第5話 島に挑む者
朝から夕方まで海で遊ぶ。
そうして、夜になると宿の提供する豪勢な料理を食べて、お風呂に入って寝る。
まさに至れり尽くせりな日々を過ごすこと5日。
途中、街へ遊びに行って色々な物を買い、新鮮な魚料理に舌鼓を打った。
これまで騒動解決に乗り出すような真似はしていない。さすがに女将も不安そうにしていたが、宿泊客である俺に要請することもできず、悶々とした日々を過ごしていた。女将の拠り所は宿泊料金なのだろうが、そんなものは自分で払えばいいだけの話だ。
「きょうはどこいくの?」
「どうしようか?」
「おさかなさん、いきたい!」
街の中では魚が放流された場所があり、釣りを楽しめるようになっていた。食糧として魚を調達する為ではなく、完全に趣味として楽しむ為の施設。
俺は釣りを楽しんでいるのだが、シエラは水面から顔を出す魚を見るのが楽しいらしく何度か釣り堀に落ちそうになったことがあって、その度にアイラに助けられていた。
まだまだ時間には余裕があるし、行ってみるか。
「今日は何がいるかな?」
「おっさかなさん、おっさかなさん♪」
楽しそうにしながら旅館の出口へと向かう。
その後を俺たちはついて行った。
「……?」
突然、シエラが足を止めて振り向いた。
俺たちも事前に気配で気付いていた。そして、気付いていなかった大人たちが振り向いた先に何があるのか確認する。
「こ、困ります……」
「問題ない。女将は大船に乗ったつもりで待っているだけでいい」
「本当に危険なのです!」
「大丈夫だ!」
女将が必死に集団を止めようとしていた。が、集団は一切聞く耳を持たないみたいでズカズカと旅館を出て行こうとしていた。
集団の戦闘を歩くのは12、3歳ぐらいの銀髪の少年。少年は、騎士服を着ているが、国の騎士になれるような年齢ではない事から、どこかの貴族が抱える騎士団に所属している者なのかと思ったが……
「いいえ、あの子は騎士服を着ているだけで騎士ではありません」
騎士の中でも役職や階級が存在する。
それらを現す為の階級章があるのだが、服のどこにも付けられていなかった。
「周囲に護衛がいる事からして、どこかの貴族家の跡取り息子といったところではないでしょうか」
少年の周囲には6人の騎士が張り付いていた。
こちらは襟元に階級章が付けられており、メリッサによれば西側にある貴族家の抱える騎士団に所属している事が分かるらしい。
一般庶民には分からない。
「女将。貴女が、あの島に困っている事は重々承知している。すぐに私が片付けて来てあげよう」
「いえ、たしかに困っているのは事実なのですが……」
「安心したまえ。僕は、王都の剣術道場で剣を学んでいる。この程度の問題は簡単に解決してあげよう」
少年の腰には剣があり、動きもしっかりしているので鍛えているのだろう。
実際には周囲にいる騎士が動くことになるのだろうが、彼らの功績は主君である少年のものとなる。
細かい真実など人々にとってはどうでもいい。
「そういう問題ではありません」
女将にとっては気が気ではない。
自分の宿に泊まっている貴族の家族が傷付いたとなれば気が気ではない。
「ほら、シエラはこっちにおいで」
「うん」
シエラを抱き上げる。
少年たちの存在に逸早く気付いたシエラだったが、どうやら風神が入れ知恵をしたようだ。まあ、あのままだと少年たちに弾き飛ばされていた可能性だって全くない訳ではないので危険を未然に避ける、という意味では間違っていない。
抱かれたシエラは大人しくしている。
そのまま『珊瑚亭』を出て行く少年たちを見つめていた。
「ちょっと興味があるから見に行ってみるか」
シエラではなく、仲間に尋ねる。
特に反対意見も見受けられなかったので俺たちも『珊瑚亭』を出る。
どうやら、少年たちの目的は海に浮上した『島』にあるようだ。今のところ騒動に首を突っ込むつもりはないが、現状を正しく認識しておく為にも『島』がどのような反応を見せるのか知っておく必要がある。
ビーチに出ると少し離れた海上にボートが浮いていた。木製のオールによる人力で移動するボートなどではない。後部に魔石を消費することによって推力を生み出す魔法道具が積まれ、進行方向の調整も可能なボートだ。
推力はあるが、魔石の消費も馬鹿にできたものではないので一般的ではなく、金持ちが持つようなボート。サボナでも貴族向けに何隻か貸し出されていたのを街で見たことがある。
「これで『島』へ乗り込みます」
「ご苦労」
船頭と思しきボートに乗っていた男に金貨を渡している。比較的操縦は簡単だと言え、素人に離れた場所にある島まで船を操縦できるはずがない。サボナのどこかで雇ったのだろう。
「と、止めて下さい!」
「私たちが付いている。ぼっちゃまを危険に晒すような真似はしないから安心してほしい」
「そうではないのです」
少年の護衛である騎士に懇願する女将。
しかし、騎士に聞き入れる様子はない。
離れた場所で行われている会話なのだが、俺たちの耳はしっかりと聞き取っていた。
「王都でも、ここの宿は人気宿として有名です。そんな宿が問題に直面していると聞いてぼっちゃまは解決の為に立ち上がりました……というのは建前ですね」
実際には、知り合いの貴族子女に好きな子がおり、『珊瑚亭』の噂を聞き付けた女の子が不安がってしまった。
その問題を解決することで女の子から一目置かれる存在になりたい、そんな想いからの行動らしい。
島にどんな危険があるのか分からない。
それでも、騎士たちは若い者が多く、自分たちなら解決できると信じている。
「おい」
ボートに乗り込もうとしていた少年に声が掛けられる。
少し低めだが、まだ幼さが残る女の子の声だ。
「何者だ?」
少年も振り向く。
その先にいたのは褐色の肌をした10人の集団。声を掛けたのは先頭にいた女の子によるものだが、女の子の後ろには屈強な男が9人控えていた。
「あれが、この場所に元からいたシオドア族か」
シオドア族。
サボナの北側を縄張りとしていた部族で、海の底に眠ると言われる神を信仰していた部族。普段は森の中で生活をし、信仰する神に祈りを捧げる為に砂浜へ赴き膝を突いていた。
彼らの外見的な特徴は、褐色の肌にある。
普段から森や海のように太陽の照り付ける場所で生活しているため肌は焼け、大部分を晒す布の少ない服を好んで着ているため目立つ。
そして、内面的な面では戦闘能力が高い事が特徴だ。普段から子供でも森の中で狩猟を主に生活をしているため身体能力が高く、危険な魔物と遭遇しても身を守れる……どころか狩れるよう訓練を施されている。
おそらく先頭にいる少女も十分に強いだろう。
「約定通りなら島へ近付いてはならないはずだ。約定を違えるつもりか?」
「こちらには、そのような意図は――」
「あのような島があって困っている人がいる。その状況を黙って見ているつもりか?」
言葉を言い掛けた女将を遮って少年が言う。
だが、そんな事はシオドア族にとって関係がなかった。
「関係ない。こちらは、そちらが土地を求めているというから最低限の条件を呑んで土地を引き渡した。だが、その最低限の約束すら守れないと言うのなら実力で排除するまでだ」
少女に代わって後ろにいた男が答える。
と、シオドア族の様子を見ていると男の目がこちらへ向けられる。
向こうはこっちの事を明確に認識した。
「本当に止めて下さい。貴族様に怪我をされては……」
「なら、そちらの責任で今すぐに排除されよ。それぐらいの時間は待ってやる」
『珊瑚亭』にも警備の為の人員はいる。
しかし、相手が警備員よりも強いシオドア族や貴族とあっては動くに動くことができない。そして、サボナの兵士も貴族が相手なので表立って動くような真似はしたくないので最初から関わるつもりがなかった。
「時間は与えた。これより排除させてもらう」
「こちらも目的がある。なので、島へは行かせてもらう」
騎士6人とシオドア部族9人が衝突した。




