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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第8話 鬼人

「そうか。犯人から元に戻す方法は得られなかったか」


 『鬼』となり、拘束されたおじいさんの息子であるザンガの前でメリッサから報告を改めて聞く。

 【迷宮同調】によって向こうの状況は把握できている。

 しかし、その場にいなければ感じることのできないことを当事者から聞くのは大切だ。


「せっかく網を張っていたのに捕らえ切れずすみません」


 3組に分かれて別々の村を訪れた俺たち。

 その際、それぞれの方法で村や周辺まで警戒できるようにしていた。

 俺とノエルが赴いた村では、ノエルが村を歩きながら神気の反応を探っている間に【地図】を作成させてもらっていた。これにより、どれだけ巧妙に隠れようとも位置を特定することができるようになった。


 おかげで村から離れたはずの商人が近くにあった林に潜んでいることを事前に知ることができた。

 商人なのに林に潜むなど怪しすぎる。

 監視を続けていたところ『鬼』へ変化する騒動が起きたため無関係ではないと判断して捕らえるよう指示を出した。


「馬車の方はどうだった?」


 林へ潜んでいたのは商人のみ。

 一緒にいた御者は馬車を次の村へと走らせ続けていた。


「いえ、彼は無関係のようです」


 商人たちの次の目的地だとされていた場所については話を聞いて知っていた。

 そこで、シルビアに頼んで御者に話を聞きに行ってもらっていた。


「無関係と判断する根拠は?」

「彼は商人ギルドで雇われた人夫でした」


 商人ギルド。

 主に商売であちこちへ赴く必要がある商人たちへの情報提供を目的にした相互補助組織。魔物や盗賊に関する情報は、商人の移動において安全を確保する為には欠かせない。


 御者は、おそらく商人ギルドで臨時に雇った労働力。

 突発的な事故や予想外な商売によって人手が必要になることがある。そんな時に簡単な労働ならばできる者を登録しておき、必要としている者へ提供するサービスも行っている。


「あの御者は、簡単に言うなら貴族崩れの者です」


 親の不正により失脚した貴族の子弟。

 その後、奮起して平民からやり直そうとするものの元貴族であることが知られてしまうと途端に追い出されてしまうため中央では仕事をすることすらできず、追い出されるようにして北部へと逃げてきた。

 幸いにして貴族だった頃に受けた教養がある。

 その教養を活かせば商人ギルドへ潜り込むのは難しくなかった。


「わたしが行った時は既に日付が変わろうとしていたので追い返される勢いでしたが、この村で何があったのか、自分を雇っていた商人が犯人の可能性が高いことを伝えたところ顔面蒼白になりながら教えてくれました」


 商人の下働きとしてあちこちを移動しているうちに御者も『鬼』に関する騒動について聞き知っていた。


 早く解決すればいい。

 そんなことを犯人と思しき商人と話していたところ、実際には犯人の可能性が高い。


「このままだと自分も共犯者にされてしまう。せっかく掴んだチャンスを逃したくなかった……助かりたい一心で教えてくれました」


 とはいえ、決定的な事は知ることができなかった。

 あの商人はセンドルフという名前で、以前はレジュラス商業国を拠点にして商売を行っていたが、ここ数年は困窮するメンフィス王国の北部を助ける目的で貧しい村を優先して回り利益を度外視した商売を行っていた。

 ギリギリ赤字にならない商売を行っており、レジュラス商業国の商人たちから異質なものを見るような目で見られていたらしい。


「思えば怪しさしかない奴だったからな」


 こんな貧しい村を好んで訪れる商人はいない。

 何かしら別の目的があったのかもしれない。


「で、元に戻す方法の手掛かりらしい物はあったか?」


 俺の質問にシルビアが首を横に振る。


「馬車には普通の商品しか置かれていませんでした」


 『鬼』へ変化させる方法が何かしらの薬によるものだったなら解毒薬でもないかと思っていた。

 が、自分も同じように体の一部を『鬼』へ変化させていた商人――センドルフ。

 変化させる瞬間は見させてもらったが、薬のような物を使っている気配はなかった。どちらかと言えば、自らの意思で変化させている。


「魔法かスキルによるものか?」


 まずは『鬼』へ変化させる方法を確認しなければならない。

 シルビアの報告を聞いている間にメリッサが変わり果ててしまったザンガを調べていた。


 結果、分かったのは……


「やはり、魔法によるものではありませんね」


 ザンガの体には、魔法による力が働いていないという事実だった。


「じゃあ、スキルか?」

「スキルって言っても人の体を完全に別物に変えてしまうスキルなんて聞いたことがないけど」


 硬い体を触って調べているイリス。

 まるで鋼のように硬い体。俺たちだからこそ斬ったり、叩いたりといったことができるが、普通の兵士では傷を付けるだけでも一苦労な上、殴られれば簡単に潰されてしまう。

 村で起きたという被害も納得の強靭な体。


「元々は熊の獣人だったのよね」

「そうだ」


 おじいさんの血を継いで熊の獣人。

 頭の上には熊の耳があり、丸まった尻尾が後ろから出ていた。


「あ……」

「ようやく気付いた?」


 それらの特徴が『鬼』に変化したザンガからは消失していた。


「これは鬼人とでも言うべき新たな種族なんじゃないかな?」


 鬼人の体に回復魔法の光を当てる。

 だが、元に戻るような様子はなく完治した状態だ。


 さらに剣で僅かに斬って血が流れるようにした状態で回復魔法を使用してみる。しかし、斬った傷が塞がるだけで元の状態に戻ることはない。

 回復魔法が効いていない訳ではなく、やはり『鬼』になった状態が全快だと見做されている。


「もしかしたら不可逆な変化なのかもしれない」

「そういうことは可能性の段階でも言うな」


 少しだけ振り返っておじいさんの家を見る。

 家の入口に子供が顔だけ出してこちらの様子を覗いている。おじいさんの孫で、ザンガの息子にあたる子供だ。父親の事が心配で仕方ない。


「ガリル」

「おかあさん!」


 今にも泣き出しそうな様子で男の子が自分の名を呼んだ母親の足に抱き着く。その腕には小さな赤ん坊も抱かれている。

 ザンガが暴れている時には姿の見えなかった彼女と赤ん坊だったが、奥さんは異常事態であることだけは咄嗟に察知して赤ん坊だけでも守ろうと抱えていた。どうにか赤ん坊は無傷なまま守ることができたが、吹き飛ばされた時に頭を打ち付けてしまったらしく、今は応急処置だけして頭に包帯を巻いている。

 しばらくは安静が必要な体なのだが、彼女も夫のことが心配で堪らないらしい。


「大丈夫」

「……う、ん?」

「あのお兄さんが絶対にお父さんを元に戻してあげるからね」

「ほんとう?」

「うん、約束してあげる」


 膝を屈めて男の子と目線を合わせたノエルが慰めている。


 メンフィス王国の騒動に少なからず責任を感じているノエル。


「ノエルの判断は?」

「あいつは『鬼』から神気みたいな力を感じると言っていた」

「似た力――私もセンドルフから、すごく嫌な力を感じました」


 おそらく、その力が人を『鬼』へ変えている。

 しかし、その力の正体が全く分からない状態では治療に繋がらない。


「あいつが責任を感じる必要はない。責任を負うべき人間がいるとしたら犯人だけだ。だけど、『巫女』だったあいつは自分のせいだって心のどこかで思っている」

「だから、必ず元に戻す?」

「少なくとも手を伸ばせば助けられる範囲にいるのに助けない訳にはいかない」


 助けられることをノエルが望んでいる。

 神に祈ったところで助けてもらえる状況ではない。ティシュア様の方は、事態に困惑するばかりで解決策を示せてない。


「コストを考えると使いたくはないけど、取っておいてよかったな」

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