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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第5話 ウルカの街

 北端の街ウルカ。

 広大なノーズウェル山脈で得られる山菜や植物、珍しい肉を狩って生計を立てている街。

 今日も賑わっていた。


 その様子を街の外から眺めている。


「普通だな」

「そうですね」


 俺の言葉にシルビアが頷く。

 近くにある村が壊滅した、という話は街の人たちにも伝わっているはずである。ところが、逃げ出す様子もなく、のんびりといつも通りの日常を過ごしていた。


「ようこそ、ウルカヘ。今回はどうされました?」


 明るい青年の門番が話し掛けてくる。

 大きな街なので入る時には検問が必要になっている。


「冒険者です。今回は、依頼を引き受けてドラゴンの討伐に来ました」

「貴方たちが……?」


 訝し気にこちらを見てくるので冒険者カードを見せる。どの道、門を潜る時に身分証として必要になる。

 すると、俺たちのランクを確認した門番の目が驚きから見開かれる。


「し、失礼しました!」


 見た目から高ランクの冒険者だとは判断しなかったのだろう。


「冒険者ギルドへ行きたいんですけど、どこにあるのか教えてもらえますか?」

「それなら門の正面にある大通りを真っ直ぐに進んでください。反対側になりますが、北側の方にあります」


 南から来た俺たちは街の南門から入らせてもらった。

 北側にある、というのも分かる。この街で活動する冒険者の多くが北にあるノーズウェル山脈での依頼を受けている。そのため卸しやすい北側に拠点を構えているためだ。


 街をしばらく歩いていると冒険者ギルドへ辿り着く。

 どこのギルドもそこまでの差がある訳ではないので簡単に見つかった。


「いらっしゃいませ」


 中央のカウンターに座った茶髪の受付嬢が出迎えてくれる。

 両隣にも受付嬢が座っているが、その隣にあるカウンターはどちらも空席になっていた。奥の方を覗いてみると忙しなく動き回っているので今は裏方の方が忙しいみたいだ。


「初めての方ですね。どのようなご用件でしょうか?」

「ドラゴン討伐の依頼を受けた冒険者です。現在の状況を教えてもらえますか?」


 ドラゴンは非常に強力な魔物だ。

 そのため実力を伴っていない冒険者が無闇にドラゴンへ挑んだりしないよう低ランクの冒険者には情報を開示しないようになっている、と事前にルーティさんから聞いていたため冒険者カードを出して『Aランク』である事を示す。


「本物ですか?」


 詳しい意味は分からなかったが、偽者の冒険者カードではないので頷く。


 受付嬢はベテランだったらしく、俺たち4人のランクを確認して一瞬だけ眉を顰めるものの冷静にカウンターの下から資料を取り出す。今、最も必要とされている情報なため事前に用意していた。


「事の発端は今から10日前です。ノーズウェル山脈を下りてくる多くの魔物の姿を確認しました。その時は、魔物の暴走(スタンピード)と判断してウルカにいる冒険者総出で対処しました」


 幸いにして遠くからでも山を下りてくる魔物の姿が見えた。事前に村人はウルカまで逃がし、団結して対処したおかげで村が多少荒らされたぐらいで人的被害を出すことなく事態を収束させることができた。


 その後、斥候が得意な冒険者によってスタンピードの原因が探られた。

 何が原因で暴走したのか確認しなければ本当の意味で収束したとはいえない。もしかしたら再発するかもしれない。


 斥候に出た冒険者は優秀だった。

 だからこそ早期に暴走の原因となったドラゴンを見つけることができた。


「暴走で山から下りてきた魔物は、ドラゴンによって自分の縄張りを追い出された魔物たちなんです」


 縄張りを追い出されただけなら暴走が再発する可能性は低い。


 しかし、問題なのはドラゴンの方だ。

 斥候が見たのは十体のドラゴンに占拠された山脈。

 その内のたった一体が山脈から下りてきただけで簡単な壁しかない村は壊滅する。外壁のある街にしても空から攻撃されればひとたまりもない。


「ドラゴンがいるのは本当なんだ」

「間違いなくいます。既に討伐されたドラゴンが納められています」


 そう言って席を立つ受付嬢。

 1階の奥の方へ行き、ついて来るよう言うので従う。


 奥にあった倉庫には全身の至る所から血を流して息絶えた緑色のドラゴンの死体があった。何度も斬られたり、叩かれたりした跡があり、生々しいのだがこれだけのダメージを与えなければ殺せなかったのだろう。

 今、重要なのはここにドラゴンの死体がある、という事実だ。


「これは一昨日に討伐されたドラゴンです。このドラゴンは、偵察として山脈から下りてきており、近隣の村を確認していました」

「こんな大きな魔物がいたら気付くと思うんですけど……」


 ドラゴンは大きい。倒れているせいで正確に分からないが、全長は10メートルぐらいあるように見える。こんな大きな魔物が隠れられるような場所など限られているし、ドラゴンらしく空を飛んでいれば斥候でなくても見つけられる。


「それがそうでもないんです」


 受付嬢の説明によると、この緑色のドラゴンには気配を希薄させる能力があるらしく、村の近くを飛んでいても村人たちでは全く気付けなかったらしい。そんなドラゴンに気付くことができたのは、村を防衛する為に派遣されていた冒険者がいたからだった。


 山脈に近い村の一つが壊滅させられたことで村の防衛を強化することにした。村を襲うドラゴンを退けることができなかったとしてもドラゴンの接近に気付き、せめて人間を生かす計画だった。

 その計画は功を奏し、冒険者が偵察しているドラゴンに気付き、避難させることにした。


 だが、逃げたのがマズかったのか逃げる人間を見た瞬間に偵察をしていたドラゴンが襲い掛かってきた。


 人間ならあり得ない行動。

 いや、そもそもドラゴンが偵察をしていること自体があり得ない。


 結局、村人を生かす為にはドラゴンを討伐する必要が出た。

 その村に滞在していた冒険者。それにウルカから救援に駆け付けた冒険者や騎士の手によってドラゴンは討伐された。


「その時は、死者を出さずに討伐することに成功しましたが、重傷者が少数それに大多数が負傷しています。たった1体のドラゴンを討伐する為に戦力の多くを消耗してしまいました。この状況を考えるなら現在の戦力で複数のドラゴンと戦うのは無謀です」


 金に釣られて多くの冒険者が来た。

 それで、緑色のドラゴンと戦った時に失われた戦力は補充できた。

 けれども、たった1体のドラゴンを討伐する為に多くの冒険者が負傷した事が知れ渡れば逃げ出す者も出てくる。


「今朝には街や村を棄てて逃げ出そうという意見すら出てきています。ですが、ここにいてもドラゴンに捕食されるだけですから、そういった意見が出てくる気持ちも分かります」


 逃げる、と言っても簡単ではない。

 魔物に襲われて滅んだ3つの村から逃げてきた人々の受け入れが一時的だったアリスターのように新しい住人を受け入れる、というのは難しい。それが何十人、何百人ともなれば門前払いを受けることになる。

 つまり、逃げても辛い生活が待っているだけ。


 ネガティブな思考を持っている者の中にはここで死ぬことを選ぶ者までいたらしい。

 それだけウルカの人は追い詰められていた。


「分かりました。なんとかしましょう」

「本当ですか! ありがとうございます」


 受付嬢の顔が笑顔になる。

 たった4人の冒険者が加わっただけで随分と喜ぶものだ。


「たしかに普通のAランク冒険者が来ただけならここまで喜びません。ですが、マルスさんたちのパーティには期待していたんです」


 既に何度もドラゴンのように巨大な魔物を倒しているパーティ。

 冒険者ギルドには、冒険者がこれまでにどのような依頼を受けて成功させてきたのか記録が残っている。俺たちが依頼を引き受けた時点でウルカの冒険者ギルド職員もその事実を知った。


「今もこうして逃げ出さずに残っているのはマルスさんたちが来てくれると知っていたからです。あと、数日耐えればいい。そう思っていたんですけど、予想以上に早く来てくれて助かりました」


 急いでここまで来た甲斐があった。

 さすがに二日の強行軍はやり過ぎかと思ったが、これ以上の日数を掛けるのは彼らの負担を考えると忍びない。


「まずは、ドラゴンがどの程度の強さなのか……ん?」

「マルスさん」


 一応、受付嬢の前ということで名前を呼ぶシルビア。


「どうした?」

「外に強力な気配を一つ感じます」


 どうやら着いて早々にトラブルみたいだ。

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