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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第24話 幻視する神に跪く群衆

 王竜の素材を利用して造られた小環は魔力との親和性が非常に高かった。

 何よりも特殊な力として鳴らされた音を遠くまで届けることができ、対象へ自らの望む光景を見せることができる。


 もっとも、同じ道具を使ったところで他の者では曖昧なイメージを届けるぐらいのことしかできない。

 ノエルでも限られた範囲へ強くイメージした幻影を届けるぐらいしかできなかったため小環に新しく備わった能力を忘れていた。


 なら、どうしてそんな能力を付与したのかと造った本人に尋ねたところ……


「知らん。ワシは素材が望むままに槌を打っただけじゃ。当初は強度を上げるだけだったのに気付けば妙な能力を備えていただけじゃ」


 造った本人も望んでいなかった能力。


 オーガ曰く。

 錫杖はノエルが何年も手にしている。既に半身のような存在となっており、王竜の素材が錫杖に宿ったノエルの想いを受けて新たな能力を発現させた。


「そもそも、お前の剣、それに他の連中の武器だって似たようなものじゃぞ」


 詳細は不明。

 それでも困窮した事態を解決できるほどの強い力を秘めている。

 ありがたく使わせてもらうことにしよう。


 シャ―――ン! シャ―――ン! シャ―――ン!


 ノエルが錫杖から音を奏でる。

 今、音を聞いている人たちに見せている幻影は現在のティシュア様の姿。迷宮の最下層にある神殿の前で手を胸の前で組んで祈るようなポーズを決めている。

 幻影を届けるだけで声まで届ける効果はないので、彼女なりの演出だ。


 ノエルの幻影は【ティシュア神の加護】を発動させ、魔力ではなく神気を利用することで、ティシュア様の幻影を届ける際には本物と見紛うほどのリアルな姿となる。

 そこにいる、と思ってしまうほどの感覚。

 手を翳せば、たしかな触感が得られてしまう。

 なによりも本気になったティシュア様から放たれる荘厳な神の雰囲気。


 誰もが『本物』だと判断した。


「ちょっとやり過ぎたかな」

「問題ないだろ」


 ティシュア様の姿を幻視した人々は本物の神の姿を見て跪いていた。

 ノエルと舞を披露した時と同様に人間だけでなく、鬼人までもが同じようにしていた。


 神を正しく信仰する。

 力がないように思えることだが、鬼人に対しては絶大な力を発揮する。


「ガ、ァア……!」

「グゥアアア!」


 苦しみ悶える鬼人たち。

 神を正しい形で心の底から信仰したことによって、不満をぶつけるような存在ではない、と理解して“穢れ”が暴れ回っている。

 数分後には全員が元に戻っていた。


『……いえ、やはりやり過ぎたかもしれません』

「俺も目の前の光景を見て、そう思い始めたところです」


 ティシュア様もこちらの様子は把握している。だからこそ、俺たちがやろうとしていたことを察してベストな場所を見つけてポージングまでしてくれた。いつものリエルに構うような『おばあちゃん』といった雰囲気でなくて本当によかった。


 問題なのは、跪いて祈りを捧げる群衆だ。

 鬼人が傍にいる状況にも関わらず門の上にいるノエルへ向かって祈りを捧げ続けている。

 鬼人騒動と襲撃による混乱は一応の落ち着きを得ることができた。


『問題なのは、現状ではノエルの素性が露見してしまったことです……どうしますか?』

「どうもしません。ノエルは連れて帰ります」

「マルス……」


 ちょっと騒動を収める手伝いをしたら、後は彼らでどうにかすればいい。

 その為に解決しなければならない問題がもう一つある。


「行くぞ」



 ☆ ☆ ☆



 アイラとイリスだけじゃない。シルビアやメリッサとも合流してから街の中央へと向かう。


「こちらを」


 メリッサが渡してきたのは10本の鬼人治療薬。


「どうにか急いで10人分は用意することができました」

「助かるよ」

「そうでしょうか? 薬に頼らなくても元に戻す方法を手に入れたみたいですね」


 メリッサが言っているのはノエルのことだ。

 自分が一生懸命に少しでも多くの薬を用意している間に別の対抗策が用意されていた。苦労が水の泡になるのではないか、と不安に思っている。


「お前なら気付いているだろ」

「……言葉にして欲しい時もあります」


 ボソッと言うメリッサ。

 結局は俺からの言葉が欲しい。


「ノエルの『舞』も『幻術』も欠点を抱えている」


 不完全さと即効性だ。

 鬼人から戻った後は中途半端に『鬼』の体が残ってしまう。そこから完全に戻ることができるのかは本人次第となる。

 幻術もノエルの力が上回ったからこそ成功したが、相手がノエルの力を上回る力を蓄えていた場合には通用しない可能性が高い。おそらくセンドルフには通用しないだろう。


「数が少ないっていう欠点を抱えているけど、その欠点が霞むほどの『即効性』と『確実性』を『薬』は持っている。だから、頼りにさせてもらうさ」

「……いいでしょう」


 どこか照れた表情をしながら後ろへ下がっていくメリッサ。

 その先には『薬』の作製を手伝っていたシルビアがいる。彼女には後ろの方で周囲の警戒をしてもらっていたのだが、メリッサから俺の言葉を聞いて警戒を解いて一緒に喜んでいる。

 まあ、街中なのでそこまでの脅威はない。


「で、どこへ向かっているの?」

「お前、知らずに付いて来たのか」

「いや、教えてくれなかったし」


 事情を聞いていなかったアイラ。

 俺たちは街の兵士であるケイロンさんとカルマンの案内に従って街の中央にある領主の館へと向かっていた。


 アヴェスタ男爵。

 街の規模を考えれば子爵になっていてもおかしくないのだが、アヴェスタ家を地方へ押し込めておきたい貴族の希望もあって男爵家に留まらされていた。代々の当主には野心がなく、温厚な人物が多かったため問題になることはなかった。

 今の当主も同様なのだが、歴代の当主たちの性格に『臆病』が加わる。


 以前までは可もなく不可もなくといった統治がされていた。

 しかし、2年前の政変を機に変わってしまった。


「あの人は自分も糾弾されてしまうことを恐れて表舞台へ全く立とうとしなくなった。それどころか、何もしようとしない」

「へ、何か悪事でもしていたんですか?」

「大きな仕事をする時に業者から賄賂を受け取っていた。額も小さいし、これぐらいならどこの領地でもやっているし、代々の当主たちもやっていたから暗黙の了解みたいなところがある」


 賄賂によって円滑に進むなら、それはそれで役立っていることになる。


「ただ、不正を働いていた貴族や役人が次々と処刑されている話を聞いた領主様は酷く怯えてしまった」


 不正を働くことを恐れた。

 そして、どのような解釈があったのか分からないが、政に携わらなければ不正を働くこともない、と判断して関わることを止めてしまった。


「それは、それで民の不満が溜まるでしょう」

「いや、元から最低限のことしかしてこなかった。こちらから特に何かをしなくても民たちは自分から税を納めて勝手に生活している」


 随分と逞しい領民だ。


「先ほどまでは、それでも問題なかった」

「だけど、致命的なことをしてしまった」


 臆病な性格が災いしてやらかしてしまった。

 説明を受けている内に領主ローエンがいるアヴェスタ家の屋敷へと辿り着いた。


「おい、いい加減に出てきて説明してもらおうか!」


 門の前には叫ぶパウロの姿があった。


「どうしたんだ?」


 パウロの後ろには若い男の冒険者の姿がいくつもある。

 彼らの様子から尋常ではないことを窺い知ることができる。まあ、屋敷を訪ねた理由は俺たちと同じだろう。


「おい、騒ぎがあった時、領主の奴が何をしていたと思う!?」


 屋敷に引き籠もって騒動が落ち着くのを待っていた。

 ……それだけなら、よかったんだけどな。


「街の治安を守る兵士を全て屋敷を守る為に配置して自分だけは助かろうとしていたんだぞ」


 騒動が落ち着いたみたいなので文句を言いに来た。

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