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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第19話 黄金狐商会とギルドの思惑

今話は3人称視点です。

「失礼するぞ」


 深夜。

 誰もが寝静まった時間にランディはある人の部屋を訪れていた。

 マルスやメリッサと接していた時とは違う砕けた口調、気安い態度。

 そうできるだけの関係性が部屋の主との間にはあった。


「入りな」


 部屋の主から許可が下りた。

 ランディが中に入ると数日振りに見る『妻』がいた。


「随分と忙しそうだな」

「昨日はウチの功績を面白く思わない商人連中との会談、今日は貴族連中の無茶な注文に付き合わされる。連中はワタシを何だと思っているんだろうね」


 部屋の中に入ってすぐに浴びせられる愚痴。

 彼女との付き合いも長い。ランディは特に気にすることなく妻の愚痴を聞き続けていた。


「――すまないね。ワタシばかり愚痴を言って」

「気にすることはない」

「そういう訳にはいかないよ。アンタには中の事を頼んでいるからね」


 女性の仕事は外で色々な人と付き合う事。様々な人と会い、儲かりそうな事業を見つけたり、思い付いたりすれば商会へと持ち込んで来る。若い時はともかくとして今となってはそういう仕事が中心になっていた。

 そのため中の事に関われるほどの余裕はない。結果、ランディが商会内の仕事を担当するようになっていた。尤も、年齢的な事もあって女性とは違いほとんどの仕事を部下に割り振っている。


 二人とも、もう引退を考える年齢をとっくに過ぎている。

 ランディは、いつでも引退できるほど落ち着いた状況になっている。

 対して女性の方は今でも精力的に仕事をしている。仕事を任せられる後任がいない、という訳ではなく彼女は単純に仕事が好きだった。

 おそらく死ぬ時まで仕事を続ける事になるだろう。


「私は君に誘われなければ、この国の底辺で一生を過ごす事になっていた。何もできず、何も残すことができない。それに比べれば大変ではあったものの君との生活は実に充実していた」

「そう言ってくれると助かるよ」


 女性としては困っていたから助けを求めた。

 それだけの事だった。

 尤も、その後の関係は単純な利益関係では済まされず、お互いに助け合って忙しい時期を乗り切ったこともあって夫婦関係にまで至ったし、子供にも恵まれることができた。

 そんな人生を彼女も歓迎していた。


「それで、そっちは何かあったのかい?」


 忙しい日々を送る女性。

 夫婦と言えども話をできる時間を確保するのは難しい。

 今日のようにタイミングを見計らってランディの方から女性の部屋へ足を運ばなければならないぐらいだ。


 そして、女性が疲れている事をランディは知っている。

 態々、夜の遅い時間に訪ねるような真似はしない。


「面白い有望な人物を見つけたから、その報告だ」


 ランディが女性に見せたのは二日間の間で調べ上げたマルスたち冒険者パーティに関する情報。

 外国から来たばかりの冒険者であるため集められた情報は少ない。

 それでも商談で多くの人と話をする機会のある女性にとって注目すべき冒険者が現れた時は話のタネにもなるため聞くようにしている。尤も、女性にまで報告が届くのは時間を要する。たった二日の段階では女性に知らせるほどではない。だが、ランディはすぐにでも知らせた方がいいと判断した。


「随分と面白いパーティだね」


 渡された資料を確認しながら女性が呟いた。


「そうだろう。あそこまでのハーレムパーティはなかなかいない」


 男が一人だけのパーティ。

 人数比率から言って男性がパーティ内の誰かと付き合っている確率は低い。そういったパーティの場合には全員と友情関係で止まっているか、全員と付き合っているのがほとんどだ。

 商会の統括として彼らのパーティを見た時、ランディは後者だと判断した。


「そういう意味で言った訳じゃないんだけどね」

「と言うと?」

「たった二日で地下19階まで行く。普通じゃ絶対にあり得ないね」


 ギルドが売っている攻略地図がある。

 エスターブールの迷宮は『構造変化』があっても大きな変化はないため地図の作成は昔から容易にされていた。そのため地図の信頼度は高く、探索は容易だ。

 それでも限度がある。


「ワタシたちが現役だった頃は地下19階まで行くのに2カ月は掛かったよ」


 それもまともに武器を揃えられるようになってからの話だ。

 いくら高ランクの冒険者と言えども二日は早過ぎる。


「あいつらには何か秘密があるね」

「秘密……少し探ってみた方がいいか?」


 商会として付き合いのある冒険者について調べる。

 それぐらいの事はどこの商会でもしているし、『黄金狐商会』ほどになれば情報は簡単に手に入れることができる。


「さて、それはどうだろうね……」


 だが、女性の方は迷っているようだ。


「何かあるのか?」

「彼らに何かがあるのは間違いない。だけど、それを隠すような素振りが一切見られないのが気になるね」


 どんな秘密があるのか詳細は分からない。

 しかし、見る者が見れば秘密があるのは明らか。

 冒険者にとって特殊なスキルは貴重な力となる。当然、秘密は知られたくないと考える。いくら巧妙に隠した秘密でも知られてしまう可能性はある。


「ワタシには彼らが逆に自分たちの事を調べて欲しいように見えるよ」

「……だが、そういう訳にもいかない」


 明日も今日と同じように迷宮で得た素材を持ち込まれる可能性がある。

 既に付き合いを自分から持ち掛けた以上、自分の方から付き合いを止めるようには言えない。むしろ普段は手に入らない素材をいくつも持ち込んでくれたおかげで収支はプラスになっている。

 彼らが隠している秘密が問題になっている。


「取り込むのは非常に危険な存在だとワタシは思うね。ただし、彼らが利益を齎してくれる存在であるのは変わりない。お互いに利益のある範囲で付き合いを続けて行く必要があるだろうね」


 女性の中でマルスたちに対する興味が湧いた。

 そして、ある決心をする。



 ☆ ☆ ☆



 エスターブール冒険者ギルドの仕事は夜遅くまである。

 夕方に迷宮から帰って来た冒険者が多くの素材を持ち込むため早く鑑定や解体を済ませてしまう必要があったからだ。自分たちがモタモタしていたせいで素材の価値が下がってしまった……冗談では済まされない。

 多くの人を雇うことによって仕事量の多さに対応している。


 今も倉庫や解体場のある1階では騒がしい声が響いている。

 近くが住宅だった場合には問題だろうが、冒険者が多くいる区画の中心にあるため酒場のように夜でも騒げる場所が多いため問題になっていない。


「どうされましたか?」


 ギルドマスターの執務室。

 そこではギルドマスターが秘書とその日の報告書を眺めていた。


「随分と凄腕の冒険者が来てくれた」


 ギルドマスターは報告書を机の上に放り投げる。

 報告書に書かれているのはマルスたちの名前や分かっているだけの能力。それとエスターブールに来てからの実績。

 秘書も放り投げられた報告書を眺める。


「……随分と優秀な冒険者ですね」


 そこに書かれていたのは俄かには信じ難い内容だった。

 ギルドに大量の宝石を納品し、貴重な食材をいくつか持ち込んでいる。

 初日に比べて二日目の納品が少ないように思える。が、これはギルドに納める前に『黄金狐商会』に納品している為だとギルドの職員が聞いていた。


 『黄金狐商会』。冒険者ギルドにとっては自分たちの利益を横取りしているような存在に思えるため面白くない。

 その報告書を見た直後、秘書の眉が顰められた。


「そっちについては問題ない。問題なのは攻略速度の方だ」


 冒険者ギルドでも異常だと判断された。

 Aランク冒険者なら地図を手に攻略を最優先にすれば二日で地下19階まで到達するのは不可能ではない。しかし、彼らはギルドすら把握していなかった宝箱まで開けて到達している。

 これは絶対に不可能だ。

 可能だとすれば事前に宝箱の位置が分かっていなければならない。


 何かある。

 漠然と思うだけで確証はない。


「……少し調べてみた方がいいな」

「ええ――」


 そうして二人とも動き始める。

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