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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第28章 故郷崩壊
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第20話 村の奪還作戦③

 モルト村の奪還は簡単に終わった。

 相手はゴブリンやコボルト。Aランク冒険者もいるので苦戦する方がどうかしている。


 ただし、全く問題がなかった訳ではない。


「さて、次はセージュ村へ行きたいところなんだが……」

「すぐには無理だろうね」


 ガンザスさんとルイーズさんの視線の先には、モルト村で生活していたと思われる女性たちが寝かされていた。


 11名の女性。

 生きていたものの全員が生気を失っていた。

 それだけの被害に遭っていた、ということだ。


「ちょっといいかい」


 ルイーズさんがついてきた冒険者の中でも足の速そうな若者を選んでアリスターまで戻って馬車を何台か連れて来るよう伝令を頼んでいた。

 頼まれた若者も足の速さには自信のある者で、ルイーズさんの選定は正しい。


 伝令の相手はギルドでもアリスター家でもいい。

 冒険者ギルドが緊急依頼を出している。そのため、依頼を受けている冒険者のサポートも彼らの仕事だ。

 アーカナム地方を治める領主であるアリスター家には、自らの領地で生活に困った者を保護する義務がある。もっとも、それも最低限の生活ができるようになるまでの話だが。


 とはいえ、どちらもゴブリンたちに襲われた女性を保護する義務がある。


「Dランクの中から10人ぐらい適当に見繕って他の連中は出発するよ」


 ルイーズさんに指示されるままガンザスさんが9人の冒険者を選んでモルト村で待機させる。

 そこそこ実力はあるのだが、伸び悩んでいてランクアップが果たせずにいる者たちなので女性たちを守るぐらいなら大丈夫だろう。


 改めてセージュ村へ向けて出発する。

 途中、イートアントの死体を見つけた。


「おい、虫型の魔物はいないんじゃなかったのかよ!」


 イートアントは蟻の姿をした魔物なのだが、人と同じくらいの大きさがあり、相手が人間であっても貪り尽くしてしまうほどの獰猛さを持っている。

 油断していると中ランクの冒険者でもパックリいく。

 俺たちの会話を聞いていて虫型の魔物に有効な薬品を持って来ていなかったため嘆いているのだろう。


「問題ないよ。こいつらの傷口を見てごらん」

「……獣に喰われている?」


 イートアントを絶命させたのは背中にある傷。

 その傷は鋭い爪によって抉られたものであり、傍には噛み砕かれた跡もある。

 それに、よく見れば分かるが周囲には食べかすとでも言うべきイートアントの肉片が飛び散っている。


 犯人は考えるまでもない。


「他の魔物に喰われたのか?」

「そうだよ。この近くには虫型の魔物もいたんだろうね。けど、森から出てきた獣型の魔物が多過ぎて全滅させられているよ」


 だからこそ虫型の魔物は警戒する必要がない。


「そ、そうか……すまない」


 声を荒げた事を謝る冒険者。

 ただし、凄く気分が悪そうにしていた。


 周囲の魔物が全滅するほどの襲撃。その割に魔物の姿をほとんど見ない。


「さて、奴らはどこへ行ったんだろうね」



 ☆ ☆ ☆



 姿を消した魔物。

 その答えはセージュ村にあった。


「奴が魔物の群れを率いるボスだろうね」


 セージュ村の村長によれば、村を囲う塀があるはずだ。

 ところが、塀は魔物によって破壊されていたため村の様子が手に取るように分かる。


 村の中心では大きな猿の魔物が何かの肉を貪っていた。

 そして、猿の魔物へ貢物をするようにゴブリンやフォレストウルフ、スローチンパーといった下位の魔物が肉を運んでいた。


「ワイルドコング――随分と大物が出てきたね」

「俺たちは見たことがない魔物なんだが、王都のギルドマスターだったアンタは知っているのか」

「もちろんさ。あれは目に付く物を手当たり次第に握り潰して喰い尽くす。奴の力の前じゃあ防御なんて無意味だよ。生きたいなら我武者羅に逃げることをおススメするね」


 ルイーズさんの言葉を裏付けるようにゴブリンが硬い甲羅を持つアルマジロの魔物をワイルドコングの傍に置く。

 すると甲羅の硬さを気にすることなく握り潰して肉だけを自分の口の中へ入れてしまった。


「……倒す方法は?」

「近距離で何人かが注意を惹いている間に遠距離から魔法使いが火力の強い攻撃を浴びせる。それを数時間も続ければ死ぬよ。アタシが昔に一度だけ遭遇した時には燃え易い物を敷き詰めた小屋に閉じ込めた状態で蒸し焼きにしてやったよ」


 当時の事を思い出しているのか笑うルイーズさん。

 その様子に冒険者たちが引いている。


 とにかく倒し方は分かった。


「つまり、火力の高い攻撃で仕留める、と」

「その場合の欠点は素材が獲れないことだろうね」


 ルイーズさんが仕留めた時も毛皮は黒焦げになっており、肉も美味しくいただけるような状態ではなかった。上手く狩ることができれば強さに見合っただけの美味しさがあるはずだ。

 だが、素材を気にして討伐するには強過ぎる。

 冒険者にとっては厄介な存在だった。


「で、誰が行くんだい?」


 ルイーズさんが確認するが誰もが目を逸らしていた。

 セージュ村を奪還する為にはワイルドコングの討伐が必須となる。冒険者の中にはルイーズさんの言った高火力の魔法を使える者がいる。その魔法使いが所属するパーティがワイルドコングとの戦闘を担当すればいいのだろうが、かなりの危険が付き纏うことになる。


 魔法使いは基本的に耐久力が心許ない。

 ワイルドコングに捕まれば一瞬で全身をバキバキに砕かれるだろう。


 戦闘を楽しみにしているヒースさんでさえ自分をも簡単に砕ける筋肉質な腕を前にして躊躇している。


「仕方ないですね」


 冒険者の一団から前に出る。


「まさか、一人でやるつもりか?」

「ワイルドコングの討伐は必要な事なんでしょう。なのに、誰もやらないなら俺がやるしかないでしょう」

「大丈夫。私も一緒に行くから」

「いや、あれは二人でどうにかできるような相手じゃあ……」


 止めようとしていた冒険者を無視してセージュ村へ向けて駆ける。


「ああ、もう! お前ら、あいつにばっかり戦わせていると報酬を全部持っていかれることになるぞ! あの化物みたいな魔物は無理でも周囲にいる魔物は俺たちでも対処できるだろ」

「ああ!」

「あいつにばっかりいい格好させられるか!」


 行動を起こす冒険者たち。

 それが自分の稼ぎを気にしたものだったとしてもありがたい。


 こちらの様子に気付いたのかワイルドコングの傍にいた魔物たちが警戒し、ワイルドコングもゆっくりと立ち上がって太い腕を上げる。

 戦意は十分といった様子だ。


「【風壁(ウィンドウォール)】」


 村に侵入した瞬間、あちこちから飛び出してくる魔物たち。

 だが、俺とイリスに接近しようとしても左右に展開された風の壁に押しやられて近付くことができない。斬り刻んだり、吹き飛ばしたりするほどの威力がない代わりに持続力と防御力に優れた魔法だ。

 初級魔法に分類される簡単な魔法なのだが、迷宮主のレベルで使用すれば金属よりも硬い壁へと変わる。


 魔法で押し留めている間に村の中心へと向かう。


「行くぞ!」

「おうよ」


 置き去りにされた魔物に襲い掛かる冒険者たち。

 魔物も侵入を許してしまった二人よりも大勢いる冒険者の方が脅威だと判断して冒険者たちの迎撃に入る。侵入してしまった二人は許せないが、この先には頼りになるワイルドコングがいる。そんな信頼による行動だった。


「イリス、サポートよろしく」

「……あまり無茶しないで」

「問題ない。あのレベルの魔物を迷宮の魔力を気にすることなく倒せるんだ。油断なんかせず全力でやらせてもらう」


 と言いつつも素材を気にする。


「完全な状態で得るならやっぱり心臓を潰すべきだろ」


 ワイルドコングが太い腕で上から殴り掛かってくる。

 攻撃を見切り回避すると、懐に潜り込む。


「ハッ!」


 気合と共に放たれた拳がワイルドコングの腹に穴を開ける。


「こんなものかな」


 拳大サイズとはいえ、穴を開けられ動かなくなったワイルドコング。

 魔力を纏った拳なら硬い筋肉の鎧を貫通することだってできる。

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