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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第26章 悠々自適
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第8話 チョコ

 密林フィールド。

 迷宮の地下41階~45階までを構成するフィールド。

 天井から降り注ぐ蒸した熱気が冒険者の歩みを遅くする。


 そんな場所だからこそ得られる物がある。

 南部の熱帯地方でのみ採れる実。辺境では輸入して来る事も難しいため本来なら食べる事など叶わないのだが、近くに迷宮があるおかげで食べることができていた。


 とはいえ、非常に高価な物だ。

 理由は密林フィールドのある階にある。

 地下41階~45階と言えば最高ランクの冒険者でなければ辿り着くことができない。

 そのため需要に供給が全く追い付いていなかった。


 アリスターではほとんど俺たちが採って提供しているぐらいだ。

 他の高ランクの冒険者たちは、もっと割のいい依頼や依頼人が貴族の信用に繋がりそうな依頼を受けている。


「ありがとうございます」


 担当のルーティさんにお礼を言われる。


 今日も密林フィールドから採って来たカカオとコーヒーの実を渡す。

 カカオは、胚乳部分を粉砕・焙煎した物に脂や砂糖、ミルクを加えることによって作られるチョコレートが人気だ。王都にいる女性や貴族でもなければ味わうことができない、という噂まで流れたため高値で売れる。

 コーヒーは決して手に入らない代物ではなかったのだが、辺境まで輸入すると輸送費のせいで原価が高騰してしまうため一般庶民では簡単には手が出せなかった。


「それにしてもマルス君たちが定期的に迷宮へ潜ってくれるおかげでカカオとかが簡単に手に入るようになりました」

「こっちは買い取り額がいいので採ってきているだけですよ」

「それだけに長期の依頼で留守にすると困ってしまうのです」


 歓迎されている裏にあった事情を知って苦笑するしかない。

 魔力を消費すれば簡単に手に入れることができるが、節約の為にも迷宮にある木に成っている実を回収するようにしている。

 また、迷宮で育てた方がカカオの味が良くなる。


「しばらくはこっちにいるので大丈夫ですよ」



 ☆ ☆ ☆



 今回はギルドへ卸した分だけでなく他にも回収しておいた。

 シルビアが希望したためだ。


「せっかくなのでカカオの調理にも挑戦してみようかと思います」


 カカオの実から抽出した種。

 それを竃の中に入れると高熱で加熱させる。

 豆を細かく砕いて行く。


 この時、すり鉢を使って擦って行くので体力を必要としてしまうのだが……


「メリッサ」

「いいですよ」


 シルビアがすり鉢をメリッサに渡す。

 メリッサも大変な作業だという事が分かっているため拒否しない。


「闇魔法【加重(ウェイト)】」


 上から圧し掛かる重力がカカオ豆を潰して行く。

 ゆっくりと力を強められて行く。


 3分後――


「このぐらいでよろしいでしょうか?」

「ありがとう」


 キメ細かくなったカカオ豆の入った容器にバターとミルクを少量と大量の砂糖を入れる。

 容器には泡立て器をメリッサが添えている。ただし、手は全く動かしていない。それでも攪拌されている。それというのも泡だて器を中心に微細な風が起こされている為だ。


「じゃあ、後は湯煎して……」

「はいはい」


 文句を言いつつもシルビアに従って掻き混ぜる。


「どのくらい混ぜればよろしいですか?」

「綺麗になるまでお願い」


 その間、シルビアも何もしていない訳ではない。

 細かな調整に関してはシルビアの方が得意なため何度も舐めながら滑らかさを確認していく。


「こんなものかな」


 最後に成型して冷やせば完成となる。

 冷やすのも魔法があるのであっという間の出来事だ。


「う……」

「うん?」


 足元を引っ張られる感覚に見下ろせばシエラがシルビアの足を引っ張っていた。

 さっきまではリビングで寝ていたはずなのだが、どうやらここまでハイハイで来てしまったらしい。


「どうしたの?」

「あぅ、あぃ」

「ん?」


 シエラの視線はチョコレートの入ったボールのある場所へと向けられていた。

 今はキッチンの上にある。足元にいるシエラからでは見る事ができない。


「もしかして匂いに釣られてやって来たのかな?」


 今の屋敷には甘い匂いが立ち込めていた。

 赤ん坊でもはっきりと分かるぐらいに甘い匂いだ。


「よいしょ」


 足元にいたシエラを抱え上げる。

 急に高くなった視界にシエラが興奮している。


「はい」


 シルビアが指先にチョコレートを付けてシエラの前に出す。


「おい、大丈夫かよ」


 赤ん坊にはあまり刺激の強い物を出さない方がいいと聞いていた。


「大丈夫です。ちょっと舐めさせるだけですから」


 それぐらいなら大丈夫なのかもしれない。

 ただ、心配なのはこの場に母親であるアイラがいない事だ。


「はい、あ~ん」


 パクッとシルビアの指ごと口の中に含んでしまう。


「……!」


 これまでの味わったことのない感覚に驚いている。


「おいしい?」


 コクコクと何度も首を縦に振っている。

 どうやら随分と気に入ったみたいだ。


「あう!」


 両手を広げて再度舐めさせてくれるよう要求。


「う~ん……残念だけど、これ以上はダメだからね」

「うぅ!」


 赤ん坊ながら怒っている。

 やはり女の子では甘い物に勝てなかったか。


「我慢だぞ」

「やぁ!」


 諭しても気に入らないのか腕の中でジタバタしている。


「おとーと! いもーと!」

「これって……」


 最初は、自分がもっと舐めたいから駄々をこねていると思っていた。

 だが、弟と妹想いのシエラは二人にも食べさせたいと要求していた。


「いや、さすがに生後1カ月にも満たない子供にチョコをあげるのは……」


 シルビアも舐めさせるのはアウトだと判断した。


「やぁ!」


 だが、シルビアの態度からあげられないと分かったのかさらに強く駄々をこねるようになってしまった。

 凄く強い力で叩いて来る。

 一体、誰に似たのか怒った時は躊躇がない。


「あの……」


 キッチンに兄の奥さんであるアリアンナさんが顔を出して来た。

 毎日、食事時には顔を合わせているのだが、今日はお互いに用事があったため朝も顔を合わせることがなかった。


「ちょっと舐めてみてもいいですか?」


 アリアンナさんが断ってからチョコレートを舐める。


「……これぐらいなら大丈夫ですね」


 屋敷の奥へと姿を消すとすぐにレウスを連れて戻って来る。


「この子にも本当なら早い気がするんですけど……」

「すみません……」


 アリアンナさんが指先にちょっとだけチョコレートを付けてレウスの口元に運んで行く。


 ペロッと舐める。

 しかし、喜んでいたシエラと違ってレウスの方はペッと吐き出してしまった。


「ああ、ごめんなさい……」

「いいんです。気にしないで下さい」


 床についた汚れを拭き取ろうとするアリアンナさんに代わってメリッサが拭き取る。赤ん坊を抱えた状態で屈まないで欲しい。

 やはり、生まれたばかりの子供には刺激が強過ぎたのかレウスは吐き出してしまった。


「いい、シエラ? 生まれたばかりの子にはまだ早い食べ物なの。レウスだって早いんだからアルフとソフィアにはもっと早いことが分かるわよね」

「ぅ……」


 しょんぼりと落ち込んでいる。


「そんなに落ち込まないの」

「?」

「これから凄い物を作ってあげる」


 ――チョコレートケーキよ。


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