第17話 太陽に照らされる都市-後-
鎧を身に纏ったミノタウロスの魔物。
一般人でも分かるほどの強者特有の気配を放ち、普通の魔物ではないことが一目で分かる特別な魔物。
かつてノエルのいたメンフィス王国を熱と乾燥によって苦しめた炎鎧。
討伐を証明する為に討伐した直後は放置していた炎鎧の体と魔石だったが、その後の騒動に乗じて盗み出すのは難しいことではなかった。それどころではないメンフィス王国には倒された魔物をどうこうする余裕はなく、討伐されたことは神から告げられたため誰もが疑っていなかった。
そんな炎鎧が復活した。
ノエルとイリスからすれば複雑な気持ちになるのは仕方ない。
けど、今は炎鎧の力が必要になる。
「テメェら……見覚えがあるな。それに、オレを倒した奴もいるな」
グルッと周囲にいる人間を見渡した後でイリスへ鋭い視線を向ける。
炎鎧を知っている俺たちパーティは気にならないが、その視線だけでフィリップさんたちは心臓を鷲掴みにされたような苦しさを覚えていた。信頼していても、殺気に耐えられるかどうかは別物。
彼らを苦しめるのは本望ではない。
「炎鎧――抑えろ」
「あ゛、何を言って……」
炎鎧から放たれていた殺気が抑えられていく。
「どういう……」
「今のお前は俺のスキルで復活させられた存在にすぎない。俺の完全な支配下にある以上は、俺の命令には逆らうことができない」
「チッ……」
本能で悟ったのか渋々受け入れる。
眷属に対する【絶対命令権】と同様に迷宮の魔物は迷宮主に対して絶対服従を強いられる……反抗することが可能な魔物がいない訳ではないが、炎鎧のレベルでも足りないので従うしかない。
「まずは、不必要なまで撒き散らしている存在感も抑えろ」
俺が命令すると炎鎧の牛の頭が人の顔へと変化する。元々が人の体に牛の頭を持つミノタウロスだったため顔まで人に変われば、どこからどう見ても人間にしか見えなくなる。
復活させる際に【人化】のスキルも習得させた。
炎鎧には都市の中心でスキルを使って暖めてもらう。その際、多くの人に姿を見られることになってしまう。ミノタウロスの姿のままでは見た人を怯えさせることになるため【人化】の付与は必要不可欠だった。人になった今の姿も委縮させるには十分大きいが、ミノタウロスよりはマシだ。
「お前の役目は暖炉だ」
「ちょ、オレにそんなつまらない仕事をしろって言うのかよ!」
「暖める人間は都市一つ。おまけに避難してきた人たちもいるから数万人。つまらない仕事、なんて言わせないぞ」
「チッ、逆らうだけ無駄だ。従ってやるよ」
「それと、もう一つ追加でやってもらう」
南門から外へ出てスキルを発動させる。
地面に魔法陣が描かれると、そこからオーガやゴブリンといった人型の魔物が姿を現す。
あまり説明の難しいスキルを見せたくはなかった。
しかし、俺の支配下にあることを証明する為に炎鎧を召喚するところを既に見せているため魔物の召喚が可能なスキルを所持していることぐらいは予想されているはず。
ちょっと数が多くなったぐらいは見逃してもらいたいところ。
「こいつらを指揮して都市を守れ」
「お、今度のは面白そうだな」
面白そうに笑みを浮かべる炎鎧。
好戦的な炎鎧にとっては、暖炉代わりになるよりも
「ただ数が足りない」
炎鎧も都市の外にどれだけの敵がいるのか気配を探知することで大凡の数を知ることができる。
召喚された魔物の数は千体。
数万を超える魔物を相手にするには心許ないどころか時間稼ぎをするのが精一杯といったところだろう。数を増やすのは可能だが、指揮官が足りない。臨機応変に対応する為には千体が限界だ。
「敵の殲滅は不可能だ。だから都市を守る為に防衛に徹してもらえればいい」
「へへっ、任せておきな」
……不安しかない。
「追加」
狼や虎、兎といった獣を中心とした好戦的な魔物のグループ。
スライムやサハギンといった水に適性を持つ魔物のグループ。
それぞれのグループに千体ずつ魔物が召喚される。
そして、指揮官もそれぞれに存在している。
「事情は理解しているのですが……」
「よいのか?」
深海を思わせるような濃い蒼の髪、東方で着られる和服と呼ばれる着物に身を包んだ背の高い女性。長身な上、凹凸の激しいスタイルをしているため彼女を見た全ての人が美人だと評する。
そして、背は低いものの筋骨隆々とした体付きをした顔に傷のある白髪の老人。本人は仲良くしたくて笑っているつもりなのだが、強面の顔が見る人に怒っていると思わせてしまっている。
二人とも一目で強者だと分かる風体をしている。
「おいおい……どうして、テメェらまでそんな体をしているんだよ!?」
「久し振りね」
「これも何かの縁じゃ。今後は大人しくしている、と約束できるなら仲良くしてやらんこともない」
「ふざけんなよ!」
一目で二人の正体を見抜いた炎鎧。
炎鎧と仲良さそうに話す召喚された二人の指揮官の正体は、【人化】のスキルを与えられたことで人の姿になった海蛇と雷獣の二人だ。
二人とも普通の魔物よりも圧倒的に強いため召喚された魔物から指揮官として認められていた。
指揮官として認められるのは守られる人間側にも必要だ。
守る戦力が魔物なのは百歩譲っていいとしよう。しかし、その魔物が人間の支配下にあると信じ込ませる必要がある。そうでなければ、守られている人たちは敵を攻撃している戦力がいつ自分たちへ向くのか分からない不安を抱えながら守られていなければならない。
だからこそ指揮官ぐらいは人の姿をしていた方がいい。
けっこうな魔力を消費して出費をしてしまったものの必要経費だと割り切る。それでも問題ない。まだ先ほどもらった金貨の範囲内で抑えられている。
「で、どうする? ワシらと一緒に戦うか?」
「……やるしかねぇだろ」
「決まりね」
元々協力的だった雷獣と海蛇。
それに命令されているため渋々ながら炎鎧もクラーシェルの防衛に参加してくれることになった。
「一つだけいいか?」
「なにか?」
「ワシらより強い奴は参加しないのか?」
「ああ、あいつらのことか」
雷獣が言っているのは、極限盾亀や賢竜魔女といった圧倒的な力を持つ魔物のこと。俺の迷宮にいる魔物の中では、最強の座を争えるぐらいには強い。
「あいつらはダメだ。個としての力が強過ぎて指揮官には向かない」
今回、求められているのは氷の軍隊を相手にできる軍隊。
指揮を任せられる奴を必要としているのだが、極限盾亀は無口なためまともな指揮ができるとは思えない。賢竜魔女に至っては好き勝手に暴れるだけで軍隊を相手にできるかもしれないが、うっかりクラーシェルに被害を出す可能性も捨て切れない。
「不死帝王なら指揮能力はあるんだけど、この寒い中でアンデッドを動かす訳にはいかない。おまけに【人化】した姿に問題があるんだよな……」
スキルについて確認してみたところ【人化】を所有していたので見せてもらったことがある。
あまり指揮官に適した姿とは言えなかった。
アレなら病気によって死の淵に瀕した人間を立たせていた方がマシかもしれない姿をしている。
「ワシらも特別な力を持っている、と自負していたんじゃがな……」
「あの4体とは比べない方がいい」
「同感じゃ。そういう理由ならワシらが妥当かもしれんな」
「じゃあ、全力で蹴散らしてくれ」




