32、青へ続く世界
32、青へ続く世界
運命なんて、簡単に変えられるものじゃない事ぐらいはわかっていた。
これが元々の俺の運命なのか……それとも、これが俺の変えた運命なのか……?
「悠希、お前は俺より強い。より強い者が望むものを勝ち取れる。それが当たり前や。でも……莉奈は渡さへん!お前には絶対渡さん!」
ダメか……………………
力及ばず、俺の一撃は悠希の氷の剣に弾かれ、その剣がまるでマジックショーのように俺の体を突き通した。
「ラル!」
悠希が俺の体から剣を抜くと、莉奈が目の前に俺に背を向けて立ちはだかった。
「やめて!お兄ちゃん!これ以上はもうやめて!」
莉奈はよろけた俺の前に立ち、両手を広げ悠希の振りあげた剣を止めさせた。
「ラル!モルスのヴィトロ!」
「空のヴィトロは……持ってへんのや……」
当然、莉奈も持っていない。莉奈が不安そうな村人に配っているのを俺は知っていた。
これで、もうおしまいだ。
モルスのヴィトロは一度使うと消えてしまう。俺には中身の入ったヴィトロしか残っていない。以前死神になった時に集めていた冒険者達の魂だ。
冒険者達…………?
刺し傷の痛みに朦朧としながら、俺はある事を思い付いた。
「…………負けるが勝ちや」
俺は持っていたモルスのヴィトロの中に、黒い砂をかけて冒険者を出した。俺が苦労して戦った高レベルの冒険者達だ。……20、いや、30近くの冒険者が出て来た。
卑怯でも、カッコ悪くても構わない。とにかく俺は…………莉奈を現実世界へ帰す!それだけだ。
俺は震えた声で叫んだ。
「死神は……YUKや!敵はYUKなんや!」
すると、ヴィトロから出た冒険者達は我に帰り、悠希に向かって行った。
「YUK!……よくも!」
「エメラルドお前…………」
悠希はかなりの人数の冒険者に、ひとまず逃げた。さすがの悠希も高レベルの冒険者を一度に何人も相手にするとなると、その命が危ぶまれるだろう。
「そっちへ行ったぞ!逃がすな!」
冒険者達は悠希を追いかけて行った。
俺はとうとう立っていられなくなって、莉奈の肩に持たれかかるように倒れた。
「莉奈……逃げろ。これでしばらく時間を稼いだ。今のうちに現実世界へ帰るんや……そうすれば……この世界も救われる」
「ラル!しっかりして!こんな世界どうでもいい!ラルがいてくれれば……他に何もいらない!」
「そら無理やろ?この世界は俺にとっては現実世界や……お前と過ごした……ホンマの世界なんや……」
自分のHPゲージがどんどん減っていくのがわかった。俺は最後の力を振り絞って、莉奈から離れた。
「嫌!待って!今、回復魔法……」
「そんなんいらんわ……早く死の神殿へ行け!」
それでも、莉奈は俺を抱え離れようとしなかった。
どうしたら…………莉奈を先へ進める?
「お前なんか……お前なんか……」
「お前なんか何?いいもん。いくら憎まれ口叩かれても、絶対にここを離れない」
俺に残された時間はもう限り少ない。
「お前なんか……俺の事、好きやないやろ?こんな醜い魂……嫌いや~言うてくれて構わん」
今度こそ後悔の無いように、ちゃんと莉奈と別れ話をしなければいけない。イグニスの時のような後悔は、もうしたくない。
「回復するから……」
莉奈は俺の唇にそっと唇を寄せた。
「そんなん回復になるかいな…………」
以前のように都合良く、キスで回復したり復活する事はなかった。
「だったら呪文……」
「ええわ……お前、俺の元気な姿想像して、また泣くやろ?最後にお前の泣き顔なんか見たないわ」
「そんな事ないもん!空の青さ知るは魂の光、海の碧さ知るは……深き闇の灯……地の蒼さ……知るは…………」
莉奈は途中から声が震え、呪文がたどたどしくなっていった。
「ほら、言わんこっちゃない……参ったわ……俺、お前の泣き顔も好きなんや。笑顔も怒った顔も好きや。これは……重大な……バグや……」
このバグという奇跡に気がつけたのは、莉奈、お前のおかげだ。
「お前のためなら死んでもいいと思えた。死んでもお前を守りたいと思えた」
体の痛が消え、力が抜けて来た。そしてとうとう、体の足先から少しずつ消えていった。
「それは……この上ない幸せな事や」
莉奈は俺の体に必死でしがみついた。
「ダメ!ラル!!ダメだよ!私を1人にしないって言ったじゃない!」
「お前は1人やない……お前には家族がおるやろ?」
今度こそ、もう、終わりだ。
「お前と本物のキス……したかった……」
「それなら、二人で現実世界に戻ろうよ!ねぇ、お願い!」
莉奈の顔は涙で溢れ、大粒の涙が俺の頬に落ちた。
「お前の涙……透明や……これ……『purus aqua』やな……」
その涙に溺れたように、苦しい。やがて声が出なくなってきた。
「ラル!しっかりしてよラル!」
「俺は……ラル……や……ない……緑……」
「緑!緑!!」
莉奈は何度も俺の名前を呼んだ。
「緑……お願い……逝かないで…………」
緑……。
莉奈にそう呼ばれた瞬間、胸に暖かな風が流れ込んで来た。
そうか……俺は緑だ。緑でいいんだ。
暖かい。
辺りは日の出を迎えた。
暖かな太陽が草原を照らし、色鮮やかな草花が咲き誇る美しい景色が見えた。
その一輪の花の葉に、一粒の雫が落ちた。
俺は満たされた。
それは、涙というありふれた水だった。
ただ、別れが辛く悲しい透明な水。
ただ、愛しいと思えた純粋な水。
俺は『purus aqua』ではなく
『透明な水』に………………満たされた。
次に目を開けた時…………
そこは悠希の父親の寺だった。
ここは……現実世界?
座敷に布団が敷かれ、隣には莉奈と智樹が寝ていた。
莉奈と……智樹!?これはどういう事だ?
俺が驚いていると、悠希の父親がやって来て言った。
「あら、珍しいわね~。悠希が起きるなんて。お寝坊さんね~。お風呂、入ってらっしゃい」
するとそこへ、兄の泰希が俺の様子を見に来た。
「悠希、起きたんか?まぁ、顔色は悪く無さそうやな」
気がつくと俺は…………悠希の中にいた。
さっき死んだはず……何故だ?
体がなまっていて、すぐには動けなかった。襖や障子、あちこちに掴まって歩いた。
すると、たまたま古いタンスの引き戸に手をかけていると力を入れてしまい、引き戸を開けてしまった。
カコーン…………
引き出しから何やら玉のようなものが出て来て、俺の頭にぶつかって落ちた。
「何やこれ?」
良く見ると、人の頭骨のようなものだった。
「本物!?いや、偽物か?……ん?これ……どこかで…………」
頭骨をまじまじと見ていると、頭骨が喋り出した。
「ノックオン!反則デース!お久しぶりデース!あなたデスデースネ!」
俺は頭骨を床に置いた。
「トライ!コンバージョンキック?」
そして、窓を開けて、その頭骨を窓の外に蹴りあげた。
「no~!I'll be back!」
そう叫び、外へ消えて行った。
「悠希、お前何してんねん!」
「泰希……」
廊下にいた泰希に、俺は詰め寄った。
「なんで俺と莉奈を帰れなくした?なんで俺は悠希の中におって、莉奈は戻って来てないんや?」
「質問が多すぎるわ。ちょい待ち!お前…………もしかして悠希や無いんか?」
俺は自分がエメラルドだと言った。
「エメラルド……!?」
泰希は驚いていた。それも当然だ。二度と戻る事の無いゲームのキャラクターが、今度は悠希の体に入ったのだから。
「悪いな。どうやら俺はしぶといらしい。天国へのお迎えが来ぉ~へんのや」
窓の外には、青々とした田園風景が見渡す限り広がっていた。
まだ終わらない。
俺の世界はまだ続いていた。
この、蒼の続く世界で。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。最初は辛いな……書きたくないな……と思っていたのですが、段々開き直って楽しくなって来て、最終的には書きたいものが書けたので満足です。
この作品が誰かの暇つぶしになれば幸いです。ありがとうございました!




