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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第6話 シオドア族

 騎士とシオドア族の戦いは圧倒的だった。


「くっ、ここまでとは……」


 騎士の敗北、という形で幕を閉じた。

 どうにか騎士の中でもリーダーらしい男が最後まで残っていたシオドア族からの攻撃を受けてボロボロになっており、今も剣を支えにどうにか膝をついて立っている状態だった。


 対してシオドア族は傷らしい傷を受けていなかった。騎士の放つ全ての攻撃を回避しており、その証拠に晒された肌には傷が見受けられなかった。


「ど、どうしたと言うんだ!?」


 少年は騎士の敗北が認められなかった。

 それ故に「戦え」と命じるが、騎士たちにそんな力は残されていない。


「すみません、ぼっちゃん。どうやら私たちは島へ辿り着く事もなく敗北するようです」


 最後に言い残してリーダーの騎士も倒れてしまった。一応、意識はあるみたいだが、体を動かすような余裕はない。


「手加減はしてある。手当をして数日休ませれば問題ないだろう」


 シオドア族の男が手にしていた鉈に似た形をした剣を鞘に納める。


 男が手加減した、というのは本当だ。

 シオドア族は9人いたが、積極的に戦闘へ参加したのは騎士たちと同じ6人だけで残りの3人は万が一の場合に備えたサポートでしかなかった。それにシオドア族の剣には殴ったことによる血は付いていたが、剣で斬るような真似は全くしていないので血は流れていない。


 人数を合わせ、致命傷になるような攻撃は避ける。

 明らかに手加減がされており、その事実が騎士をさらに悔しがらせていた。


「護衛はいなくなった。今の内に引き下がるなら、お前は見逃してやろう」

「煩い!」


 少年が剣を抜いてシオドア族の少女へ向ける。

 明らかな侮辱。自分の力に自信があって、あれぐらいの年齢の子供なら多少なりとも己惚れていたとしても仕方ない。

 しかも相手は自分とそれほど変わらない年齢の少女。

 その事実が余計に拍車を掛けていた。


「いいだろう。私が相手をしてやる」


 少女も腰から二本の剣を抜く。

 少女が抜いた剣は、曲線を描く剣。長さは短剣ぐらいしかなく、相手にかなり近付かなければ攻撃は当たらない。


「後ろにいる連中は戦わないのか!?」

「戦わない。シオドア族は礼儀を重んじる部族。弱い者いじめは決してしない」

「くそっ!」


 それは、つまり少年とシオドア族の男たちが戦えば弱い者いじめをしている、と言っているに等しい。

 その事実が無性に腹立たしかった。


 そして、少女の方はキョトンとしていた。彼女にとっては厳然たる事実を言ったに過ぎないのだろう。


「行く――」


 少女が駆ける。走り難い砂浜の上だというのに、足場の状況など感じさせない軽やかな動きだ。いや、実際に走り慣れているのだろう。全く苦にすることなく駆ける。

 少年の方は対応できていない。ギリギリのところで自分の後ろへ移動された事には気付いた。


 少年が振り向こうとする。

 しかし、振り向く途中で少年の目に飛び込んできたのは、自分の顔面へ叩き付けられようとしていた少女の剣の柄。


 このままだと自分も無様に殴られる。

 そう思った瞬間、少年は歯を食いしばっていた。

 騎士として敵を前にして目を閉じるような真似はできない。


「気に入った」


 少なくとも心意気だけはある。

 抱いていたシエラをアイラに預けると砂浜の上を駆け抜ける。


「「えっ?」」


 少年と少女の声が重なる。

 二人とも目の前の光景が信じられない。それでも、しっかりと見据えていた。


「まずは、この剣を収めてくれないかな」

「くっ……」


 少女が持っている剣に力を込める。

 しかし、全力を込めても剣はピクリとも動いてくれない。


「いつの間に……」

「君たちの間に割り込むぐらいは一瞬あれば十分だよ」


 少女の剣が少年を殴る直前、二人の間に割り込んで少女の剣を上から押さえ込ませてもらった。力任せに押さえ付けている訳ではない。しかし、少女と俺では彼我の実力差があり過ぎて微塵も動かせずにいた。


「まだ、やるかい?」

「いや」


 少女の剣から手を放すと少女も引いてくれた。


「父さまが言っていたようにあなたは強い。私は無駄な戦いはしない」


 敵意もないみたいなので安心する。


「あなたは……?」


 少年の方も俺が気になっているみたいで見つめられていた。


「俺も『珊瑚亭』の宿泊客だよ」

「もしかして、以前に『巨大海魔(ジャイアントクラーケン)』を討伐したAランク冒険者ですか?」


 少年は俺の事を知っていたようだ。

 ただし、どこから俺の情報を知ったかが問題だ。サボナの住人なら巨大海魔(ジャイアントクラーケン)を討伐した冒険者について知っていてもおかしくない。しかし、先ほどの騎士の言葉を聞く限り少年は王都に住んでいるように思える。となれば、一介のAランク冒険者の情報など知らない可能性の方が高い。


 少年は『珊瑚亭』の宿泊客、という情報だけから俺の素性について思い当たった。

 つまり、事前に宿泊客の中に巨大海魔(ジャイアントクラーケン)を討伐した冒険者がいる事を知っていた。


 今回の旅行は突発的なものだ。さすがにサボナへ来ている事は、この数日の間で何度か姿を目撃されているので知られている。しかし、宿泊している宿までは知られないよう行動していた。

 確実に知っているのは宿を紹介したギルドマスター。そして……


「女将さん?」


 気まずそうに視線を逸らされてしまった。

 おそらく、女将さんは実力も実績もあるAランク冒険者がいるから問題ない、とでも言って少年を留めようとしたのだろう。

 こちらも口止めをお願いしてはいなかったが、宿泊客に過ぎない相手の個人情報を教えてしまうのは宿の女将としてどうなのかと思う。


 とはいえ、今さら否定したところで無意味だ。


「まあ、そうですね」

「やっぱり!」


 少年は憧れている人を見るような目を向けてくる。

 あまり貴族とは関わり合いになりたくないし、こういう態度を取る相手は苦手だ。


「君、強いね」

「当然です」


 自分の事を言われているのだと思った少年が胸を張る。

 だが、残念ながら少年の事ではなく、俺の後ろにいる少女に向かって言った。


「強くなんかない」


 少女は俺の強さを認めてくれたのか姿勢を正して対応してくれている。


「私は部族の子供の中で一番強いだけ。父さまやおじさまたちには敵わない」


 たしかに大人と比べれば弱い。

 それでも同年代の子供と比べれば十分に強い。


「そうだな。戦ってみるか」

「え……無理。今のだけで分かった。あなたとは戦いにすらならない」


 俺と自分が戦うんだと予想した少女。

 さすがに俺も大人げない真似をするつもりはない。


「エルマー」


 宿の前で観戦していたエルマーを呼ぶ。

 名前を呼ばれたエルマーはそれほど時間を掛けずに駆け寄って来てくれた。


「何ですか?」


 薄く笑みを浮かべながら用件を尋ねるエルマー。

 依頼を引き受ける気には全くならないが、少しだけシオドア部族に興味が湧いたので試してみることにする。


「ちょっと戦ってみろ」

「どうして僕が!?」

「お前はアイラに鍛えられて実戦も冒険者として経験している。対人戦も対魔物戦も問題なく熟せるし、ギルドにいる冒険者に頼んで稽古もつけてもらっているみたいだから経験値も申し分ない。ただし、絶対に必要な物がある」


 それが、同格の存在との戦いだ。

 エルマーは格上の相手とは戦い慣れているが、同格の存在とは戦い慣れていない。


 同格の存在と戦い、切磋琢磨することによって精進させる。

 俺もリオと競争したことで色々と考えさせられた。


 今までは年齢的な問題もあるので仕方ない、と割り切っていたが目の前にちょうどいい相手がいるのだから利用しない手はない。


「今後、さらに強くなるつもりでいるなら絶対に通らないといけない道だ。覚悟して戦え」

「……分かりました」


 理由を説明すると覚悟を決めたエルマーが剣を抜く。

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