第2話 休暇延長
「残念ですけど、それは難しいです」
辺境の開拓は非常に難しい。
それは、デイトン村の近くにある森のように魔力が集中することによって魔物が次から次へと湧き出て来てしまうからだ。
しかも、土地にある膨大な魔力を糧に生まれるため元を断つことができない。
魔物に本格的に襲われれば村など一たまりもない。
2年前も俺が対処しなければ村は滅んでいた。
俺以外の冒険者を雇う事に成功していたとしても多くの犠牲を出すことになり、それでも村が再起不能になっていた可能性も否定できない。
俺たちなら森の魔物を全滅させて一時的に平和な森にする事も可能だが、数カ月以内に元通りになってしまう。永遠に森の魔物を退治している訳にもいかないため意味のない解決方法だ。
「そういう訳なんです」
と、どうして実力があるのに森の開拓が不可能なのかを説明する。
生まれたばかりの娘を置いて森に常駐するつもりなどない。
「……何か勘違いをしているようだ」
「はい?」
「僕がお願いしているのは『開拓』ではなく『開通』だ」
開通……?
「この間の課外授業でも理解したと思うが、僕には『あの森を開拓して、向こう側に港町を作る』という使命がある」
その為には森に出没する魔物を常時狩り取ってくれる軍隊。
町を作る者。
港を作るなら維持する者も必要になる。
開拓が無事に成功すれば辺境が賑やかな事になる。
そのため応援はしたいと考えている。
「ただし、問題な事に僕は生まれてから一度も海や港を見た事がない」
「一度も?」
「その通りだ」
それは少しばかり問題だ。
実際に港を設計するのは昔からアリスター家に仕えている文官の誰かが行ってくれるのだろうが、トップが作ろうとしている物に対して最低限の知識を持たないのは何かトラブルがあった時に問題になる可能性が高い。
せめて港がどのような物なのかぐらいは知っておいた方がいい。
「あと数日もすれば学校も夏休みになる」
学校には遠方の田舎から出てきた生徒もいる。
そういった生徒が里帰りできるよう夏と冬に長めの休みが設けられていた。
「そこで、護衛を連れて国内の港をいくつか見て回ってみるつもりだ」
「それは、いい勉強になりますね」
護衛を連れて、という部分に少々問題があるがギリギリ間に合うことになりそうなので聞き流す。
「その後で実際に港町として開拓する事になる場所がどんな場所なのか実際に自分の目で見て確認してみたい」
「それで『開通』ですか」
エリオットが要求しているのは森の向こう側まで行く為に必要な道。
かなりの距離を移動する事になるため馬車が必要になる。その馬車が走る為の道を用意して欲しい。
「期間は1カ月もある。どうだろうか?」
期間を吟味する。
それぐらいならちょうどいいだろう。
「可能です。お引き受けしましょう」
あの森に縛り付けられるつもりはないが、開拓には賛成なので多少の協力は惜しまない。位置的に港が作られればイシュガリア公国との交易が開始される可能性が高い。
そうなってくれれば今も譲り受けている以前の報酬が受け取り易くなる。
あと、公国へ遊びに行きやすくなる。
ノエルも加わった今、聖女組の二人に簡単に会いに行けるようにしたい。
「それは助かる。貴方たちの力なら1カ月もあればそれなりの物ができると信じている」
そうして、エリオットとの会談は終わった。
☆ ☆ ☆
夜。
兄も帰って来たので夕食前の時間に色々と話をする。
女性陣は全員が夕食の準備などに駆り出されていたので俺の腕の中にはシエラがいておもちゃで遊んでいた。
詳しく聞いても依頼内容に関して特に裏はないみたいだ。
単純に森の向こう側がどんな風になっているのか見てみたい。
そう言えば俺も森の深いところまでは入った事があったが、向こう側まで行った事はなかった。
「よし、1カ月の休暇を貰えた」
「は?」
俺の言葉の意味が分からず首を傾げている。
「次期領主からの依頼です。優先度は冒険者ギルドが斡旋する依頼よりも高いです」
高ランク冒険者の義務とでも言うべき指名依頼。
様々な恩恵を受けられる代わりに拠点としているギルドから斡旋された依頼を断ることができなくなる。
アイラの出産に立ち会えるよう開拓依頼を引き受ける代わりに1カ月間は指名依頼を断れるようにしてもらった。
ギルドと約束をした期間も数日で終わる。
「これでしばらくは一緒にいられるよ」
「あぅ?」
抱いたシエラに言うが、意味が分からずに首を傾けている。
「ううん、なんでもない」
「あぃ」
シエラが笑っている。
それだけで何でも許せるようになるから不思議だ。
「まさか、休みが欲しいが為に依頼を引き受けたのか?」
「その通りですよ」
依頼は1カ月以内に馬車が通れる道を作ること。
「依頼はどうするつもりだ?」
「ああ、あの森に道を作ることですか? それだったら1日もあれば終わるはずですから最終日にでもやりますよ」
信じられないといった顔で俺を見て来る兄。
兄には実力の一端を見せていたつもりだったが、まだ理解できていないみたいだ。
とはいえ、これまでに誰もが開拓など不可能だと匙を投げて来た森の開通。どれだけ凄い力を持っていたとしても時間が掛かると思ってしまうのは仕方ない。
「結構簡単だと思いますよ」
どデカい魔法を一発ぶっ放して、魔法で整地する。
「ね? 簡単でしょ」
「そんな強力な魔法があるなんて聞いたことがない」
そう、一般人では絶対に不可能な威力の魔法を使う。
相応のリスクを支払うことになる。
「もしかしたら俺の能力の理由に気付かれるかもしれません」
異常な力を見せつければ自分も手に入れようと興味を持って探し出す者が現れてもおかしくないくらいの力がある。
ただし、相応のリスクを背負う代わりに得られるものもある。
「まさか、シエラと一緒にいる為だけに力を見せてもいいと思っているのか?」
「そうですよ」
「う?」
最近だと色々な物に興味を持って手にしていた。
今も街で買った振り回すと音が鳴るおもちゃを手にしている。
大人が難しい話をしている最中も振り回していたのだが、自分の名前が呼ばれたと気付いたシエラが手を止めて見上げていた。
「なんでもないよ」
「あい」
ガラガラ、音が鳴る。
安全性に気を配ったおもちゃを手にしているだけなら心配もないが、目を離した一瞬の隙に何を手にするのか分からない。
心配で、シエラから目を離すことができなかった。
「それに俺が屋敷にいた方が兄さんも任務に集中できますよね」
「それもそうだが……」
エリオットの護衛として付いて来た兄。
今後は本格的に護衛として動くことが多くなりそうだ。次期領主の護衛を任された、という事はアリスター家からの信頼はかなり得られたと思ってもいいはずだ。
ただ、これからの1カ月はエリオットに付いて港町を見て回ることになる。
アリアンナさんの出産には間に合いそうだが、出産を間近に控えた奥さんが屋敷にいるのに自分は傍にいることができない。
以前に襲われた事もあったので不安になってしまった。
せめて頼りになる人物がいて欲しいと思った。
「1カ月間はシエラに掛かり切りになるので屋敷にいますからアリアンナさんの安全は保障しますよ」
「あい!」
自分も守る。
そう言いたそうに両手を上げるシエラ。
「……分かった。こっちは任せる」




