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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第20章 辺境開拓
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第1話 元『巫女』

 5日ほどメンフィス王国の衰退を見る。

 実際に神罰が下されたことはないのだが、神の怒りを畏れた人々は王都を捨てて逃げ出していた。


 既に半数近くがいなくなったことで王都は広くなり過ぎていた。

 今は一応の落ち着きを取り戻して人々が逃げ出すようなことはなかったが、次に何かが起これば王都は一気に廃れることになる。


「私は何もしていないんですけどね……」


 人の減った王都を見て女神様が呟いた。

 全ては人の心の弱さが招いた結果だ。


「本当にティシュア様も一緒に行かれないんですか?」

「ええ、さすがに見捨てるのは忍びないです。何より、彼らの近くにいた方が多くの力を吸収できます」


 【生命奪取(ライフドレイン)】。

 神としての地位を捨てたことによって神像は役目を終えて祈りに籠められた想いを集める効果がなくなってしまった。


 しかし、祈りに籠められた想いを生命力に変換する能力まで失われた訳ではない。


「人々はこんな状況になっても……いえ、こんな状況だからこそ神に救いを求める信仰を捨てられません。せっかく私に力を提供してくれるのですから生命力を有効に利用させてもらいましょう」


 ティシュア神に対して畏れを抱いている。

 同時に救って欲しいとも願っている。


 その想いは、以前ほどの効率がなくてもしっかりと女神様に届けられている。


「でも、たまには顔を見に行くので安心して下さい」

「ありがとうございます」

「貴女は私にとって娘も同然です。幸せに暮らせているか抜き打ちで確認しに行きますからね」

「はい」


 女神様との別れの挨拶も済んだ。

 メンフィス王国を後にする面々で手を繋ぐ。



 ☆ ☆ ☆



 俺たちがまず立ち寄ったのはイシュガリア公国の首都ウィンキアにある教会。

 メンフィス王国からここまでの移動は『聖女』であるミシュリナさんの【転移】によるものだ。『聖女』である彼女はスキルによって自分の所属する教会へ一瞬で移動することができる。

 おかげで1週間も掛かった移動が一瞬で済んでしまった。


 イシュガリア公国へと戻って来た俺たちはミシュリナさんに案内されて巨大な屋敷へ入る。

 屋敷の中では、賢そうな人が何人も書類と格闘していた。屋敷の前や中の至る所で兵士が立っていたのだが、先頭を歩く人物がミシュリナさん――『聖女』だと分かると何も言わずに通してくれる。


 まあ、彼女にとっては勝手知ったる我が家だ。


「失礼します」


 入室した部屋の中では二人の男性が顔を突き合わせて相談をしていた。


「……ん? ミシュリナか。今回は随分といなかったな」


 そう答えるのは公国の主である現公王であるグラディス様。


「父上。一応、我が国において貴重な『聖女』なのですから、やはりミシュリナを自由にさせておくのは問題では?」


 公王と相談していた相手はミシュリナさんの兄であるギルバートさん。

 『聖女』であるミシュリナさんは自国に1カ月以上もいなかった。とても重要人物は思えない奔放さだ。


「いいではないですか。こちらは公務のような事をしてきたのですよ」

「……後ろにいる人たちが関係しているのか?」


 グラディス様の視線が向けられる。


「どうも」


 客人が俺たちだと分かって溜息を吐いた。


 俺たちを連れて来た事で厄介事が発生したと思ったらしい。

 ただ、厄介事は全て終わっており、事後報告の為に寄らせてもらっただけだ。


「例の冒険者パーティにメンフィス王国の『巫女』……他は知らないな」


 ノエルの家族は正真正銘の一般人だ。

 『聖女』と交流のあった『巫女』については知っていてもおかしくなかったが、さすがに顔を見ただけでノエルとの関係性を……同じ狐耳にノエルそっくりの顔をした少女を連れていることから関わりがあることまでは予想できるはずだ。


「今回、私はちょっとした理由でメンフィス王国を訪れていました」

「それは私から許可を得ていたから知っている」

「では、メンフィス王国へ赴く前に護衛として雇った彼らと一緒に赴いた先で何があったのかを説明します」


 ミシュリナさんの口から語られるメンフィス王国であった出来事。

 神獣が暴れ回り、『巫女』の暗殺紛いの事が企てられた。実際に『巫女』は殺されてしまい、怒った女神が神罰を下した……どこの神話だろうか?


 報告を聞いた公王と次期公王が頭を抱えていた。

 部屋には全員が座れるだけの椅子が不足していたので勝手に道具箱(アイテムボックス)から椅子とテーブルを用意して紅茶を飲んで休憩させてもらっていた。


「あの国の貴族の権力への執着は異様なところがあった。それが、このような事態を引き起こしてしまうとは……」

「それで、彼らを連れて来たのはどうしてだい?」


 今回の一件でノエルは当事者と言っていい。


「まさか、ミシュリナが保護するつもりかい?」

「最初は私もその件を提案したのですが……」


 ノエルが『巫女』から解放された後どうするのか?


 最初はミシュリナさんが『侍女』として迎えようとした。残っていた一枠をノエルの為に使う。


 けど、ノエルは提案を拒否した。


 理由はいくつかある。

 『聖女』の『侍女』ともなればクラウディアさんのように公の場にもミシュリナさんに同行しなければならない。そうなるとノエルの顔を知っている人物の前にも姿を現さなければならない事もある。

 ノエルが今も生きている事は秘密にしなければならない。


 ……そういった事情もあったが、何よりもミシュリナさんに迷惑を掛ける訳にはいかなかった。


「わたしは冒険者としてアリスターへ引っ越しします」

「身も隠す意味でもそうした方がいいだろう」

「そうだな。アリスターはメティス王国の辺境にある。メンフィス王国からでは迂回しなければ辿り着くことができない。あの国なら獣人は目立つかもしれないが、辺境に一家族増えた程度ではメンフィス王国まで情報が行き着くのはかなり先の話になるだろう」

「はい」


 そういった事情もあって俺たちが引き取ることになった。


「しかし、あの国は自滅したか」

「こちらとしてはどのように動きますか?」

「そうだな――」


 グラディス様とギルバートさんの間で相談が始まる。

 イシュガリア公国としてメンフィス王国に対して今後はどのような付き合いを続ければいいのか。早急に対処しなければならない問題だ。

 当事者である俺たちからも話を聞けたおかげで詳しい状況が分かった。


「では、護衛はここまでです。今回はありがとうございました」

「いいえ、結局は護衛依頼については失敗したみたいなものですからね」

「それでも私の護衛は果たしてくれました」


 ミシュリナさんをイシュガリア公国まで送り届けたことで彼女の護衛依頼は完遂となる。


「さて――それでは、ウィンキアの観光といきましょう」


 『聖女』としての役割を終えてミシュリナの顔に戻る。

 その光景を見てギョッとなる公王と次期公王。


「待て、メンフィス王国への対処を私たちに全て任せるつもりか?」

「残念ですが、『聖女』が『巫女』と親しかったのはミシュリナとノエルだったからです。ノエルがいなくなる以上『聖女』がメンフィス王国と親しくする必要はありません。国としては今後も親しくする必要があるかもしれませんが、その辺りの事はお父様とお兄様が対応するべき事です」


 報告を終えた段階でミシュリナさんの役割は終わっているらしい。

 彼女もイシュガリア公国の重要人物である事を考えれば手伝うべきであるような気がするけど、ミシュリナさんの中ではそうではないらしい。


「それよりもメンフィス王国を出た事がないノエルとその家族にイシュガリア公国の素晴らしさを伝える方が私にとっては重要です」


 態々、家族まで同行させたのはこれから観光させる為だった。

 田舎から王都へ上京して来たノエルの両親だったが、他の街へ観光に行くのは気が引けてしまっていたせいで遊ぶような事はこれまでなかった。両親はそれでもいいかもしれないが、事情を全く知らないノキアちゃんが可哀想だ。


「さ、それでは首都の案内をしますから付いて来て下さい」

「え……まさか『聖女』様自ら案内してくれるのですか!?」


 観光をする事は聞いていたが、ミシュリナさんが自ら案内してくれるとは思っていなかった父親が驚いている。


「安心して下さい。『聖女』で大公家の血を引く者ですけど、下町の美味しい料理を出してくれる飲食店から高価な宝石を扱っている宝飾店まで知っていますから案内に問題ありません」

「いえ、そういう事を言っているのでは……!」


 案内する気が満々のミシュリナさんを止めようとしても無理だ。

 イシュガリア公国では、気さくな『聖女』様として知られているためミシュリナさんを襲うような相手はそうそういないはずだが、それでも皆無という訳でもないので守る必要はありそうだ。


 結局、『聖女』の護衛は終わったが、ミシュリナさんの護衛は観光をすることになっている数日間は続行だ。


 けれども、楽しそうにウィンキアを観光をしているノエルの顔からは『巫女』だった頃にはあった責任感のような物がなくなっていたので、これでよかったのだろう。

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