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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第15話 VS氷神 ③

『妾の顔をよくも……!!』

「顔!? そんなレベルじゃないだろ」


 氷神の頭部へ【爆発(エクスプロージョン)】は直撃した。

 その甲斐あって溶けた氷菓子のように頭の右半分が吹き飛ばされて、残っていた部分もドロドロに溶けている。


『下らぬ。神にとって、この程度のダメージなど無きに等しい』


 背を向けたまま左手を伸ばして俺の右手を掴む。


『――凍て付け』


 心の底から凍り付くような声。

 その声を聞いた瞬間、掴まれた右手が先から氷に覆われる。


「なっ!?」


 相手は氷の神。

 攻撃を受ければ氷漬けにされる覚悟はしていた。しかし、実際に攻撃を受けてみると衝撃は計り知れない。


 氷を溶かすつもりで右手に魔法で炎を灯そうとする。けれども、どれだけ魔力を送って魔法を発動させようとしても炎が発生することはない。

 このままだと全身が氷に覆われる。

 ダメージを覚悟で無事な左手を使って右手を燃やすつもりで温める。


『やはり、人間とは思えぬな』

「どういう意味だ?」

『妾の息吹はあらゆる物を瞬く間に凍て付かせる。人間ならば数秒と経たずに全身が氷に覆われる。これだけの時間、耐えられているだけでも称賛に値する』


 椅子から立ち上がる氷神。

 振り向く彼女の右手は氷の刃へと形状を変えており、鋭い剣を振り上げる。


『――死ね』


 振り下ろされる刃。

 その先に氷の壁が生み出される。1枚の壁が刃によって砕かれ、同時に新たな壁が生み出されて立ちはだかる。それも氷神の刃によって砕かれ……新たな壁が受け止める。


 数十枚の壁が受け止めたことで得られた時間は僅か。

 それでも、シルビアが駆け寄るには十分な時間が得られた。


『どういうことじゃ?』


 氷の壁に阻まれても俺を適確に捉えていた氷神の攻撃はすり抜けて地面を破壊するだけに留まっていた。


「――撤退!」


 シルビアに連れられて【転移】する。



 ☆ ☆ ☆



 今も凍らされ続ける右腕を燃やしながら膝をつく。

 転移先は迷宮の最下層。安全を求めて移動するならここ以上に安全な場所は存在しない。

 炎による熱のおかげで凍て付くのを止めることができているが、徐々に氷が上へと進んで行っている。このまま放置していると全身が凍らされることになる。躊躇しているような状態ではない。


「イリス」

「……分かっている」


 ここまで移動してきただけで不安そうにオロオロしているシルビアには頼めない。


「シルビア、マルスの服を脱がせて」

「え、服って」

「正確には、そのジャケット」


 手から凍らされた右腕。

 侵食する氷は服の上にあるジャケットまで凍て付かせるかと思ったが、ジャケットの内側にある服の上から凍らせるだけだった。

 これは、俺の着ているジャケットが王竜の素材を利用して造られた物で、氷への耐性も備わっていたからだった。


「……何をするつもりなの?」


 燃える炎に気を付けながらシルビアが俺のジャケットを慣れた手付きで脱がしてくれる。


「氷神の氷は、対象を完全に氷で覆い尽くすまで止まらない。マルスが全力で燃やしても止まらないところを見ると諦めた方がいい」


 氷の浸食を止めるのは不可能。

 なら、少しでも被害を少なくした方がいい。


「頼む……!」


 歯を喰いしばって耐える準備をする。


「え、ちょ……」


 戸惑うシルビアを無視してイリスが剣を振り下ろす。


「っ……!!」


 イリスの振り下ろした剣が俺の右腕を斬り落とす。

 意識を失わないよう耐える。精神的に追い詰められているせいかこのまま意識を失ってしまうと目覚めないような気がして怖い。


「すぐに戻すから」


 安心させるようにゆっくりと言いながら剣を切断した右腕へと押し当てる。

 イリスから魔力が流れて切断されたはずの腕があった場所が光に包まれて新たな腕が生まれる。


 イリスだけが持つスキル【施しの剣】。

 部位欠損のような大きな負傷に対しても絶対的な治癒能力を発揮し、元の状態にまで回帰させることができる。


「よかった……」


 魔力を使い果たして疲れたイリスが俺の胸に倒れてくる。

 そっと受け止めてあげると想像以上にイリスの体は軽い。


「迷惑をかけたな」

「本当に気を付けて……私たち眷属は、誰かが死ぬようなことがあっても残りの皆が無念を果たしてくれる。けど、主だけは違う。マルスが倒れたら私たち全員を道連れにしてしまうんだから気を付けて」


 イリスの言う通りだ。

 相手は神。いきなり至近距離まで近付くのは危険すぎた。


「本当、ですよ……!」


 シルビアも背中に抱き着いて来る。

 背を向けているため見えないが涙を堪えているのが気配から分かる。


「二人がいてくれて助かったよ」


 特にイリスがいなければ右腕がない状態でこれからは生きていかなければならなかった。

 切断されて落ちた腕を見る。既に氷で覆われており、再利用など考えられるような状態ではない。


「それでも、安静にしていてください」


 シルビアに怒られてしまった。

 少しの間とはいえ氷に覆われた腕を抱え、左手で燃やし続けていた。おまけに右腕を切断した時に血を大量に流している。回復薬(ポーション)を使ってある程度は回復させることができるが、それにも限界がある。


 イリスは負傷をしていないものの【施しの剣】を使用してしまったせいで魔力が空になってしまって疲労している。絶大な力を誇る【施しの剣】だが、効果に見合うだけに魔力を要求されてしまうため使い果たして疲労してしまう。

 これからイリスは使い物にならないだろう。


 シルビアからジャケットを受け取って着る。


「でも、どうして脱がす必要があったんですか?」

「氷神の氷にも耐えるような装備だ。イリスの斬撃にも耐えるぞ」


 現に摸擬戦をして性能を確かめた時には耐えてしまった。

 摸擬戦の時には手加減をしていた。だから全力で斬ることができればジャケットの上からでも斬ることができたかもしれない。

 けれども、あの時のイリスの目を見てそんな気は起らなかった。


 怯え、恐怖していた。

 何よりも苦痛を堪えている。

 そんな顔を見せられては【絶対命令権】を使用して『全力で切断しろ』なんていう命令が下せるはずがない。


「あの、アマァ……」


 イリスにそんな顔をさせてしまったのは俺の落ち度だ。

 けど、氷神が人を襲うような真似をしなければ騒動にならなかった。


「次はボコボコにしてやる」

「戦うんですか?」

「当たり前だ。敵は神なんだから俺たちぐらいしか戦える奴がいない。それに、奴は逃げて怯える人の顔を見て楽しむような奴だ。クラーシェルに飽きれば最終的にはアリスターまで辿り着くことになるぞ」


 倒せるなら倒せる内に倒してしまわなければならない。


「奴への対策は既に考えてある」

「本当ですか!」


 対策と呼べるような策ではない。

 それでも何もないよりはマシだ。


「イリスは疲れているだろうからここで……」

「私も行く」


 俺の胸の中で疲れた様子だったイリスが立ち上がる。

 立ち上がったものの疲労を隠し切れていない。魔力の枯渇は、保有している量が多ければ多いほど深刻な問題だ。


「故郷が死の淵に瀕しているっていうのに寝続けている訳にはいかない」

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