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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 浮上孤島
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第4話 砂浜の遊戯

 砂浜に波が押し寄せる。

 空は晴れており、穏やかな海は規則的に動き、砂浜にザァーザァーという音が響く。

 そんな様子に興味が惹かれたのかアイラに抱かれたシエラが波打ち際を見ていた。


「覚えていないのかな?」


 真剣に波を見つめるシエラを見ながらアイラがしみじみと呟いた。

 思い出されるのは一年前の出来事。デイトン村の向こう側が見たいエリオットを連れて海にまで出掛けた事があり、シエラも生まれたばかりではあったものの海を見ている。


 ただし、本人は全く覚えていないようでアイラを見上げながら首を傾げていた。


「下りてみる?」

「うん」


 いつもの快活な様子がない。

 少し緊張しながら砂浜に足をつけると海へ引いていく波を追い掛ける。

 そうすれば、今度は波が砂浜へ戻ってくる。


「きゃっ」


 シエラの立っていた場所にも波が押し寄せる。

 急に襲い掛かってきたように思える波に驚いてアイラに抱き着いている。


「大丈夫よ」

「う~」


 アイラが宥めてもシエラは波を睨み付けることを止めない。


「ちょっと、その辺を歩いてくるわね」


 シエラを連れて波打ち際を歩く。

 せっかく海へ来ているのだから慣れてほしいところだ。

 アイラを見れば周囲を何かが漂っている気配を感じる。風神も一緒にいるみたいなので危険も最小限に抑えられるだろう。


 改めて砂浜を見渡す。

 朝から『珊瑚亭』に宿泊している客が砂浜に椅子を置いて寛いでいたり、海で泳いだりして遊んでいる。俺たちも宿で朝食を済ませると人数が多いので一角を占有させてもらっていた。


 屋根だけのテントが設営されており、その近くではレウスが生まれて初めて感じる砂浜特有の感覚を足裏に楽しみながら歩いていた。テントの下では、アルフとソフィアがスヤスヤと眠っていた。


「よく眠っているな」

「はい」


 アルフとソフィアの傍ではシルビアが二人をあやしていた。

 こうして、のんびりとするのも久しぶりだ。


「ところで、依頼の方はどうするんですか?」

「依頼?」

「え、昨日話を聞いて女将さんから引き受けたではありませんか」

「ああ、その件か」


 たしかに女将から『珊瑚亭』の抱える事情を聞いた。

 ギルドマスターからも問題を抱えている事を聞いた。

 けど、それだけだ。


「俺は依頼を引き受ける……騒動を解決する、なんて一言も言っていないぞ」

「でも、昨日は『分かりました』って言ったじゃないですか」


 たしかに事情を聞いた後で言った。

 しかし、依頼を引き受けることを了承した訳ではないし、最初から依頼を引き受ける状況にあって事情を聞いた訳ではない。


「俺たちは『珊瑚亭』を利用する一人として、ここで起こっているトラブルを聞いたに過ぎない。宿泊客として話を聞くのは当然の事だろ」


 事情を何も聞かないなどあり得ない。

 あの宿には金を持っている商人や貴族だって泊まる。そういった人たちは護衛を連れており、女将は彼らに同じような説明をしたはずだ。


 果たして、その人たちが騒動を解決しなかったから、といって問題にするか?


 否、そんな事を言い出せば宿泊客全員が問題客になる。


「こっちは休みに来ているんだ。ギルドマスターや女将から事情を聞いた。それだけで騒動解決の為に動き出す気にはなれないな」


 そもそも依頼の報酬が気に入らない。

 宿泊代金の無料。たしかに人気宿の代金なので金額的には助かるが、それがAランク冒険者5人を動かす報酬に適しているはずがない。特定の冒険者に依頼を出す場合には、依頼を完遂した場合の報酬とは別に指名料が必要になる。Aランク冒険者に出すとなれば高額になる。それこそ宿泊代分は掛かる。

 女将はその辺を理解している。というよりもギルドマスターが入れ知恵をした可能性が高い。


「そういう訳で、気に入らないため今回は休み」

「……事情は分かりました。けど、本当に上手く運ぶでしょうか?」


 シルビアが『珊瑚亭』の東にある森を見る。

 サボナの北には山があり、下の方には背の高い木の生える森が広がっていた。姿を隠すには絶好の場所だ。


「そっちは無視だな」


 今のところ害はないように思える。


「私も賛成です」


 テントの下に敷いたシートの上では水着姿のメリッサがグッタリしていた。朝から調子が悪いのは気付いていたが、時間が経っても回復する様子が見られない。


「本当に大丈夫か?」

「……大丈夫です。少々、想定していた以上に辛いだけですから」


 メリッサの目がアイラとシルビアへ向けられる。


「よく、二人ともこんな状態に耐えられましたね」

「……? 何か言った?」

「いいえ、何でもありません……」


 残りのイリスとノエルを探すとエルマー、ジェフ、ジリーの三人と一緒にボールを使って遊んでいた。魔物の皮を使用して作ったボールで、打ち上げたボールを下に落としたら負け、という単純なルールで遊んでいる。

 今は、足元が砂ということで5人とも苦戦していた。

 それでも、子供たちを相手にする、ということでイリスとノエルは手加減をしていた。


「パス」

「任せて」


 イリスが打ち上げたボールに合わせてノエルが跳び上がる。

 ノエルが狙うのはエルマーだ。


「この……!」

「ノエル姉ちゃんにばかりいい格好はさせないぞ」

「今度こそ受け止めます!」


 エルマーたち3人は協力してノエルの打つボールを受け止めようとしている。

 先ほどから見ているとイリスとノエルの二人が協力してエルマーたち三人を相手にしていた。

 人数的な問題からはエルマーたちの方が有利だが、互いの力の差を考えればイリスとノエルの方が圧倒的に有利だ。子供相手に二人が協力するなんて大人げない。


 そして、さらに大人げない事をする。

 ノエルがちょうどいい高さにあったボールを空振りする。


 その姿を見てホッとするエルマーたち。

 しかし、これがノエルの作戦だった。何度も自分たちに向けてボールを打ち込まれる姿を見ていたエルマーたちはノエルの攻撃に慣れてきた。タイミングさえ合えば受け止められるかもしれない。

 そこでノエルが考えた作戦がタイミングをずらす……フェイントだ。


 ボールが腰の高さまで落ちたところで体を回転させると尻尾で叩く。


「あ……」


 思わず隣にいたシルビアが呟いた。

 エルマーたちも落ちるボールを見て蹴られることを警戒していた。しかし、それよりも早いタイミングで叩かれたことで反応できないでいた。


 あまりに大人げない。

 いや、イリスとしては3人を鍛えるつもりでやっているのだろうが、ノエルの方は完全に楽しんでいた。


 ボールが砂浜に落ちる直前……


「【跳躍】」


 ボールの落下先へ転移して打ち上げる。


「ちょ……」


 着地したノエルが何か言いたそうにしている。


「大人げないぞ」

「ちょっとぐらい羽目を外したっていいじゃ……へぷっ!」


 俺の打ち上げたボールはジリーの前へ飛び出していた。

 そのままボールを叩き付けるとノエルの顔面に直撃する。魔物の皮を使用しているため直撃するとかなり痛い。


「ご、ごめんなさい……!」

「ふっ、ふふっ……」


 直撃を受けたノエルは笑っていた。


「わたしたちを攻撃するなんていい度胸じゃない。覚悟しておきなさい!」

「え、わたしですか?」


 ノエルの宣言に戸惑うジリー。

 思わずジェムの後ろに隠れてしまった。

 だから、大人げないぐらい怖いんだよ。


「仕方ない」


 エルマーたちに加勢する。

 向こうの戦力を考えればちょうどいいぐらいだろう。


「あの……」

「なんだ?」


 ボールを受け止める為に構えたところエルマーが話し掛けてきた。


「あれは、どうしますか?」

「気にするな」

「えぇ……」


 エルマーも森から監視されていることには気付いていた。

 どうやら順調に強くなっているようだ。ジェムとジリーが気付いているのかは分からない。もしも、誰かに危害を加えるようなことがあれば、それぞれシャドウゲンガーが思い思いに行動していいと許可は出してある。

 なので、今は少しでも遊ぶことにしよう。


「さあ、来い!」

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