14、死神
14、死神
永遠の愛を誓う言葉に『死が二人を別つまで』と言うが…………
生も死もないこの世界で、どうやって別れればいいんだ?
「トパーズ!?それを早く言わんかい!」
嫌な予感がした。トパーズが茜の魂なら…………莉奈が危ない!
すると、クォーツが言った。
「ここは俺が何とかする。お前は行け」
「逃がしてくれるんか?さすが俺やな」
「違う。どうせガーネットからは逃れられない。せめてお前だけでも……今は自由でいればいい」
そんな死んだ目をして言わないでくれ。茜を今でも愛しているというクォーツの目は、とても絶望的な目をしていた。それが自分自身だと思うと複雑な気持ちになった。
しかし、すぐにガーネットは俺の目の前に戻って来た。
「どこへ行くつもり?」
「いや、その……回復がてら散歩でも……」
「回復なんていらないでしょ?」
は………………?
すると、突然ぶん殴られた。
「いっっっ!って~な!何すんねん!」
「回復する必要なんか無いわ。これから死ぬまで私に痛めつけられるんだから」
その笑顔が恐ろしかった。その隣で無表情のクォーツを見て、さらに背筋が凍るようにゾッとした。
感情を無くし、ここまでの顔になるまで…………?
「空の青さ知るは魂の光、海の碧さ知るは深き闇の灯、地の蒼さ知るは万象の癒し。その力を持って癒したまえ」
回復の呪文を唱えながら、莉奈に回復呪文を教えた時の事を思い出していた。何故かその時、自分の回復するイメージではなく、思い浮かべたのは莉奈の笑顔だった。
「それならこっちも魔力の続く限り耐えたるわ」
こんな事なら、僅な時間でもあの時莉奈の手を取って置けば良かった。もう二度と会う事もな………………
ズドーーーーン!!
「何!?」
「何や?」
何か大きな塊が空から落ちて来た。砂煙から出て来たのは……
巨大なネズミ!?
「ラル!助けに来たよ!」
に乗った莉奈!?
「お前なんでこんな所に!?」
このテネブラエはSランク以上で入る事を許される。
「これが本物のチートだよ!」
「おお~!どんな手使ったか知らんがこれがホンマのチートか!」
「え?違う違う!これがチート」
は…………?
莉奈は懸命に巨大ネズミを指差していた。
「こちら、ジャンボアルマジロのチートちゃん」
「いや、名前にチートってつけたらアカンやろ!」
「チートちゃん、こう見えて何気にSランクなんだよ?」
何のSランクだ?重量?重量か?
「知ってました?アルマジロって完全に丸まらない種類の方が多いんですよ?」
「そんなん知らんがな!」
「そこは、なんでやねん!でしょ?」
ここでダメだしか?感動の再会は?あの感動はどこへ行った?
「何だか使えない関西弁」
「使えない言うな!この関西弁は、莉奈が関西弁が嫌いやから……これはお前に嫌われる努力や!」
「はぁ?嫌われる努力?」
莉奈とそんなやり取りをしていると、ガーネットが一気に熱を帯びて、赤い目を光らせた。さらに触手が何本も伸びて、化け物のような姿になった。
「その……その……嫌われる努力は……私だけの……私だけに…………もうダメ……もう…………その女は生かしておけない!!」
何故かガーネットに火がついた。
炎上、炎上、大炎上。俺には全くこの女の着火点がわからない。
俺は化け物になったガーネットを攻撃しようとすると、クォーツにその攻撃を防がれた。
「お前……何考えてんねん!お前がそいつを庇う義理なん無いやろ?」
「俺は……茜を……アイ……シ……テル……」
「そんな目で愛してるって言うな!」
クォーツはガーネットの絡み付いた触手にその体を焼かれていた。
「莉奈……俺、今決めたわ。俺……死神になる」
「え?海賊王になる?」
「この状況でそんなボケいらんわ」
俺と莉奈はガーネットの攻撃を避けながら噛み合わない話をした。
「俺が悠希の代わりに死神になる」
「ラル!?何言ってるの?」
「そうすれば智樹の魂も取り戻して、悠希と共に現実世界へ帰れるかもしれん」
この兄弟三人全員、無事に現実世界に返してやりたい。そう思った。俺のように魂が分裂し、クォーツのように、こんな目にならないように……。
ヘマタイトはこう言っていた。
死神になるには、まずは殺せるはずの者を殺せるか。要するに、冒険者は冒険者同士は殺せない。しかし、村人やこの世界の人間なら殺す事ができる。それをやってのけた者が、やがて死神となってゆく。
そんなもの、ただの殺人鬼だ。
「元々死んだ人間を殺して何の問題がある?この世界では、現実世界の法では裁けぬ。奴らは自らの足でこの世界に来たのだから」
そうかもしれない。そうかもしれないが……悠希のように、甦りの水『purus aqua』を求める者も少なくはない。それは、また生きたいという者の願いだ。
ここは元々俺が始めた世界だ。俺が死神として終わらせるのが俺の役目だと思う。それが、俺がここにいる目的で、理由で、存在意義だ。そう思えた。
俺は今は冒険者。つまり、ガーネットは殺せる者だ。ここでガーネットを殺せば……
俺は死神になる。
「最初から決めてんねん。もし、俺が死神になる時は…………一番に殺すのは、お前やって」
「緑、あなたには死神と言う名前がとても相応しいわ。でもね?一番に殺されるのは御免だわ。私、そんなザコキャラじゃないのよ?」
俺が持っていた蒼の剣でガーネットを突き刺そうとすると…………
その体を貫いたのはガーネットでは無く、クォーツだった。
「お前……どうして?どうして最後までこいつを庇うんや?」
「庇う?それは違う。俺は茜に殺されたくはない」
それで……俺に、俺自身に殺されて満足か?
すると、クォーツは俺に少し口元を上げて、最後の一言を残した。
「ああ、満足だ。あいつの前で死んでやりたかった。これで、俺は自由だ」
そう言って、クォーツは跡形もなく消えた。
俺は現実世界の自分を思い出した。茜に神経をすり減らし、ひどく痩せ細り、毎日死にたいと思っていた。
「クォーツ!クォーツ!!」
消えたクォーツを探して、ガーネットが長い髪をかきむしり、ひどく取り乱していた。
「よくもクォーツを……エメラルド!」
「ラル!これを!」
莉奈がとっさに盾をよこして来た。その盾を構え、ガーネットの攻撃を受けると、お互いに強い衝撃を受けた。
「痛っ!なんやこの盾は?全然攻撃防げてないやん!」
「これ?『痛み分けの盾』だよ?リーちゃんとヌーベスで買ったの~!」
いや、観光でこんなの買う?普通盾買う?お土産に盾買われたら複雑な気分にならない?なりませんかね?
「喧嘩両成敗。衝撃を半分ずつに分けて、お互いに同じだけ攻撃受けるの。ウケる~!」
やめろ。ここでダジャレはマジでやめてくれ!
俺は弱ったガーネットの胸に、剣をつき立てた。
「ごめんな。茜。もっと早くこうするべきだった。俺がお前から逃げず、ちゃんと向き合っていれば…………」
「今さら謝るの?バカね。私はずっと待っていたのよ?この世界で、悪夢のようなこの世界で……あなたに殺されて死ねる時を……ずっと……ずっと待っていたのよ?」
そう言ってガーネットは、その体を突き立てた剣にその胸を差し出した。ガーネットがこっちに近づくほど、突き立てた剣はその体に食い込んで行った。
「だって……私……ずっと……あなたの一番が……欲しかったんですもの……」
すると、ガーネットの体が砂のように崩れ落ちていった。ガーネットは笑顔だった。
「緑……愛し……て……る……」
最後の一粒になるまで、ガーネットは笑顔だった。




