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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第34章 鬼人慟哭
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第6話 鬼へと変わりし者

 寝床におじいさんの家を使わせてもらい、寝袋に入って夜を過ごす。

 普通の冒険者なら、こうして夜風を凌げる状況をもらえただけでもありがたいはずだ。俺たちもおじいさんの気遣いに感謝しながら目を閉じる。


 深夜の誰もが寝静まった時間……


 ――ダァァァン!!


「な、なんだ!?」


 外から響く凄まじい轟音におじいさんが起きる。

 すぐにコートだけを着て外へと出る。下は寝間着のまま。緊急事態であるため着替えているような余裕はない。


「なぁ!?」


 外へ出た直後に見えた光景に思わず言葉を失ってしまう。

 おじいさんの家を出たすぐ傍には息子家族が住む家がある。その家の壁が内側から粉々に吹き飛ばされて壁の破片が外に散らばっていた。


 そして、そんなことをした相手を見た瞬間におじいさんが腰を抜かしてしまった。


「なぜ、この村にまで『鬼』が……」


 赤い肌をした大男。

 しかも額からは鋭く長い角が生えている。


「『鬼』……」


 初めて目にする『鬼』。

 その姿は迷宮にもいるオーガに似ている。


 けど、決定的に違うところがある。


「あれは……人だ!」


 膨大と言っていいほど膨れ上がっているものの魔力の反応は魔物が持つようなものではない。


「ザンガ……」

「え……」


 おじいさんの言葉から漏れた人の名前。

 それは、紹介してもらったおじいさんの息子の名前だ。商人と交渉をしていた青年が『鬼』へと変化している。

 そういえば『鬼』は息子家族の家から出てきた。

 息子が『鬼』へ変わったということにも納得できる。


「ぅ……」


 小さな呻き声が聞こえて鬼の手を見る。

 巨大化したことで人の顔よりも大きくなった手。その手に小さな子供が握られているのが見える。


 小さな子供の体は鬼の大きな体にすっぽり隠れている。

 誰なのか判別することができないが、『鬼』は息子家族の家から出てきた。他に村の中で壊された物があるようにはパッと見た限りでは見えない。つまり、『鬼』が襲撃したのは息子家族の家のみ。


 あの家には小さな子供――おじいさんの孫が二人いる。

 奥さんやもう一人の子供がどうなったのか分からない。

 それでも、『鬼』をこのまま放置してしまえば握られている子供が潰されてしまうのは一目で分かった。


「チィッ!」


 舌打ちしてから『鬼』へと跳ぶ。

 けど、俺よりも早く動いた人物がいた。


「ふん!」


 ノエルの振り抜いた錫杖が『鬼』の側頭部を叩く。

 意識が一瞬だけ飛びそうになる『鬼』。もしも、本当にザンガが『鬼』に変貌しているのなら自分の息子を握り潰そうとしている。そんな状態で、どれだけ意識があるのか分からない。


 けど、体がぐらついた。

 その隙を逃さずノエルが錫杖で子供を握る手を何度も叩く。

 痛みから逃れるように『鬼』が子供を手放す。


「わっ!」


 2メートル以上の高さから子供が落ちる。

 地面へ叩き付けられる直前、ノエルが割り込んでキャッチする。


「おとうさん……」


 ノエルに抱えられた子供が『鬼』を見ながら言う。


「やっぱり」

「あれは、おとうさんなんです。助けてあげてください!」


 男の子からの必死な願い。

 しかし、その想いは当人である『鬼』へは伝わらなかったようで聞こえていたにもかかわらず拳を握って振り抜く。


 自分へと向けられる巨大な拳。

 そんな物を見て男の子が思わず目をギュッと瞑ってしまう。

 拳を向けているのは自分の父親。色々な意味で目を開けていられなかったのだろう。


「おい――」


 だからこそ許せない。

 拳の前へ割り込むと拳を手で受け止める。


「――自分が何をしたのか分かっているのか?」


 静かに怒りを燃やす。


「お前にザンガとしての意識がどれだけあるのか分からない。それでも、自分の子供を殴ろうとしたんだ」


 そんなことが許されていいはずがない。

 俺の殺気を受けて『鬼』が拳を引き、後ろへ一歩引き下がる。


「そうじゃないだろ」


 悪いことをしたなら当人にまずは謝らなければならない。


「な、なんだ……?」

「家が壊れている!?」

「おい、魔物だぞ!!」


 次第に騒ぎを聞きつけた村人が家から出てくる。

 あまり、こんな姿を晒したままにしない方がいいな。


 腰の剣に手を掛ける。


「待ってくれ!」


 制止する声に手を止める。


「なんですか?」


 声を張り上げたのはおじいさん。


「もしも……もしも、本当にザンガの奴だとしたら……オレは、ゴジルだけじゃなくてザンガまで『鬼』に……」


 一人は『鬼』に襲われ、もう一人も『鬼』にさせられた。

 もう一人の息子が出稼ぎで村にいないことなんてなんの救いにもならない。


「大丈夫ですよ」


 俺もおじいさんも悲しませるような真似はしたくない。


「彼は俺がどうにかします。けど--」


 手に掛けていた剣を落とす。


「傷付けるつもりもありません」


 武器を手放した姿を見て好機だとでも思ったのか『鬼』が殴り掛かってくる。

 突き出された拳に対してこちらも拳を突き出す。


「う、おぉ!」

「きゃん」


 拳同士の衝突によって衝撃波が周囲へ拡散される。

 近くにいたおじいさんと男の子が衝撃波を受けて吹き飛ばされそうになる。おじいさんは尻餅をついて倒れてしまったが、男の子の方はノエルが抱えて無事だ。


「どうした、この程度か?」

「グゥ……」

「『鬼』は人の体なんて簡単に捻ることができる力があるって聞いていたけど、そんなことは全くないな」

「ガァ!」


 『鬼』が力を強める。

 その証拠に鬼の足元にある地面に亀裂が走る。

 が、それだけの力を込めても俺を殴ることは叶わない。


「イリス!」


 『鬼』の足を止めることには成功した。

 全く後ろのことなど気にしていない剣を手にしたイリスが姿を現す。


「グゥア……」


 そのまま剣を背中に突き刺してしまう。


「な、何を……傷付けないのでは!?」

「大丈夫ですよ」


 詰め寄ろうとしたおじいさんを止める。

 剣を突き刺したもののイリスが同時に【天癒】を使用している。『鬼』に変化した状態が毒にも似た状態異常なら【天癒】で治療することができる。


「……」


 だが、いつまで経っても元の姿に戻らない。

 ついには首を振って「無理だ」と言ってしまった。


「そんな……」


 おじいさんが崩れ、ノエルまでもが顔を俯かせてしまう。


「このままにはしておきませんよ」


 地面に魔法陣を描き、飛び出してきた鎖で『鬼』を拘束する。

 迷宮産の鎖。先ほどの手合わせから『鬼』の力程度では抜け出せないのは分かっている。


「とりあえず拘束して被害がでないようにしました」

「だが……」

「安心してください。犯人に心当たりはあります」


 目的が分からないため泳がしておいた。

 それが、まさかこのような事態を招くことになるとは思ってもみなかった。甘い考えを持っていた俺にも責任がある。


「おとうさん……」


 男の子が『鬼』に変化した父親へ必死に手を伸ばしている。

 どんな姿に変わろうとも父親であることには変わりない。


「大丈夫だよ」


 ノエルが安心させる為に男の子の頭を撫でる。


「ああ」


 必ず元に戻してみせる。

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