沸き立つ凶弾
だんだん繋がってきました
「ふぃ~」
地面に刺さる槍からカビが離れ、腕に戻ると周囲を見回す。槍を中心に大量の茨のようなものが生え、殆ど分解されてしまい、元の形が何であったのかわからないものを串刺しにしている。カビが解除されると、その茨は対象と共に次第に崩れ落ち、湿地の一部に戻った。
――ニクス達が『妄執の酔水』を解毒しに向かった日から一週間ほど経った。あの事故は、奇襲であることが状況証拠からわかった。卑劣なやり口にフィラファスたちは空いた口が塞がらなかったが、ニクスの推測と概ね同じだった。
今回、ニクスが来ているのは町からそこそこ離れた湿地帯だ。そこを根城にし、旅人を妨害しては被害を出す追い剥ぎの集団を検挙、もし命の危険を伴えば排除するという半ば任務に近い依頼を受けていた。実際、奇襲攻撃と遠距離からの爆撃を受けたので全滅させた。というか、二人ほどカビ人間に変えたあたりで残った七人全員が発狂してしまい、検挙より先に廃人と化してしまった。それと、相変わらず狙われているらしいので、基本的にライシスかベクターが同行している。
「さすがにカビ人間にするのは倫理を完全に無視しちまったか……」
「あんたねえ、奴らの目の前で浸食して、『次はそこのお前』なんて言っちゃうから発狂したのよ! 考えて発言しなさい!」
ここ数日で、ニクスはいくつもの仕事をこなした。こんな依頼もあるが、それ以外はすべて護衛や門番の補佐などといったニクスが真にやりたい仕事だった。
が、どこで狂ったのだろうか。人を殺すのはしてはならない事だ。それなのに自分は、容赦なく行っている。いつの日か『大量殺人者』としてしか生きられなくなるのでは無いかと、今更に恐怖した。
それを見ていたライシスは、無言で顔をそむけた。多分、目を見ていられなくなったのだと思う。苦悩と決意の狭間でもがき苦しむ人の目は他人を畏れさせる。また、ニクスにはバスタードという最低最悪の反面教師がいるのも苦悩に拍車をかけているのだろう。
「……帰るよ」
「わかった…………」
目を閉じていたニクスは、ライシスの声にゆっくりと反応すると立ち上がり、湿地を後にした。それから数日はそのようなことを考えないようにしながらゆっくりと過ごした。
いつの間にかニクスにも二つ名がついていた。この二つ名、有名な狩人や冒険者には大抵付いている。例えばアージスには『不敗』、ドラグレアには『捨て人』。最近聞くところによると、現役時代のフィラファスに付いていた二つ名は目の色を取り、『赤黒の女王』だったそうだ。このように、容姿や能力を何かに見立てて名付けられるのだ。
そしてニクスの二つ名だが、能力の展開時に自分を中心としてカビが円形に広がる特徴を、一部のキノコが生える時に円を描くように発生する『フェアリーリング』と呼ばれる現象になぞらえて『円環の狩人』となった。
何やら下が騒がしい。いつもの如く寝坊をしたニクスは不穏な雰囲気を感じ取りながら階段から様子をうかがう。
「マスターは今いませんと言いました。お引き取りください」
「帰ってくるまでここで待機させてもらう! うちの研究員が一人、独断専行とはいえ行方不明になったのだ! それにうちの試作機も一緒にだ!」
しばらく前に自分を襲った三人組のことで間違いない。怒鳴り散らしている小太りの50歳程度の人は奴らの上司、責任者と言ったところか。独断専行って認めてるなら何も言わないでほしいのだが、そうも問屋が降ろさないらしい。
突如、頭痛が起きる。思わず頭を押さえて目をつむる。頭の中に何者かが話しかけてきた。どこかで聞いたような、聞かないような声だ。
「お前を……たちが……」
「何者だ、誰だお前は!!」
「脅威に……」
頭痛が収まった。声も聞こえない。とぎれとぎれだったせいで何を言わんとしているかがさっぱりわからない。それに、痛みの余波で膝をついていたことにすら気づかなかった。まだあの男は押し問答を続けているようだ。その声がさらに気分を悪くする。黒い何かに心が塗りつぶされるような感じだ。と、フィラファスの声が聞こえてきた。帰ってきたようで安堵した。
「ああ、あの白服ね。組合員に攻撃をして命を脅かしたので消したわ」
「……何だと? ふざけるな! 命を何だと思ってるんだ!」
「お前らこそ俺たちの命をないがしろにしようとしているじゃないか。自分の事を棚に上げてほざくんじゃねえよ……」
あまりに身勝手な言い草にニクスも堪忍袋の緒が切れた。階段の上からぶつける。もとより導火線は短いほうなのだが、最近は怒ることがなかったおかげでだいぶ余裕があった。それにしてもこの男はどこまで自分本位なのだろうか。
「ガキは黙っていろ! ……お前はぺリドントを潰した……円環の怪物か? 丁度よかった、確保し損ねたカビのサンプルを頂くとしようか」
またか。本当いい加減にしてほしい。先ほどからの身勝手極まる発言もそうだが、こんな奴始末してやろうか? 言葉だけでそこまで考えさせた人間はこの男が初めてだ。そこでニクスは少し質問することにした。始末するなら、返答で自分をどう見ているか、見極めてからだ。
「対価は? まさかただで寄越せなんて大それた事は言わないだろうな」
「ニクス!?」
「案外すんなりしているじゃないか。望むものなら何でも渡すつもりだ。何が欲しい? 家か? 金か? それとも地位か?」
失望した。ニクスは大きくため息をついた。こいつはただ能力を悪用するつもりしかないようだ。それだけ分かればもう十分とばかりに、いろいろ高価なものをあげつらう男の言葉を遮った。
「全部間に合ってる。
――――――|Give me your life《対価はお前の命だ》」
左手を突き出し、右手を添える。ベクターの表情が少し柔らかくなった。すると、手のひらに小さな球体が生まれた。それはどんどん膨張すると二つの突起が現れた。突起同士の間にはプラズマが走っている。
「対人バイオ弾、装填。何度も言っているが俺の能力は人を守るための力だ、お前らの兵器転用なんかに協力するわけないだろ……巨人の砲丸!」
ニクスの瞳から光が消えたのをフィラファスは見逃さなかった。振り向くとフードを被った人影――ドラグレアが頷く。ライシスも階段下に到達した。
小さな流星は赤い尾を引きながら男の眉間めがけて放たれた。




