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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第27章 迷宮探訪
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第17話 平民・下階級

「あなたたち! 何をさせているの!?」

「あん?」


 目の前で繰り広げられている光景を見た瞬間、心優しいノエルが叫び出した。


 対して言及されている男たちは何を怒られているのか分からず呆然としていた。

 男たちのパーティは装備の整った冒険者と思われる4人組にポーターと思われる13、4歳ぐらいの少年が3人。ポーターの少年はそれぞれ大きなバッグを背負っており、ボロボロな服を身に纏っていた。

 とても満足な状態とは言えない。


「もしかして、こいつらの状態について怒っているのか?」

「そうよ!」


 ノエルの視線からようやく察した男たち。

 怒鳴られた男たちは逆に戸惑っていた。


 もしも冷静だったならノエルも男たち以外の反応にも気付いたかもしれないが、今のノエルにそこまで気にするような余裕はない。


「嬢ちゃんたちはこの国に来たばかりか?」


 嬢ちゃん――随分と下に見た言い方だが、こちらの冒険者ランクを教えていないし、明らかに自分たちよりもかなり年下に見える女性ばかりの冒険者パーティ。下に見られて当然だった。

 そして、自分たちにとっては正しい考え方に反対している事から外国人だと判断した。


「この扱いが、この国にとっての普通だ。だから文句を受け付ける必要性を感じないな」

「なっ!?」


 あまりの物言いに突っ掛かりそうになる。

 それを手を握って止める。


「止めないで!」

「……」


 叫んで来るが放す訳にも行かない。

 俺だって詳しい事情は何も分かっていない。


「いいでしょう。お教えします」


 ランディさんを見ていると仕方なく教えてくれた。

 とりあえず落ち着くように言ってからノエルの手を放す。


「あそこにいるのは『平民・下』の子供たちです」


 スラムにいるようなみすぼらしい格好をした子供たち。

 彼らにも身分証が与えられている。

 ただ、それはエスタリア王国における絶対的な身分差を明確にする為だった。


「この国では、どんな仕事をするにも身分証の提示が必要になります」


 身分証の提示がなければ仕事をすることができない。

 だが、彼らが所持している身分証は『平民・下』の物。

 その身分証で就くことができる職業は限られており、ほとんど自由のない生活を強いられることになる。

 当然、身分証の偽造は重犯罪。バレた時は死刑が生温く感じられるほどの処罰を受けることになる。


「『平民・下』である子供が就ける職業は非常に限られております。その中で、身分を上げることが可能な一獲千金を夢見る事ができる仕事は冒険者ぐらいです。ただし、『平民・下』である彼らでは満足に武器を買うお金すら持っていません」


 だから荷物持ちから始める。

 昨日、迷宮前で見かけた子供たちと同じだ。

 迷宮の中にいた子供たちは武器を手にしていたが、それだってコツコツと貯めたお金で買っただけの事。


 迷宮に挑む冒険者にとって最も面倒な仕事は狩った魔物の素材や宝箱の中身を持ち帰ること。大きなバッグを持って挑むことになるのだが、重たい物を背負っているだけで動きが制限される。魔物と戦う必要がある状況では致命的だ。まして両手が塞がる状況など問題外だ。

 だから戦闘力は低いが、体力のあるポーターを雇う。

 尤も高ランク冒険者ともなれば収納リングのような収納系の魔法道具を手に入れることができるためポーターを雇う必要がなくなる。だが、エスターブールには食肉を狙って稼ぐ中位ランクの冒険者が多いためポーターもかなりの数が必要とされていた。


「あの状況だと子供たちは冒険者に『雇われています』。そして、エスタリア王国では雇った『平民・下』をどのように扱おうとも身分が高い者の自由です」


 『平民・下』以下の身分の者を雇った場合にのみ認められている。

 もちろん死んでしまうほど酷使するのは問題なので、司法からの厳しい検査と指導が入ることになっている。そのため、その職業から逸脱するような仕事をさせられる事はない。


 ただし、冒険者は厳しい。基本的にその日の成果によって報酬が変わり、肉体を酷使しなければならない職業なため死んでしまうことも度々ある。そして、そんな仕事を選んでしまったのも本人の意思であるため指導が入ることもない。


「つまり、子供を酷使しているようにしか見えませんが、この国においては問題行為ではないのです」

「そんな……」


 問題行為として訴えたとしても受理されない。

 この国において正しいのは冒険者たちの方なのだ。


「子供たちの方もその事を理解しています」


 だからこそ文句を言わずに働き続けている。


「そういう事だ。分かったか?」


 先に来ていた冒険者たちの方は話をしている間に査定が終わったらしく、報酬を受け取って帰って行く。

 自分たちの方が上だと思って、こちらには興味がないようだ。


 そんな連中に子供たちも付いて行く。

 子供たちには彼らなりの付き従う理由がある。


「もしも、成功して一獲千金を手に入れるような事になれば身分を上げることができます」


 尤も、それは夢のような話だ。


「……ランディさんは許せるんですか?」

「そうですね――」


 それでも諦め切れないノエルはランディさんに個人的な意見を聞く。

 老人として孫のような齢の子供が酷使されている光景を見て何も思わないはずがない。


「私も元々は同じように『平民・下』からこことは違う商会で下働きをして大成した身です」

「え……」


 驚くノエル。

 だが、俺も同じように内心では驚いていた。

 今では大商会となった『黄金狐商会』。そこの統括であるのに元は別の商会の下働きで、さらには『平民・下』だった。

 本人の口から語られていなければ笑い飛ばしていたかもしれない。


「私は運が良かったのです。子供の頃からどうにか雇ってもらって商会の下働きとして働いていたものの元の身分が低かったせいで待遇を上げることができませんでした。そのまま25歳まで過ごした頃、一生をこのまま過ごすのだろうと思っていたところに幼馴染が声を掛けてきたんですよ」


 ――商会で培った知識が必要。一緒に新しく商会を立ち上げない?


「未来に対して何も感じていなかった私は一緒に商会を作り上げ、そして成功させました」


 商会を立ち上げる話を持ち掛けた人物こそレイナちゃんの言っていた『黄金狐商会』を立ち上げた元冒険者の狐の獣人だろう。

 中心となったのはその人物だが、陰にはランディさんの尽力があった。


「私は運があり、そして努力した。だからこそ努力もなしに今の待遇だけを変えるような事を認めるような気にはなれないんです。もしも、彼らが今の待遇を変えられるだけの力を持っているのだとしたら自力でどうにかできるはずです」


 もしも、運も実力もなければそれまで。

 多少、劣悪な環境に置かれているため買取価額を適正にするなど平等に扱うつもりではあるが、必要以上の手助けをするつもりはない。


「ですが、彼らの境遇はまだマシな方です」

「そうなんですか?」

「ええ、『奴隷』に比べたらマシです」


 奴隷。

 その言葉を聞いた瞬間、シルビアが眉を顰めていた。

 シルビアの表情の変化に気付いたランディさんだったが、彼は気付かない振りをしてくれた。


「見てみますか?」


 どうにも心配されているようなので、ランディさんの案内に従う。


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感情論すぎて主人公の為にって考えがなさすぎる 眷属設定がほんとに戦力アップにしかなってない
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