第19話 村の奪還作戦②
作戦と言っても、やることはシンプル。
魔物に奪われた村を順々に奪還していく。
騎士たちにアリスターの守りを任せて冒険者たちは魔物を狩る為に進んでいく。魔物との戦闘なら騎士よりも冒険者たちの方が経験は豊富だ。
「ちょっといいかい?」
俺も彼らと一緒にアリスターを出て行こうとしたところでルイーズさんに呼び止められた。
「何ですか?」
「アンタは、あまり戦わないようにしな」
「……理由を聞いてもいいですか?」
「今回の緊急依頼は貢献の度合いによって報酬も変わる。森の近くの状況を分かっているアンタなら道中にどんな魔物がいるかも分かっているんだろう」
ゴブリンやコボルト。
低ランクの冒険者でもどうにかなるような魔物が中心で、その中に強い魔物が群れを率いるように混じっている。ヒッポグリフのような危険な魔物は含まれていない。
「森の中にいる『何か』は質よりも量を優先させて魔物を生み出している。簡単に生み出せる魔物を強いアンタが倒してしまうと他の連中の功績がなくなる。アンタはグリフォンみたいに厄介な敵が現れた時に備えていな」
それが最高戦力の役割だと言うのなら引き受けよう。
「その代わりに魔物を生み出している奴は俺が倒します」
こっちも奴には困らされていた。
「そもそも、魔物を生み出せる奴なんてのがいるのかい?」
「これまでにもいなかった訳ではないでしょう?」
「たしかに自分の下位互換みたいな魔物を生み出せる力を持った魔物は過去にもいたよ。けど、今回は種類を問わずにポンポンと生み出している。そこまで節操なしなのは聞いたことがないね」
「共通点がない訳ですよ」
魔物を生み出していると分かった時点で放置など絶対にできなくなったので敵が生み出している魔物について確認した。
たしかに節操なしに色々な魔物を生み出している。
とはいえ、ある条件に縛られているのは間違いない。
「敵は、土地を循環する魔力を横取りして魔物を生み出しています。そのせいか、あの森で現れる魔物しか生み出せていません」
ゴブリンのような人型の魔物。
コボルトのような獣型の魔物。
虫型の魔物やスライムみたいな特殊な魔物の姿を全く見掛けていない。
「そういえば、そうだな……」
誰かが呟いた。
昨日、討伐していた冒険者たちも思い当たる節はあったらしい。ただし、異常な数が発生してしまったせいで気付けなかった。
「その辺を念頭に入れて討伐計画を練った方がいいな」
ガンザスさんも昨日の戦闘を思い返して納得していた。
虫型の魔物が出てこない、と言うのなら虫型の魔物に特化した装備や道具は必要ないことになる。万が一の場合に備えて最低限を持っていくだけに留めておけばいいだろう。
不要な荷物など足枷にしかならない。
冒険者たちが慌ただしく動き始める。
「で、魔物を生み出しているのは間違いないんだね」
周囲にいる冒険者たちがこちらへ注意を払っていないところでルイーズさんが傍に寄って尋ねてきた。
「間違いありません」
だからこそ、このまま放置する訳にはいかない。
「それは、アンタが迷宮主だから分かることかい?」
「……気付いていたんですか?」
「アンタ、と言うよりもイリスたちの方だね」
「私?」
それまで護衛として傍にいるだけだったイリスが首を傾げる。
「アンタの女たちが手にした力は異常だよ。特に顕著だったのはメリッサだね。今はいくつの属性が使えるのか知らないけど、『火』と『風』しか属性を持っていなかったはずなのに他の属性が扱えるようになって、終いには『空間魔法』まで扱うようになる。少なくとも魔法の扱いに適したエルフでもそんな奴は知らない。本人に聞いても教えてくれないだろうから、アタシなりに推測してみたんだけど……どうやら正しかったみたいだね」
ニヤァと笑うルイーズさん。
まあ、彼女ほど老獪な女性が近くにいれば、いずれはバレていたはずだ。
「できるだけ内密にお願いします」
「もちろん言い触らすような真似はしないさ。そんな事をしても孫のように可愛がってきた娘が悲しむだけなんだからね。で、もう一人の孫娘はどうしたんだい?」
メリッサの姿を探している。
王都にいた頃にイリスとメリッサの事を気に入って色々と指導してくれていたみたいなので姿が見えないとなれば不安になるんだろう。
「……あいつは、屋敷にいます」
「緊急依頼は全ての冒険者が参加する必要がある。もちろん許可は得ているんだろうけど、何があったんだい?」
また、この説明をしないといけないのか……
「ほう。そういうことなら仕方ないね」
この場にいない理由を説明すると満面の笑みを浮かべていた。
「事情は分かった。アタシたちは後ろの方からゆっくりと進ませてもらおうか」
☆ ☆ ☆
ルイーズさんの立場はアリスター家の代理人。
戦闘をしながらでも冒険者の移動速度は速い。そのため奪われた村を奪還する為に一秒でも惜しい今は先へ進むことを優先させる必要があるため文官を連れ歩くような余裕はない。
「てやっ!」
今もコボルトが両断された。
たしかDランクの冒険者だったはずだ。
「さすがは辺境アリスターの冒険者だね。Dランクでも随分と強いじゃないかい」
「そうですか。王都にだって強い人はいると思いますよ」
「たしかに王都には強い奴がいるね。けど、ほとんどの連中が貴族や大商人の息が掛かった奴なんだよ。中でも酷いのが王家の息が掛かったSランク冒険者共だね」
王都でギルドマスターをしていたルイーズさんに言わせるとSランク冒険者は危険を冒さなくても王家から出される給金だけで豊かに暮らしていくことができる。
そのせいか日を追うごとに実力は衰えていく。
それに王都は優秀な騎士団がいるため近場にいる魔物は駆逐されてしまっている。冒険者向けの魔物討伐依頼は少ないらしい。
それでも護衛依頼などがあるので冒険者の需要は高い。
「あそこに比べたらここの連中は個人個人が危機感を持って行動している」
リーダーシップを取れる人物もいる。
ただ、それが最高ランクでないのか悔やまれる。
「止まれ」
今もガンザスさんの指示で冒険者たちが止まる。
「なんだよ……」
一応、指示は聞いているAランク冒険者。
ただし、早く戦いたいのかウズウズしている。
「モルト村だ」
遠くにポツンと村が見えている。
目のいい者は遠くからでも村の中の様子が見える。俺も空にいるサファイアイーグルと視界を同調させてもらって確認する。
「ゴブリンどもめ……」
嫌悪感を全く隠すことなく村を見ていた者が呟いた。
モルト村は現在、ゴブリンやコボルトといった人に近い形をした魔物によって使われている。
1体のゴブリンが戸を開けて建物から出てくる。
普段ならゴブリンの表情なんて分からないけど、スッキリしたような顔をしているように見える。
そんな表情をしている理由も村の広場を見れば察することができる。
外には食い散らかされた男性の死体がいくつもゴミのように打ち捨てられていた。その中に女性の死体は見当たらない。
おそらくは建物の中にあるのだろう。
「魔物の数は分かるか?」
「そうだな。モルト村にいた人の数は100人ちょっと。ゴブリン共の大きさを考えれば2倍程度じゃないかな」
「……その程度なら楽に片付けられそうだな」
アリスターにいたDランク以上の冒険者は全員連れてきた。
ゴブリン程度に後れを取るはずがない。
遠征報酬
・モルト村奪還




