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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第18話 奴隷階級

 ランディさんに案内される前に倉庫にいた職員にいくつかの素材を渡すのを忘れない。鑑定が終わるまで時間が掛かるし、時間潰しにはちょうどいいだろう。


 そこは、倉庫で商会の職員による解体が終わった素材が保管されていた。

 その倉庫で5人の男性がせっせと箱を運んでいた。5人は30代や60代と年齢がバラバラで、体格も満足な食事が摂れていないのか痩せ気味なのは同じだが身長はバラバラだ。

 ただ、共通点としては全員が商会の制服の下に首輪をしていたことだ。


「彼らは罪を犯して『奴隷』まで身分を落とされた者たちです」

「もしかして、冒険者に雇われた子供たちと同じように荷物運びをさせているんですか?」


 せっせと箱を移動させている男たち。

 どう見ても荷物運びをしているようにしか見えなかった。


「ええ、そうです。唯一の違いを上げるとすれば酷使している事でしょうか」


 中には倒れてそのまま起き上がれない者もいるらしい。


「そんな『黄金狐商会』ほど大きな商会なら魔法道具を使うなどすれば作業の効率化ぐらいは可能なんじゃないですか?」


 ある場所からある場所へ移動させる。

 それぐらいが可能な魔法道具なら多少の資金は必要になるものの購入は可能だ。


「ええ、ありますね」


 『黄金狐商会』も考えた事があった。


「ですが、それでは採算を取ることができないのですよ」

「どういう事ですか?」

「我が商会で使っている『奴隷』は、全員が我が商会から借金をして返せなかった人たちです」


 返済能力がないと判断されてしまうほどに返済が滞った債務者。

 債権者である『黄金狐商会』は、奴隷になった彼らを購入することによって借金の返済に充てようとした。


「魔法道具を購入すれば初期費用や維持費が必要になります。ですが、奴隷である彼らを使えば、返って来ないと思っていたお金が返って来る。我々、商人にとって債権を只で捨てる、というのは最も恥じるべき事です」


 だから多少の投資をして作業の効率化を図ることよりも借金の返済を選んだ。

 そして、借金によって『奴隷』に落ちてしまう者など偏屈で妙なプライドを捨てられない者か生活能力に乏しい者。彼らにできる事は非常に限られていた。


 それに『奴隷』という信用ならない者に重要な仕事を任せる訳にもいかない。

 結果、男の『奴隷』には荷物運びという肉体労働が割り振られた。


「がっ……」


 その時、一人の男が転んで運んでいた荷物を床にばら撒いてしまった。

 中には研磨された魔物の角が入っており、一部はぶちまけた時の衝撃で傷付いてしまっている物もある。


「何をやっている!?」


 そこへ一人の男性職員が近付く。

 『奴隷』たちを監視していた者だ。


 男性職員が鋭く転がった魔物の角を見る。


「失態だな」

「ま、待て……私は!?」

「お前が破損してしまった物は、お前の買取になる。当然、金など持っていないお前では買取は不可能。よって、『黄金狐商会』の方で立て替えておく事にする」

「そ、そんな……!」


 奴隷の男が必死に縋る。

 そうするだけの理由が男にはあった。


「借金の増額などされれば……」

「妻と娘たちが本当に心配なら必死に金を稼ぐ事だ」


 ランディさんが男の事情をそっと教えてくれる。

 男は、元々貴族だったのだが、ある時を境に没落してしまう。

 その時は身分が『平民・中』になっただけだった。


 平民として大人しく生きて行けば『奴隷』になるような事もなかった。

 だが、元貴族の男にとって平民の生活は耐えられなかった。耐えられなかった男は借金をして以前のような暮らしを続けた。そして、叶うはずもない貴族への復帰を夢見て成功するはずもない事業に投資してしまった。


 すぐに借金は返済不可能なレベルにまで膨れ上がってしまった。

 後は、司法の手も入って『奴隷』へと落ちた。


 その時の借金の金額が問題だった。

 男一人ではどれだけ必死に働いても返済が不可能なため、男の妻や娘たちも返済の為に奴隷となることになってしまった。

 女の奴隷が行き着く先など限られている。


「分かったら作業に戻れ! そして、今まで以上に必死に働け」

「くっ……」


 悔しそうにしながら作業へ戻って行く。

 何を言ったところで状況が改善されるわけではない事を理解している為だ。


「これで、いいんですか?」


 元『平民・下』として目の前の光景が受け入れられるのか?

 ノエルには到底受け入れられなかった。


「はい、当然です」


 だが、ランディさんは平然と答えた。


「そもそも借金をしなければ良かっただけの話です」


 どうしてもやむを得ない事情の場合は『平民・下』へ落ちるだけで済む。

 だが、元貴族の男の場合は情状酌量の余地なく奴隷に落とされた。『平民・中』という猶予を与えられたにも関わらず、貴族だった頃の生活を捨て去ることができなかった。

 その時に多くの金を貸していたのが『黄金狐商会』だった。


「まあ、既に元は取ったと言えば取れたのですが、やはり借金分は働いて返してもらわなければなりません」


 貴族から没落した後でも持ち続けていた書類。

 それの回収が目的だった。

 詳しい事は依頼人の情報も関わってくるため教えてもらう事はできなかった。


「当商会にはいませんが、犯罪奴隷の場合はもっと劣悪な状況にいます」


 ただし、朗報もある。


「その代わり、という訳ではありませんがエスタリア王国では理不尽な理由によって奴隷に落とされる事はありあせん」


 何者かに誘拐されて奴隷にさせられる。

 だまされた結果、借金を押し付けられる。

 そういった理由で奴隷になった事が判明した場合には、その時の所有者や売った奴隷商が逆に『奴隷』になる。盗賊に捕まって売られた場合には国が総力を挙げて盗賊を滅ぼすことになっている。


「これが、この国の方針です。『奴隷』という誰の目から見ても明らかな状態にまで落とすことによって犯罪への抑止力にする。実際、『奴隷』の姿を見ていて自分もあのようになりたくない、と考える人は多いのですよ」


 その為の階級制度。


「だからこそ国が定めた方針以外で身分階級を変えられるような事があってはならないのです」


 逆に反した者を罰する。

 エスタリア王国へ入ってすぐに遭遇した盗賊は場所が悪かっただけで国が動き出せばすぐにでも捕縛されていた。

 どれだけの策を講じようとも馬鹿はいる。


「納得できませんか?」

「いえ……」


 苦虫を噛み潰したような顔をするノエル。

 シルビアも酷く扱われる奴隷の姿を見てしまったせいで少しばかり情緒が不安定になっている。


「ですが、納得しなければいけません」


 今まで『奴隷』を直接見るような機会はなかった。

 先ほどのように怒鳴る行為は、あそこが『黄金狐商会』の倉庫で、俺たちが商会の統括が懇意にしている人物だから見逃して貰えた。


 この国の在り方に文句を言ってしまうとこちらが罰せられる可能性がある。まあ、外国人なので悪くても国外追放がいいところらしい。

 目的を達成するまでは国外へ出て行くつもりはない。

 騒ぎを起こすような真似をする訳にはいかない。


「この国では『平民・下』や『奴隷』は物として扱われます。もしも、黙って見過ごすことができずに行動を起こしてしまえば最悪の場合には国外追放では済まされなくなるかもしれません」

「「……」」


 そう言われては二人とも納得するしかなかった。

 その日は、予想以上に高値で引き取ってもらった素材の報酬を手に帰ることになった。


 どうにも暗い表情の二人を放っておける訳もなく、夜は二人を部屋に招き入れることにした。

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