13、ヘマタイトの城
13、ヘマタイトの城
白の国ヌーベスは青のプールスより高い高度に存在する空中都市だ。
ここでは外見と性別の変更できる。攻撃力や防御力の特化など、自分の特性を生かし、強化する事ができる。武器や防具のカスタマイズもできる。プールスが中級レベルの加治屋だとすれば、ここはハイレベル冒険者御用達の加治屋だ。
さすがの俺もここまでは来た事はなかった。今までプルスの王子だった俺は、ヌーベスに来る必要もなかった。今まで自分のステータスを数値で見る事もなく、ましてや限界突破の水を使う機会など1度もなかった。
俺が泰希に能力値を変えてもらった話を莉奈にした時、莉奈はこんな事を言っていた。
「泰希さんにはそんな権限は無いんだって。その能力値は、本来のエメラルドとしてのステータスを冒険者用に数値化したものなんだって」
なんだ……俺、自分が思うより強かったんだな。
だから、現実世界へ帰って泰希に頼んでも無駄だと言った。
違う。本当の泰希の思惑は別にある。
あいつは多分、俺を現実世界にいさせたく無いんだ。この世のものではない俺を、ここに閉じ込めておきたいらしい。王子が嫌なら冒険者としてこの世界にいればいいだろうと言いたいんだろう。
泰希がこの世界に来ない理由もわかった気がする。泰希には見えてしまう。魂の本当の姿が。だからこの世界に来る事を拒み続けた。
外見をいくら変えても、俺の魂の姿はあれだ。あれは多分……変わる事はない。
それでも、莉奈には王子の姿の俺を見ていて欲しい。外見は申し分無い。あとは能力だ。YUKを超えるために、ヌーベスで強化するとするか。
と、思っていたのに………………
俺は今、何故か黒の国にいる。
魔王ヘマタイトの城がある、黒のテネブラエ。正確には国としては認められていない。城の周りに街ができ、それを国と呼んでいるだけだ。
俺達を乗せた気球は、もう少しでヌーベスという所まで順調にたどり着いた。しかし……
突然強い熱風が吹いて、気球を大きく揺らした。その熱風は何を示しているのか明確だった。
嫌な予感。おそらくトパーズの言う元カノ、ガーネットだ。
「うわぁ!」
「皆さんしっかり掴まってください!」
すると、俺の背後に突然女が現れて、俺の首に腕を絡ませた。
「見ぃつけた」
こいつ幽霊か!?この高度で突然女に絡みつかれたら、完全なるホラーだろ!?赤い瞳を光らせ、白い腕が俺にまとわりついて来る。
莉奈達は不安定な気球にしがみつき、その恐怖に動けずにいた。
俺は少しずつ気球のかごから引きずり出されて行った。
「ラル!」
「離せ!離せこの!」
何て力だ!全力で抵抗しても、その華奢な腕を全然外す事ができない。
とうとう俺はかごから滑り落ち、その女と共に急転直下。雲の中へと落ちて行った。
「ラルーーーーー!」
「莉奈!」
莉奈が差し出したその手は、掴む事ができなかった。
掴めたかもしれない。だが…………ここで、莉奈を巻き込んではいけない気がした。
俺は落ちて落ちて、やがて気を失った。
次に気がつくと真実の泉の中だった。
勝てない相手だという事は十分に承知している。
それでも、ここで戦わなければ、
一方的に死ぬだけだ。
それだけは確実だ。
俺はあちこちを焼かれ、皮膚が爛れ見るも無惨な姿になっていた。風邪が吹くだけで激痛が走る。痛みにどうにかなりそうだった。
早く……早くここから逃げなければ……
そう思っているとそこへ、死んだ目をした男が俺の目の前に立ちはだかった。
「クォーツ!そこを退きなさい」
クォーツという男はひどく痩せていて、黄色の肌に栗色の髪、栗色の瞳の男だった。この男には全く感情が見られなかった。
「………………」
「私の言う事が聞けないの?」
その男はどこか、俺の魂の姿と似ていた。
「いい様だな。お前にはそっちの方がお似合いだ。何、ガーネットに服従すればすぐに楽になる」
「お前は……俺か?」
「そうよ。緑、クォーツもあなたの一部」
一部?
「この世界には何人もの自分がいる。だけどね、余計なのも沢山いるの。冒険者だとか言ってこの世界を我が物顔で歩く輩が我慢ならないの」
「このゲームは俺とお前だけのもんと違うやろ?」
「いいえ。この世界は二人だけのものだった。あいつがこれを現実世界で普及させなければ……」
あいつ?これは、誰が人々に普及させた?
「あいつが金の為に他人なんか入れるから、私は緑となかなか会えなかったのよ?」
だとしたら、俺は意図的にそいつにこのゲームを普及させたと思えて仕方がない。俺はこいつと離れる為に、そいつは金の為に。完全に利害が一致している。
「ガーネット、こいつをヘマタイトに会わせてやったらどうだ?」
「今さら緑がヘマタイトと会った所で何?私には何の関係もないわ。また二人で私を除け者にする相談でもするんでしょ?」
「そうかもしれんが、ヘマタイトに会えば思い出すかもしれんな~なんや?その……俺が?お前を?好いていた事とか?」
そう言うと、ガーネットは帯びていた熱が少し緩んだ。
「仕方がないわね」
そう言うと、背中の真っ黒な羽でどこかへ飛んで行ってしまった。
「来い。こっちだ」
俺はクォーツに城の奥に案内された。庭から入り口に差し掛かると、ガーネットの姿が完全に見えなくなった。
「あいつを好いていた事なんか微塵も思い出せそうにないわ。お前は覚えとんのか?」
「俺は……少し覚えている。お前はルビーに会った事はあるか?」
「あ~あの子供か。無邪気で可愛らしかったわ。ルビーもガーネットも茜なんやろ?」
薄暗い廊下は数本の蝋燭に照らされていた。正に魔王の城のようだった。
「二人……三人は茜の魂から分裂したキャラクターなんだ。茜にも、あんな風に無邪気で可愛らしい所もある。だから、僕は今でも茜を愛している」
「だったらなんでそんな死んだ目ぇしてんのや?」
ちょっと待て?今、三人って…………?
すると、クォーツは大きな扉を開けた。そこには、大きな玉座があり、大きな怪物がいた。
「これが…………魔王、ヘマタイト……?」
まるで鬼のような形相の怪物が玉座に座っていた。
「久しぶりだな。エメラルド。いや、蒼井 緑」
「あんたがこのゲームを現実世界に普及させた奴やって聞いたで?金の為とはいえ、こない人の魂集めてどないすんねん。ただの悪趣味やろ」
「その通りだ。私は元々悪趣味なのよ」
その魔王の風貌に、少しオネエの喋り方…………
「お前……悠希の父親か?」
それは予想はしていた通りだ。現実世界でこのゲームに詳しいのは父親と泰希しかいないと思った。
「そんなもの、答えて意味があるか?」
確かに、こいつが悠希の父親だとわかったとして何の意味もない。こいつは最初から敵か味方かわからない奴だった。
「緑、少しはマシになったな」
「どこが?あちこち爛れて最悪や」
「魂の姿が……以前よりマシになったと言っているのだ」
魂の姿……?
「あんたも魂の姿見えるんか?」
「ああ、お前達の醜い姿がよく見えているぞ」
魔王ヘマタイトは魔王というよりはまるで、閻魔のようだった。ならばここは地獄か?天国でも現世でもなければ地獄か。この地獄では、俺は悪い意味で女にモテていた。
「ガーネットが目の前にご褒美ぶら下げて、お前の息子に人殺しさせてるで?ええんか?」
「1万ほどの魂、問題ない。それで悠希の気が済むならそれでよい」
1万ほど……?
「他の冒険者がそれを知ったら1万や2万じゃ済まんやろ?」
「それは、悠希のように死神になれればの話だ」
「なら、どうしたら死神になれる?」
俺がそう質問すると、ヘマタイトは鼻で笑った。
「なってみればわかる」
死神になる方法を聞いて、アホらしくなって城を出た。外にはボーっと空を見上げるクォーツがいた。
「クォーツ、さっきの三人ってもう1人は誰の事や?」
「もう1人……?ルビー、ガーネット……あとは、トパーズ」
「トパーズ!?」
待て?今…………ヌーベスで莉奈とリーリアが一緒にいるのは…………
あの、トパーズだ!




