第6話 ドラゴンの襲撃
冒険者ギルドから外へ出る。
先ほどと変わらない光景が広がっている。
だが、目のいい冒険者の何人かは北側から何かが迫っている事に気付いてそちらを見ている。
たしかに鳥みたいなものが飛んでいるのが見える。
「いえ、魔物です」
気配探知に優れたシルビアが魔物だと断言する。
今回はメリッサがいないので俺が【望遠鏡】を使用して魔物の姿が見えるようにする。
レンズに映し出されたのは、翼の生えた巨大な赤い蜥蜴。
体長は10メートルを優に超えている。
「ド、ドラゴン……!」
一緒について来た受付嬢が声を漏らす。
北を見ている冒険者たちもドラゴンだとは気付いていない。
「それにしても緊張感なさ過ぎじゃないですか?」
数日前に村が一つ滅ぼされ、多くの負傷者を出すほどの討伐戦が近くであったばかり。
街が危険な状態にあると知っていれば警戒していそうなものだ。
「それは、こちらからお願いして普段通りにしてもらっているんです」
逃げ出したところで安心して暮らせる場所などない。
ならば、ここにいるしかないため下手に緊張状態にあるよりも普段通りに過ごしていた方がトラブルは起こりにくい。
そう考えた冒険者ギルドと領主の方から通達があった。
「今、大型の魔物討伐のスペシャリストを呼んでいる最中なので安心してほしい、と言ってあるんです」
それって俺たちの事ですよね。
別に巨大魔物討伐のスペシャリストを名乗ったつもりはないんだけど……
「そこまで期待されると頑張らない訳にはいかないわよね」
アイラは既にやる気……斬る気だ。
「なるべく街には被害がない方がいい?」
「ドラゴン討伐の為に必要だったとしてもなるべく被害を出さない方向でお願いします。まあ、多少の損害が出た場合はこちらで補償します」
「分かった」
多少なら被害を出してもいい。
まあ、念の為に言質を得ただけで被害を出すつもりはない。
「おい、あれ……」
そうこうしている内にウルカの住人もドラゴンに気付いた。
ドラゴンは遠くにいる内は鳥みたいな影をしていたが、鳥では考えられないほどの速度で接近して来ている。
急なドラゴンの出現に呆然とする住人たち。
このままだとパニックになる危険性がある。
「なるべく派手な魔法の方がいいな」
「え……」
周囲に被害が出ないよう冒険者ギルドの屋根の上へと跳び上がる。
さすがは冒険者ギルド。建物が頑丈に造られている。これなら派手な魔法を使っても耐えられるだろう。
「【雷霆の矢】」
手を掲げると雷で出来た巨大な矢が俺の手の中に生まれる。バチバチと電撃が爆ぜる光景は近くにいた人たちの視線を釘付けにする。
周囲に被害を及ぼさないよう電撃は空へと向ける。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
大きな声を出して矢を投げる。
矢は、瞬く間にドラゴンのいる場所まで到達する。
一方、あまりの速さに矢を投げられたドラゴンは回避が間に合わない。咄嗟に翼をたたんで盾にしようとする。
が、その程度で防御できる魔法ではない。
翼を貫通すると奥にあった胸に当たって弾き飛ばされる。
「なるほど。威力は抑えたとはいえ、この程度の威力だとドラゴンの鱗に弾かれるのか」
ドラゴンの鱗には魔法耐性がある。
ドラゴンを倒す為には高火力の魔法並の威力を持つ攻撃が必要になる。だが、魔法耐性を持つ鱗があるせいで魔法では簡単にダメージを与えられない。
ならば、どうするのか?
もっと強い魔法で攻撃すればいい。
結果、翼を貫き、仰け反らせることに成功した。
そして、翼を貫かれたドラゴンは想像以上にダメージが大きかったのか飛んでいることができずに着地してしまう。
これだけ見せれば十分だろう。
「みなさん、今からあのドラゴンは討伐します。逃げる必要はありませんよ」
『……』
全員が足を止めて無反応。
ドラゴンも倒せる、というところを見せたかったのだが少々刺激が強過ぎたのかもしれない。
「……ッ! ブレスがくるぞ!」
ドラゴンを監視していた冒険者が叫ぶ。
その声を聞いた人々が反対側へいる人へと伝えていく。
墜落したドラゴンの様子を見ると口を大きく開けて魔力を集めていた。
ドラゴンは自分の最も得意とする属性によって鱗の色が変わる。赤いドラゴン、ということは火属性が得意なはず。おそらく吐き出されるブレスも火を伴うようなものになるはず。
ブレスが吐き出されれば、ウルカの街なんて簡単に吹き飛ばせる。
「イリス」
「了解」
街とドラゴンの間に巨大な氷壁が生まれる。
防御するつもりだということはドラゴンにも分かる。だが、ただの氷壁程度に防げないと分かっているため氷壁に構わず吐き出す。
しかし、ブレスは氷壁に防がれて進めない。しかも、炎のブレスを受けておきながら氷の壁は溶けてすらいない。
それもそのはず。イリスは氷壁の前面に【迷宮結界】を展開させており、実際にブレスを受け止めているのは結界の方。氷壁は、あくまでも見ている人向けに氷壁で防いでいるように誤魔化す為のもの。
20秒放ち続けていたブレスが力尽きて止まる。
「じゃあ、今度はこっちの番」
ドラゴンの意識が突如として自分の眼前に現れたシルビアへと向けられる。
接近していることに全く気付けなかったドラゴンが警戒を露わにする。
――こいつは敵だ。
翼を動かして飛ぼうとする。しかし、左翼を負傷しているせいで思うように動かせず飛ぶことができない。
そうこうしている間にシルビアが1歩近付く。
このままではいけない。
飛ぶことを諦めて腕を振るう。
鋭い爪の生えた腕は大地を抉ることができる。人間なんて当たるだけで細切れにすることができる。
だが、当たらない。軽く跳んだシルビアはドラゴンの爪を完全に回避していた。
逆の腕を振るう。空中にいる状態なら飛べない人間は回避できないことを知っているドラゴンは仕留めた、と思った。
しかし、タイミングを合わせたシルビアは振るわれた腕を足場にしてさらに高く跳ぶ。
高く跳んだシルビアがドラゴンの頭がある場所まで届く。
シルビアとドラゴンの視線が交わる。
――グオオォォォ!
雄叫びを挙げながら牙の生えた口を開けて襲い掛かってくる。
だが、ドラゴンの牙がシルビアに届くことはなかった。
重たい音を立ててドラゴンの首が地面に落ちる。
「ふぅ~、いくらドラゴンでも首を斬り落とされれば生きていないでしょう」
「ご苦労さま。いくら致命的な隙を晒させる必要があったとはいえ、ドラゴンの目の前に飛び出すのは生きた心地がしなかったわよ」
シルビアに攻撃を仕掛けた瞬間、ドラゴンは首を伸ばしていた。その状態だと鱗が引き延ばされて僅かにだがドラゴンの防御力が落ちた。
その僅か、が重要になる。
アイラのスキル【明鏡止水】は何でも斬れるようになるスキルだが、斬る為には『冷静でいること』と『斬れる』という想いが重要になる。防御力が落ちたことで自分にも斬れる、という想いが生まれた。
「それで、このドラゴンはどうするの?」
「そうね。ここのギルドで買い取ってもらった方が通常よりも高く売れるみたいだから解体して売ってしまった方が……どうやら、追加らしいわよ」
「え?」
シルビアの目が山脈の方を捉えていた。
同じ場所をアイラも見るが何も見えない。もちろん俺の目にも見えない。
「巧妙に姿を隠しているけど、何か大きな魔物がいることは感知できる。たぶん、さっき見せてもらった緑のドラゴンが隠れ潜んでいるんじゃないかな?」
「なるほど」
そういうことなら俺が仕留めさせてもらおう。




