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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第13話 軍事作戦会議

 スクルル砦で過ごして数日。

 特にこれといった動きのないまま日々が過ぎていく。暇を持て余すのもどうかと思ったので森や湖へと出掛ける。


『どう?』

『結構な魔物の数がいるな』


 森の様子を調べているとアイラからの念話が届く。

 広範囲に渡って調べる必要があるため、別行動をしている。


『砦にいる傭兵がどれだけ狩っても減らないことから相当な魔物がいるのは分かっていたけど』


 傭兵たちは連日のように狩りに勤しんでいる。

 かなりの数が狩られているためスクルル砦周辺の森から一時的にでも魔物が一掃されていてもおかしくない。

 しかし、まるでどこかからか逃げてきたように魔物がスクルル砦の方へと流れていた。

 魔物も森の中の方が過ごしやすいため、そして怯えているような様子があるためスクルル砦へと近付くようなことをしない。


 そんな報告がリオへと届けられていた。

 魔物の進行方向から異常があるのは国境付近。

 何らかの異常があるのは間違いないため、それを調査するよう頼まれた。


『ここにいるのは逃げてきただけの魔物だ。森を調べても手掛かりになるようなものはないな』


 この数日の間、森や湖も含めて周囲の調査は行った。

 しかし、異常らしいものは見えない。


『とりあえず、こちらへ戻って来てくれますか?』


 スクルル砦で待機していたシルビアから要請が届く。


『何かあったのか?』

『砦の指揮官から集合するよう言われました。どうやら動きがあったようです』

『分かった。すぐに戻る』


 全身鎧を収納リングに収納し、身軽になると木の上を跳んで砦へと向かう。



 ☆ ☆ ☆



「何か、動きがあったと聞いたが?」


 会議室へと入ると砦の主だった人物が揃っていた。

 指揮官や大隊長、主だった傭兵団の団長。


「少し、お待ちを」


 すぐに会議室へ来ていなかった団長も集まる。

 俺たちのように団長自ら森へ出掛けている傭兵団もあった。必ず傭兵団の誰かは砦内で待機していなければならない決まりなため会議へは残っている者の中から誰かが参加すればいい。それでも、団長が参加した方がスムーズに話は進む。少しぐらい待つ程度の余裕はある状況だった。

 そうして、最後に予想外な人物が姿を現す。


「申し訳ない、遅れた」

「皇帝陛下!?」


 現れたのはリオ。

 皇帝の衣装に身を包んでおり、腰には皇帝の意匠である獅子の姿が彫られた黄金の剣を佩いている。

 会議室の中心に座ると存在感が際立つ。


 リオの隣にはマリーさんがいる。

 彼女の【未来観測】は軍事行動においても役に立つ。側室という立場があるので表立って意見するようなことはないが、リオにアドバイスぐらいはできる。


「会議を続けてくれ。俺は邪魔しに来た訳じゃない」

「ですが……」

「北は昔から帝国に仕えてくれているレミルング将軍に任せているから問題ない。しかし、こちらには敵に降伏宣告を出せるほどの実績を持つ人物がいないだろ」


 スクルル砦の指揮官は、リオの皇帝就任後に将軍へ昇格したばかりの人物。まだ大きな戦を指揮官クラスで経験したことはない。それでも経験は必要だと思われ、派遣されることになった。

 若い将軍。これから経験を積めば強くなる。


「指揮に口を出すつもりはない。好きなようにやれ」

「はい!!」


 指揮官が喜びから高らかに声を挙げる。

 もちろん不出来な指揮をするようならリオが強権を発動させて指揮権を奪うことはあるだろうが、基本的に軍事行動へ口出しするつもりはない。


 リオがスクルル砦へ来た目的は、俺に自由な行動を許すため。

 さすがに皇帝の言葉なら指揮官も従うしかない。


「まず、今朝のことだが王国軍に動きがあった」

「クラーシェルで待機していた王国軍ですか?」

「そうだ。今朝早くに進軍準備を開始したらしい」


 かなり早い情報の伝達だ。

 おそらく、通信の魔法道具を使用したと思われる。


 俺たちも同じ情報を事前に受け取っていた。

 王国軍はイリスが監視している。通信の魔法道具を使うよりも速く俺たちは情報を得ることができた。


「こちらの方針は?」

「王国軍が動き出したら国境へ向けて進軍する。向こうのタイミングは王国軍を見張っている部下が知らせてくれることになっている」


 クラーシェルから国境。

 スクルル砦から国境。

 二つは同程度の距離にある、とのこと。

 同じ時間に出発すれば国境付近で衝突することになる。


「砦を利用されないのですか?」

「いや、こちらは国境付近で王国軍と衝突。その後、徐々に後退しながら砦へと退却して籠城戦へと移行する」


 そんな方法を採るのも途中にある村を守る為だ。

 村など軍隊にとっては格好の餌でしかない。一時的に後方へ避難させることも考えられたらしいが、収穫期直前の村は忙しく離れることを村人が嫌がった。そのため苦肉の策が指揮官の提案した方法だった。

 自分たちが囮になって引き付ける。

 そして、囮役を引き受けるのは主に騎士や兵士たちの仕事になる。


「途中で犠牲が出るかもしれませんが……」

「構わない。敵を引き付けながら後退する訓練はいつも行っている。囮役は、私たちの方が慣れている。傭兵たちには私たちの後退を援護してもらおう。役割は分担してしまった方が確実だ。傭兵が相手では指揮系統に問題が生じる」

「馬鹿にしているのか? 俺たちだって誰に雇われているのかぐらいは理解しているぞ」


 一人の傭兵が立ち上がる。

 以前キュロスに教えてもらったが、立ち上がった男は『土蜘蛛傭兵団』の団長をしているピアーズ。


 『土蜘蛛傭兵団』は、100人近い人数で構成される傭兵団で、現在スクルル砦に集まった傭兵団の中では最大規模で、所属している傭兵の質も高い。ただし、高いのは戦闘能力だけで、人間性の方は全く信用されていない。


「そうか? 『土蜘蛛傭兵団』は特に信用ならないな」

「なんだと!?」

「13年前に王国へ攻め入った時、帝国軍はその後の統治を考えてクラーシェルを支配するだけで終わらせるつもりだった。ところが、目の前にある財宝を目にして欲に駆られた傭兵たちは略奪を始めました」


 支配した土地に住んでいた人たちを殺し、財宝を奪う。

 時には命の危機がある戦場で気持ちが高揚していたことから残虐な行為も平然と行えてしまう。


 身近なところで被害に遭ったのがイリスだ。

 イリスは家にある僅かな資産を奪おうと押し入った傭兵によって家族を殺されていた。

 今は平静を保っているようだけど、この会議の内容はそのまま聞かせられない。後で結果だけを聞かせることにしよう。


「あの戦争で『土蜘蛛傭兵団』は略奪に積極的に参加していたらしいな」

「何言っているんだ。奪い合うのが戦争だろうが」


 傭兵の方は略奪に対して何も思っていなかった。


「俺たちは敵から宝を奪っただけだ。魔物の素材を剥ぎ取って金に換える、それと何も変わらないさ」

「なっ……!」


 指揮官がピアーズの言葉に何も言えなくなる。

 俺も感情を表に出さないよう必死に堪える。


「人間は魔物とは違う」

「違わないさ。こうやって殺し合っているんだから人間も獣だ。相手の財宝を奪い合って何が悪い」


 『土蜘蛛傭兵団』は軍の意向も無視して略奪を繰り返すことで有名な傭兵団だった。

 そんな評価を知っていながら雇ったのは、彼らの力を帝国が頼ったからだ。


「悪いが、今回の戦争では略奪は絶対にナシだ」

「だろうな」


 戦場となるのは帝国の領土。

 帝国は防衛側となる。そうなると帝国領土内にしか足を踏み入れることはない。


「ケッ、つまらない戦争だ。これなら王国側で戦っていた方がよかったな」

「悪いが、そこまでにしてもらおうか」


 『紅鬼傭兵団』のラテルが文句を言う。


「お前らの意見がまるで傭兵全体の意見のように扱われるのは我慢ならない。さすがに無抵抗な人間を傷付けるのは俺も我慢ならない」

「そうだ!」

「この人殺し!」

「ああん!?」


 少なくとも略奪に反対する傭兵はいる。

 しかし、歴戦の傭兵であるピアーズに睨まれたことで委縮してしまった。


「とにかく戦場ではこちらの指示に従ってもらう。王国軍が国境を越えてからが戦いになると思ってほしい」

「……分かっているよ」


 不承不承といった様子で会議室を出て行くピアーズ。

 今回の戦争では略奪による臨時収入が望めないためつまらなくなっていた。


「申し訳ないが、帝国を守る為には戦力が足りない。お前たちの力も貸してくれ」

『おう』


 皇帝らしく声を掛けて解散となった。

 これから敵が来るのを砦で待つことになる。



 その選択が誤りだったことに気付いたのは、昼をだいぶ過ぎた頃。

 ある村で戦火が上がった。


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