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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第18話 勝利条件なき軍の戦い

第三者視点です。

「んじゃ、移動するか」


 戦端が開かれたところを見届けると炎鎧が都市の中央にある尖塔の上へ跳んで移動する。跳んだだけでは高さが足りない。それでも空中で足裏から炎を発して勢いを爆発させると屋上まで辿り着く。

 指揮官としての役割だけでなく暖炉の役割をする必要がある炎鎧には都市の中にいる必要がある。それも都市全体を暖めるなら中央に近い場所にいた方がいい。

 比較的中央に近い場所にある尖塔はちょうどよかった。


 普段は、定期的に鐘を鳴らして時間を知らせる尖塔。

 巨体を誇る炎鎧が着地した時の衝撃で鐘が鳴る。

 氷神のせいで寒くなった後も定期的に鳴らされていた鐘。しかし、数十分前に鳴らされたばかりで次に鳴るのは1時間以上も先。都市の外の状況が分からず、現在大規模な襲撃を受けている最中であることすら知らない人たちも尖塔を見上げる。


「始めようじゃねぇか――【灼熱】」


 両手を大きく広げて炎鎧がスキルを使用する。

 すぐに効果が現れ、ノエルが【気象操作】の使用を止めたことで分厚い灰色の雲に覆われ始めていた空が晴れ、光が届くようになる。

 太陽の光が届くようになったことで気温が徐々に高くなり、凍て付かせる氷神の力と拮抗するようになる。


 冷気と熱気。

 真冬と真夏。

 二つの力が拮抗することにより、春のような暖かさになる。


「ククッ、あの頃と同じようにスキルが使えているはずなのにこの程度にしからない。どうやら敵は本物のようだな」


 ニヤァ、と笑みを浮かべると数秒だけ北へ顔を向ける。


「できることならオレが戦いたかったぜ」


 戦闘が好きな炎鎧。

 それも自分とは対照的な能力を持っているため氷神と戦ってみたかった。


「ま、敵わないのに戦うなんて無理を言う訳にはいかないよな」


 だが、同時に自分では勝てない、ということも理解していた。


「あいつらの言いなりっていうのは気に入らないけど、仕事はキッチリとしてやるさ」


 指揮官としてのスキルも与えられている炎鎧。

 意識を部下たちへと向ければ彼らの状況が手に取るように分かる。そして、声が届くようにもなっている。


「お、ここからでも見える」


 突如として出現した大量の魔物へ氷の騎士が槍を向ける。

 これが意思のある魔物だったなら怯えて武器を構えることすらできない状況だったかもしれないが、幸いにして氷の兵士に意思はない。攻め込めるギリギリの場所で槍を構える。


「オラァ、全員突っ込め」


 炎鎧が簡潔な指示を出すと赤い肌をして頭に角を生やした大男――オーガが棍棒を振り回しながら氷の騎士へと近付く。


 サッと盾を構える氷の騎士。

 どうやら盾で受け止めるつもりらしい。騎士として逃げる訳にはいかず、正面から堂々と敵の攻撃を受ける。


 まさに騎士らしい行動。

 もっとも、それではオーガの攻撃には耐えられない。


 オーガの攻撃を受け止めた瞬間、氷の騎士の盾だけでなく騎士の体まで粉々に砕かれてしまった。

 大量生産が可能。おまけに氷であるにもかかわらず、柔軟な動きが可能なため車輪なんかも造ることができる。ただし、やはり氷であるため耐久能力に乏しい。


 だが、氷神の軍勢が優れているのは数。

 たった1体の騎士を相手にしている間に5体の騎士がオーガを取り囲み、一斉に槍を突き出していた。だが、オーガの体に当たった瞬間、氷の槍が先端から砕けてしまった。


「そんな脆い武器でオーガの体を貫けるなんて思うなよ」


 槍が砕かれる瞬間を見て炎鎧が笑う。

 人間を相手に貫ける槍でも屈強な肉体を持つオーガには通用しない。

 子供が積み上げたおもちゃを崩すような感じで手を振り回すと氷の兵士が吹き飛ばされて地面に着地すると粉々に砕ける。

 その勢いのまま氷の兵士が密集している場所へ突っ込んで行くと蹴散らす。


「そっちが数で対抗するなら、こっちは質で勝負だ」


 先頭で派手な戦いを行うオーガが10体。

 オーガの前に大盾を構えた氷の騎士が現れる。オーガの棍棒による攻撃を盾で受け止める騎士。自分の腕力に自信のあるオーガもムキになって棍棒を持つ手に力を強める。

 耐久力を強めた氷の騎士。


 足を止められたオーガへ何百本という槍が上空から襲い掛かる。屈強な肉体を誇るオーガでも上から落ちてくる氷の槍がわずかに突き刺さって傷付ける。大したダメージにはならないが、そのダメージも蓄積すればオーガを死に至らしめることもある。

 敵は氷から造られる槍を使用しているため無尽蔵に投げることができる。

 このままではオーガが危険だ。


「前へ出るのは諦めろ」


 指示を受けたオーガが後ろへ下がって両手で体を庇うように身構えると槍の襲撃に備える。

 壁のように立ちはだかるオーガを前に攻め切れない氷の兵士。


 その時、サッとオーガの脇を潜り抜ける影があった。

 1メートルにも満たない小さな体――ゴブリンだ。

 ゴブリンが氷の兵士たちの間を駆け回る。自分たちの傍を走り回るゴブリンたちへ向けて剣や槍を突き出す。だが、小柄な体で走り回るゴブリンに当たらない。

 ゴブリンたちが回避できるのは潜り抜けて駆け抜けるのを目的にしている為だ。


 氷の兵士たちの後ろへ回り込むと槍を投擲している兵士たちへと殴り掛かる。

 殴られる氷の兵士。

 しかし、少しバランスを崩すだけで氷の兵士は耐える。


 キッと鋭く顔を向けるとゴブリンへ剣で攻撃する。

 だが、一撃だけ加えるとゴブリンはその場を離脱してしまっていたため氷の兵士の攻撃が当たることはない。


 ゴブリンの役目は槍を投擲する兵士たちの注意を惹くこと。

 槍を投擲できる氷の兵士の数は約100体。

 対して氷の兵士を潜り抜けたゴブリンの数は約600体。

 4倍の数を相手に氷の兵士は翻弄されていた。


 もちろん1体も倒せられない訳ではない。オーガなら耐えられる攻撃でもゴブリンにとっては致命傷になることができる。攻撃を受けて即死をした者、斬られてふらついているところ、トドメを刺された者。

 それでも全体の1割にも満たない。

 数十体というゴブリンが倒れた。


 だが、そこまで攻撃したところでゴブリンの追撃どころではなくなった。

 投擲による上空からの攻撃。

 それができるのは氷の兵士側だけではない。


「残弾なんて気にせずドンドン投げろ」


 門の手前。

 炎鎧が指揮する軍勢の最後方にいたゴーレムが石を投げていた。

 石で造られた人の形をしたゴーレム。ステータスは前線で奮闘しているオーガよりも遥かに劣る。だが、召喚された際に特殊なスキルとして【石生成】が与えられていた。


 人間の拳ぐらいの大きさの石を生成することができる【石生成】。

 サイズを考えると大したことがないように思えるが、空から石が降ってくるだけで十分な脅威になる。


 雨のように降る石を受けて氷の兵士が倒れる。

 炎鎧が指揮する部隊の中で最も数が多いのはゴブリンだが、メインに運用されているのはオークとオーガによる攻撃。しっかりとした装備を身に付けた魔物たちが南門を中心に広がって氷の兵士と戦いを行う。


「よし、こんなものでいいだろう」


 布陣はしっかりと広げることができた。

 あちこちで戦闘が起こり、全ての魔物が氷の兵士を相手にしているような状況になった。


「おい、これでいいのか?」

「あん?」


 炎鎧のいる場所の下から声が聞こえて下を見る。

 すると、尖塔の最上階から身を乗り出した二人の人間が見えた。


「なんだ人間?」


 興味のない相手。

 故に『人間』であること以上の特徴を見出すことができない。


「いや、さっきの場所にもいたな」


 そこにいたのはフィリップとダルトン。

 協力的な雰囲気の雷獣と海蛇と違って不満を露わにしていた炎鎧が本当に協力してくれるのか確認するようギルドマスターや領主から指示を受けて尖塔の上へ移動した炎鎧を追い辿り着いていた。


「イリスの父親代わりだ」

「へぇ、あの姉ちゃんの……」


 ようやく興味を抱いた炎鎧。

 召喚された直後の様子からイリスと何らかの関係があると予想したフィリップ。娘に頼るのは気が引けたが、炎鎧と話をする為には興味を抱いてもらう必要があった。


「で、何か用か?」

「見てみると魔物を散開させている。これでは効果的な運用ができているとは思えない。本気で勝つつもりがあるのか?」

「勝つ――どうやって?」


 オーガの攻撃によって粉々にされた氷の兵士。

 粉々にされたことで時間は掛かるものの数分後には元の状態に戻って戦線へ復帰していた。


 無限に復帰する氷の兵士。

 この戦いには勝利条件が存在しない。


「オレがやっているのは終わりのない戦い。広く散開させて、あいつらが氷神を倒すまで門を守ればクリアなんだよ」


 門の前には、門を覆えるほどの大きさを誇るゴーレムが立ちはだかっている。全体的なステータスではオーガに劣っているものの防御力では勝っているゴーレムを突破できるはずもない。

 このまま防衛線に徹していればいい。


「オレの役目は、予想できたここまでの状況を覆すような行動をされた時に対応すればいいんだよ」


 今のところ、そういった動きは見られない。

 単純な命令だけを与えられて動いている氷の兵士。指揮官不在の欠点がこのように現れている。


「それに効果的な倒し方なら、あの女がやってくれるだろうよ」


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