第16話 太陽に照らされる都市-前-
「ちょっと、分かっているの?」
「反省してください」
「マルス一人の命じゃないんだからね」
「はい……」
今までにないほどの傷を負った2時間後。
メリッサたちと合流する為にクラーシェルへと戻ってきたところで留守番をしていた3人から説教を受けてしまった。怒られるのも視界を通して氷神との戦闘状況を理解しているため仕方ないと割り切る。
それでも、都市の南門前にある広場で地面に正座させられて怒られるのは勘弁してほしい。こっちは、都市へ入る為に包囲していた氷の鎧を破壊してきたばかりだ。
「ま、説教はここまでにしましょう」
「敵の正体や目的については私たちで説明しておきました」
ありがたいことに合流するまでの間に説明もしてくれていたらしい。
だからこそフィリップさんやルイーズさん、領主やギルドマスターまで戻ってきた俺たちを迎えてくれている。
「これがSランクを越える実力を持つ冒険者か……」
仲間から説教されている姿を見て領主がなんとも言えない表情になる。
「俺がいない間には何があった?」
「特別、これといったことは……いえ、訂正します。包囲をしているだけで何も動きがありませんでした」
メリッサの言葉に納得する。
おそらく、俺たちとの戦闘に気を取られ過ぎていてクラーシェルを包囲している軍隊にまで命令を下している余裕がなかった。
一つ気掛かりが消えた。
「で、これからどうするつもりだい?」
「次は全員で攻めます」
ルイーズさんの質問に答える。
氷神への対策は全員で……というよりも俺、メリッサ、ノエルの三人で熱して攻撃する、というシンプルなものだ。
遠距離から火力を増して攻撃する。
ただし、この方法には一つ問題が存在した。
「それは、彼女たちも離れてしまう、ということか?」
領主の不安そうな表情。
今、クラーシェルにいる人々が最低限安心していられるのはメリッサとノエルによって都市が暖かくされているからだ。
残念ながらクラーシェルから離れてしまえば暖かくし続けることはできない。何よりも氷神との戦闘にそこまでの余裕があるとは思えない。
「二人の協力は必要ですよ。クラーシェルにはAランク冒険者がいるかもしれませんが、彼らを連れて行ったところで足手纏いにしかなりません。俺たちパーティが全員で行く必要があります」
「だが……」
「それに、今回の騒動は氷神をどうにかしなければ落ち着きません。都市が危険に晒されている状況で不安になる気持ちは分からなくありませんが、こちらから打って出る必要が--」
「……どうやら、その必要はないみたいです」
シルビアが北側へ鋭い視線を向ける。
「何かあったのか?」
「敵が打って出てきました」
「まさか、カンザスにいるとかいう神様か」
まだ距離はある。けど、クラーシェルへ接近しているのは間違いない。
上空に待機させたままのサファイアイーグルと視界を共有すると10キロ近く離れた場所に氷神の姿が確認できた。未だに氷の椅子に座っており、椅子を神輿のような物に乗せて氷の騎士に運ばせている。
『ふっ』
上空を見上げると小さく笑う。
監視しているサファイアイーグルが見つけられた。
「……っ!?」
次の瞬間、サファイアイーグルが氷漬けにされて落下する。
監視していることには既に気付かれた。
「ここへ来るのか?」
「非常にゆっくりとした歩みです。辿り着くまでに数時間の猶予があります。けれども、それは奴なりの策略でしょうね」
人が絶望する姿を楽しみにしていた。
神が姿を現し、接近するところを見せることによってクラーシェルにいる人々に絶望感を味合わせる。包囲網に穴を開けることは可能だが、全員を逃がせるほどの攻撃を仕掛ければ氷神が全力で動く。
それと包囲する敵に妙な動きがあった。
「ギルドマスター!」
領主と話をしていると外を監視していた若い男の冒険者が駆け込んできた。足の速さにそれなりの自信があるので、緊急時には重宝されている。
監視している人間が駆け込んできた、ということは何か動きがあったに違いない。
「どうした?」
「それが、今までに見たことがない敵が現れたんだ!」
「それは、こんな奴かな」
【幻影】を使って新しい氷の兵士を映し出す。
馬車のような形をした氷。普通の馬車とは違って車輪が異様に大きく、前面部分に巨大な槍が突き出た状態で装着させられている。
さらに馬車を守る為に氷の大盾を装備した兵士が8体いる。防御力に優れているため並大抵の攻撃では倒れることがなく、自らの身よりも馬車を優先して守るように見える。
「まさか攻城兵器を用意したのか……?」
幻影を見たフィリップさんが呟いたようにクラーシェルの門を破壊する為にいる氷の兵士。
これも氷神が用意した演出だ。
氷神がその気になれば門どころか外壁すら簡単に破壊することができる。
それを自らせず氷の兵士にさせているのは、彼女なりの矜持。女王として君臨して命令を下して敵を滅ぼしたいからだ。
「この大盾を持っている奴らは、クラーシェルを覆う熱気から守る役割もあるんでしょう。このままだとメリッサとノエルを大事にしていても攻め込まれるだけです。こちらから攻め込む必要がありますよ」
「……」
追い込まれても決断できずにいる。
それだけ一般人にはキツイ寒さだった、ということだろう。
……仕方ない。
「手がない訳ではないですよ」
「本当か!」
「ええ、メリッサとノエルは氷神との戦闘に連れて行きます。だったら、二人以外に暖められる奴がいればいいだけです」
「そんな奴がいるのか?」
縋るように俺を見てきた領主が首を傾げる。
二人が見せた魔法とスキルは人間とは思えないほどの強さがある。他にいる、と言われても簡単に信じられないだろう。
実際、今はいる訳ではない。
「ええ、います。ただし、応援に喚ぶ為にはそれなりの費用が必要になります」
実力のある冒険者なら多額の報酬が必要になる。
俺の言葉をそのように解釈した領主は頷くと、
「分かった。この状況をどうにかできるなら金貨5000枚は出そう」
大金を出すと約束してくれた。
後払いな上、口約束だが反故にするような真似を許すつもりはない。
「これで費用は確保できました」
道具箱から、ある魔石を取り出す。
真っ赤に燃えるような魔石。
魔石は魔物の全てとも言っていい物。そこへ必要な量の魔力を与えてあげれば魔石を持っていた魔物を復元させることができる。
迷宮主の持つスキルの一つ。
魔物のいる迷宮を支配することのできる迷宮主には、魔力を消費することで自由に魔物を生み出すことができる。
「なんだ、この魔物は!?」
「くぅ……覚悟をした方がいいな」
魔物に慣れていない領主は尻餅をつき、冒険者として魔物を討伐して慣れているはずのギルドマスターでさえ警戒して死を覚悟している。前線を退いた彼では強力な魔物を相手にすることすら難しい。
フィリップさんにダルトンさん、ルイーズさんなんかは俺たちを信頼してくれているのか現れた魔物を見ているだけで何も起こさない。
実際、完全に俺の支配下にいるため危険はないと言っていい。
「本当に大丈夫……?」
「私としても微妙なところなんだけど……」
そのことはノエルとイリスも理解している。
けれども、苦しめられたノエルと討伐したイリスにとっては討伐されたはずの魔物が再び復活するのは複雑な気分だった。
「……ん、なんだここは!?」
討伐される前の人格を保った魔物がいきなり意識を取り戻したことで声を荒げる。
斬馬刀を手にし、鎧を身に纏った牛の頭をした魔物が復活した。




