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狙われた邂逅

お久しぶりです

 ある日の昼下がり、ニクスはまたも体を酷使したせいでリハビリのやり直しを余儀なくされ、ゆっくり歩く練習から始めていた。フィラファスは、転んだり跳ねたりするニクスをぼーっと眺めながら片手間に書類を片付けている。こういう所で有能、無能が別れるのだろう。


 と、本日の料理担当であるガレスが組合員を呼びに来る。


「遅くなったけどご飯できたよー」

「何してたんだよ〜」


 ちょっと失敗しちゃった、などと悪びれる様子もなく舌を出すガレスに皆は「まあいいかガレスだし」と言わんばかりのなんとも言えない顔で、長テーブルに集まる。気づいたフィラファスもニクスの腕を掴むとテーブルに連れていく。


「いや、フィラーさん、ありがとう」

「はいはい。じゃあ、いただきます!」


 カチャカチャと、だいぶ味の濃いチャーハン的な物とやたらおいしいスープを食べているニクスの後ろに、黒い影が立つ。


「二ークス! リハビリやってる?」

「アッ!?」


 なにかしていた様で、まだ席に来ていなかったライシスだ。マスター権限で護衛のため一緒に行動する事が多く、かなり仲良くなってきた。少なくとも好感度はベクターを追い抜いたらしい。今では後ろから突き飛ばされる程度になった。まあ、実質ご褒美のようなものだ。


 後ろから首に氷を当てられたニクスは奇妙な声を上げ、ほんの少しだけ腰が浮く。瞬間、力が入りすぎて持っていたスプーンが粘土細工のようにプツンとちぎれる。


 スプーンの先端が真下にあるスープの器の中に入ると、三分の二くらいが飛び出し、隣で座っていたベクターの顔にジャストヒットする。アツアツのスープを顔全体で食べてしまった彼は顔を覆い、とある大佐の様に叫びながら仰け反ると椅子から落ちて動かなくなる。


 ニクス自身も椅子から浮いている事に気が付かなかった。尻が椅子に触れると「ベキョ」と言う悲しい音を立て、くしゃくしゃに潰れる。これが、カンストのケツである。


「うぅおおおお……」


 空気椅子状態になり、落下していくニクス。右隣に座っていた男の人が思わず手を出し、落ちるニクスをキャッチする。が、地味に重かった為に手からこぼれ落ちてしまった。ライシスは焦っているだけで助けてくれず、ベクターは相変わらず動かない。

 組合を壊されては堪らないとばかりに、フィラファスがタックルを敢行し、横に吹っ飛んだ所でニクスの重力ベクトルが変化した。組合の外に放り投げられる。地面が大きく凹んでしまった。


「だ、大惨事……」


 元凶なのに他人事のように呟くライシス。見事なピタゴラ○○ッチだったが、こんな所で犠牲の犠牲になってしまった人が二人も出てしまった。のびているニクスとまだ動かないベクターを回収しながら、周りの人に頭を下げるフィラファスであった。



 大事故スイッチから数時間ほど経った時、組合の外がまた騒がしくなり始めた。ただ、なにかいつもの騒がしさとは違う。まるで何かの襲撃を受けているかのような、そんな感じだ。ニクスの記憶に残るのは、暗闇の中『一人しかいないはずなのに聞こえる六つの風切り音』というものだ。人間、記憶の中で最も印象に残るのは音だという。その次に視界、次ににおいと言った順だと、ある人は言った。


 ――その音は、まさに記憶と合致する。近くにバスタードがいる。今、周りの人々に危害を加えている。



「どこに居やがる……見つけないと、被害が!」

「待って! ニクス、私といなさい!」


 フィラファスの静止より先に、組合を飛び出すと走り出した。あの時の子供の様に。だが、探し物は向こうから現れた。ニクスとすれ違うように走ってきた大柄な男。思わず目が合うが、その瞬間、ドラグレアの不意打ちよりも素早い拳が飛んでくる。ガードは追いついたが、二発目、三発目があらゆる方向から飛んでくる。四発目は蹴りだった。弾き飛ばされると、また目の前に現れた。奴と再度目が合う。



 にやりと笑った。人間の基本形体である二本の腕、一つの頭が変質し、完全なる人外に変貌する。声がエコーのかかった気色の悪い声になり、《《挨拶》》をしてきた


「Good evening」

「バスタード……!」


 前よりもずっとスピードが速くなった槍を突き出すが、完全に見切られている。ひょいと躱すと、顔面に一発入れられる。が、仰け反ることは無い。反対に無防備な腕にデコピンを食らわせた。腕の一本をもぎ取れる……こちらはカンストしているのだ。が、全く聞いていない。腕は後ろに跳ね上がったが、威力を完全に殺されてしまった。


「攻撃力二頼ッタカウンター……悪クナイガ、俺ノ相手ジャネェ。オトナシク殺サレテ呉レヤ」

「死ぬのはてめえだァ! シャドーミサイ……ぐふッ」


 未来予知並みの先読みだ。カビが腕を覆うより先に肘鉄がめり込み、倒れこむ。バスタードはさらに続ける。


「オ前ヨ、自分ノ事情ダケニ縛ラレテ『仇討ち』ナンテ綺麗ナ言葉デ相手ノ人権ヲ奪イ去ルノハ『エゴ』ナンジャ無イカ?」

「エゴだと!? なら、てめえが親父を殺したのも、村を消し飛ばしたのもエゴじゃねえか!」


 腹を抑えながら怒り狂うニクスを見下ろす六つの目。この時初めて気が付いた。三つあるうちの一つは悪意に満ちた顔だが、左の顔はひどくゆがみ、白く光る線が二筋入っている。そして、右側の顔は死んでいる様に全く動かない。


「アア、エゴダ。俺ハ奪ウ事デシカ誰カニ認識サレナイ。平等二、前二進ム為……やはりお前はボーレアウより先に消さなければならないな。お前は俺なのだ」

「第二の……だと? どこがお前なんだ、殺人鬼のお前と俺のどこに共通点があるんだ!」


 急に声がしっかりとする。ニクスは反撃の為起き上がろうとするが、頭を押さえつけられる。そしてさらに一発くらい、また動けなくなる。バスタードはその質問に対する返答を返した。


「いずれ分かる……まあこの程度じゃ敵討ちなんか夢のまた夢だろうがな。ついでに言うと、お前にチャンスはもうない。今から死ぬからな。敵は根絶やしに限るぜ」



 というと、拳を振り上げる。腕全体を青白いエネルギーが纏い、少し開いた口からも同じ光が漏れ出している。


朽歪きゅうわいナリヤ空穂粉塵ウツボホコリ


 まっすぐ顔に拳が落ちてくる。何かすることも許されず、先読みに次ぐ先読みと一回できた攻撃のチャンスすら無効化されてしまった。冗談のような強さに戦意をへし折られ、うつろな目で拳を目で追う。顔を砕かれて即死だろう……親父、ごめんよ。敵討ちはできなかったよ。

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