第14話 銀翼剣士
前半はマルス視点。
後半はイリス視点。
国境へ向けて動き出す。
軍人たちの使命は、村を捨てられない者たちを守ること。
王国軍も無抵抗な村人を襲うような真似はしない。そのため、事前に村へ王国軍が来た時には抵抗せず素通りさせるよう伝えてある。
スクルル砦に最も近い村が見えてきたところで報告が指揮官に届いた。
「なに!?」
驚きを隠さない声が響く。
軍人も傭兵も足を止めずに歩く。
「分かった」
報告を聞いて悩んでいた指揮官だったが、隊列の側面へと移動すると声を張り上げる。
「聞け!」
その声は数千人が行進する隊列に響き渡る。
指揮官の声に風の魔法が加えられて全員に届くようにされていた。
「この先の村が王国軍に襲われている。村には反抗などしないよう伝えてあったから、おそらく一方的な略奪だろう。急ぎ、駆け付けてほしい!」
どよめきが起こる。
戦争をしているのだから略奪は許容されている。しかし、村で略奪を行ったとしても得られる物は少ない。なにせ村で無法を働いているのは数千人。100人程度しかいない村では全く足りない。
それなら村を拠点に抑えておいて街を襲う足掛かりにした方がいい。けれども、あまりに凄惨な略奪を行えば村人が強い不満を持つことになる。程々に抑えた支配が必要になる。
略奪を行うなど拠点として考えていない。
その後、馬を使える移動の速い者を数十人先行させることで本隊が到着するまでの時間を稼ぐ作戦に出る。
少数精鋭なので騎士が選ばれることになる。
「俺たちも行くぜ」
意外にも『土蜘蛛傭兵団』が救援に名乗りを挙げた。
全速力で走れば馬には劣るものの村の救援に間に合うかもしれない。
「村に辿り着く前に消耗することになるぞ」
「馬鹿野郎! そんなことを言っている間に多くの人が苦しめられているんだぞ。そんな状況を黙って見ているつもりか! 俺にはできないぜ」
襲われている村人を思い遣った言葉を口にしている。
しかし、実際には無法を働く王国軍を相手に剣を振るいたかっただけだ。
「しかし……」
事前の作戦と離れることになってしまう。
それを言ってしまえば村へ先回りされている時点で問題だ。
「ウルカエル将軍」
「はっ」
「作戦通りに進めて敵軍を退けるのは大切だ。しかし、それ以上に帝国軍人ならば国民を見捨てるような真似をしてはいけない」
「……!」
リオの言葉にハッとさせられた指揮官。
その通り、今最も苦しんでいるのは襲われている村だ。国民を守る軍人ならば放置していいはずがない。
「戦力は少しでも多い方がいい。報酬は弾んでやるから急げ」
「そうこなくっちゃ!」
ピアーズ率いる『土蜘蛛傭兵団』が真っ先に駆け出す。
鍛えられた彼らは装備を身に付けているにも関わらず馬に追随するほどの速さで走り、村へと向かう。それだけ報酬が魅力的に映っていた。帝国皇帝からの約束なら無碍にされることもない。
そして、他の傭兵団も彼らに続く。
功績を上げれば上げるほど報酬も高くなる。襲われている村人の救援ともなれば報酬に期待できる。
『追わないの?』
だが、俺たちは歩みを進めるだけで駆けてはいなかった。
『イリスからの連絡がないからですね』
アイラの疑問にシルビアが答える。
王国軍はイリスが後をつけている。
何らかの怪しい行動を起こせばイリスから念話が届いてもおかしくない。しかし、それらしい念話は全く届いていない。
☆ ☆ ☆
国境へ向けて進軍する王国軍。
「よし、ここからは速度を上げて移動するぞ」
王国軍が速度を上げる。
装備もあって移動には歩くだけでも苦労する。速度を上げる、ということはそれだけ疲れが溜まる。
移動後のことなんて考えずに速度を上げていた。
彼らの目的が分からない。
やがて、予定していた時間よりも早く国境を越える。途中にあった自国の村に立ち寄って休憩することもせずに走り続けた結果、すぐに帝国にある最初の村が見えてくる。
私は、その様子を離れた場所から見ていた。
普通なら村の長に話を通して軍が駐屯することになる。ここは敵国。拠点となる場所は必要になる。
「なんじゃ?」
村の中にいた人も迫る軍隊に気付いた。
事前に帝国軍から話を聞いていたから王国軍だと理解した。
相手が国の軍隊では村の戦力だと抵抗するだけ無意味。村の入口を守っていた兵士も先頭にいた騎士を素通りさせる。
村長が迎え入れると集団の中から豪華な鎧を着た騎士が出てくる。
「ど、どのようなご用件、でしょうか……? 村にある物でしたら全て差し出しますので見逃していただけると、助かります」
「そうか。全て差し出すか」
「は、はい……!」
騎士の集団を見てガチガチに緊張する村長。
3年前の戦争でも敗北した帝国軍を追って王国軍が村まで来たことがあった。しかし、その時は村まで逃げた中で最も階位の高かった騎士が対応したため村長が表立って動くことはなかった。
「私たちがほしいのは一つだけだ」
騎士が腰に差していた剣を抜いて振り下ろす。
鮮血に周囲に舞い散り、村長が倒れる。
「やれ」
「はっ」
呆然と立ち尽くす村人たち。
次々と騎士が斬り掛かって行く。
「きゃあ!」
「な、何するんだよ……!」
男も女も、子供も老人も関係ない。
斬られた村人の血で池が作られ、死体が積み重なっていく。
「逃げろぉ!」
村人の半分ほどが斬られたところで生き残っていた村人が逃げ出した。
けれども、既に手遅れだ。
「なぁ!?」
村の周囲は王国軍によって包囲されている。それほど広くない村。包囲するのは人数を連れてきているため簡単だった。
もはや逃げる場所などどこにもない。
逃げてきた男性に剣を振り下ろすだけで事切れた。
入口を守っていた村の兵士はとっくに斬られている。
「もう、見ていられない……!」
こんなの間違っている。
いくら敵国とはいえ同じ人間。無抵抗な村人を簡単に斬り捨てていいはずない。
「止めろ!」
村の周囲には柵があったけど、軽々と跳び越えると村長を斬り殺した騎士の前に立つと剣を突き付ける。
「今すぐにこんなことは止めさせなさい」
できることなら自主的に止めてもらうのが望ましい。
「悪いが、それはできない」
40歳ぐらいの茶髪の男性が鋭い目を私へ向けてくる。
「何者か知らないが、こちらにも都合がある。帝国の味方をするというのなら容赦はしない」
「そう……」
どうやら言って分かるような相手じゃないらしい。
剣を抜く。けど、いつも私が使っている剣じゃない。
「ほう、何者か知らないが素晴らしい剣を持っているじゃないか」
太陽の光を受けて銀色に輝く剣。
「奇妙なマスクをつけた怪しい奴だ。私たちの妨害をすると言うのなら容赦はしない」
「無法を許すつもりはない」
今の私は口元だけが覆われていない顔を隠すマスクをしている。
もちろん普通のマスクじゃない。私の姿を見た人の認識を惑わす『認識阻害』の効果が付与されている。
マスクの外側からは蒼い髪が出ていても何色の髪をしていたのか記憶することができないし、体格も認識できないから男なのか女なのか分からない。
あくまでも私の正体を隠す為の魔法道具。戦闘に役立つほどの物ではない。
本来は尾行している最中に見つかってしまい逃げる時の為に用意しておいた。それをこんな風に使うとは思っていなかった。
今の私はAランク冒険者イリスじゃない。
他人になり切ろう。
「正義を貫く剣士――銀翼剣士! ここに参上」




