな~!今度は私が行って来る!」
そう言って莉奈がいとも簡単にゲットしてきた。
「私って前世はトラかライオンだったのかな~?全然楽勝~!」
「トラやライオンが楽々飛んでると思うな?あんなん楽勝かと思われたら動物が可哀想や!」
すると、見に来ていたトパーズがフォローを入れてくれた。
「蒼のハンターは赤の属性が苦手ですからね。碧より相性最悪の属性です。だから火の輪くぐりはエメラルド様には難しいと思いますよ?」
「碧は赤とは平気なの?」
「赤と碧は対等ですからね」
だからイグニスの城へ行きたくない?いや、そうゆう事じゃないんだが……いや、この際そのせいだという事にした。
「でも、アイテムは1つ……じゃあ、これラルが使っていいよ?私は城へ行って来るから」
そう言ってアイテムのオーブを渡して来た。
「待て、こうゆうのは裏技があんねん」
「裏技?」
「実はアイテムをシェアする事ができんねん」
俺はオーブを口に入れて奥歯で噛んだ。そして、そのまま莉奈に口移しをした。驚いた莉奈は俺を押して離れた。
「ゴホッ……ゲホッ……」
そして、むせていた。
「ちょっと何す…………」
「お知らせします。midori aoiさんは『限界突破の水』の効果により、Aランクの限界を突破し、Sランクに上がります。さらに、rina830さんはCランクの限界を突破し、Bランクに上がります」
「嘘…………」
俺は口の中からオーブの欠片を吐き出すと、莉奈の方を見た。
莉奈は意外にも顔を真っ赤にし、耳まで赤く染めていた。
「なんや……可愛いとこあるやん……」
「うるさいな!こっち見ないで!」
そう言って顔を隠した。
「べ、別にアイテムシェアしただけじゃん!そう、シェアしただけ……それだけ、それだけ」
莉奈は自分を納得させる事に必死だった。その様子がなんとも可愛らしい。
「柔らかい唇やったな~それだけ、それだけ」
「やめてよ!思い出す……」
また莉奈は顔を隠して、頭をぐしゃぐしゃにして苦悩していた。
これはいい。この事でしばらく莉奈をからかって遊べそうだ。




