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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第19章 巫女神舞
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第39話 儀式の後で

 メンフィス王国の王城では侍女や官僚が忙しく働いていた。

 儀式の前も同じように忙しく動き回っていた彼らだが、儀式が終わったはずの翌日も忙しさから解放されることはなかった。


 山のように積み上げられた書類。

 国民から寄せられた陳情だ。


 本来なら領民を纏めて国に仕えなければならない貴族が権力争いに躍起になっていたせいで神から見捨てられた国。


 神の怒りに触れる事を恐れた平民が王都を逃げ出そうとしていた。

 全兵士を使って逃げ出さないようにしようとしているが、その兵士の中にも逃げ出す者が現れて来る始末で対応に追われていた。

 民のいなくなった国など亡ぶしかなくなる。


「クソ、どうしてこんな事になったんだ」


 自分の執務室で大量の書類と格闘していた獣王様が頭を抱えて机に倒れ込む。


 その際に書類が何枚かパラパラと机から落ちる。

 内容を確認させてもらうと、王都で有名な商会が別の街で新しく商売を始めるので許可が欲しい、という嘆願書だった。大きな商会が行うような大規模な商売は許可を得ずに行えば罰則の対象になる可能性だってある。


「許可を貰った後は王都での商売を縮小させるんだろうな」


 普通は小規模に始めた商売を徐々に大きくして行く。

 けど、今の王都の状態を考えれば王都での活動を縮小させて行って新しい商売を基軸にして規模を大きくして行くようにしか思えない。


 それぐらい今の王都の状態はまずかった。


 昨日までは活気に溢れていた都市だったのに人々は俯いて街を歩いていて時折天に向かって祈りを捧げている人がいた。店も開いていたのは半分ほどで、店にある商品を回収して逃げ出す人もいた。

 それぐらい人々は神罰を畏れている。


 ――国の中心である王都は真っ先に神罰の対象になる可能性が高い。


 そんな噂が流れていたせいらしい。


 もちろん、そんな噂はデタラメだ。

 しかし、神が罰を下す瞬間を見ていた人たちには噂を否定できるだけの根拠がなかった。


「来ていたのか」

「気付きましたか」


 声を出したことで獣王が執務室にいる俺の存在に気付いた。


「随分と荒れてしまいましたね」

「王都は昨日と同じように騒がしい。だが、状況が一変しただけで内容がここまで変化してしまうとは思いもしなかった」


 昨日は祭りを楽しむ笑顔に溢れた騒がしさだった。

 しかし、今日は王都から逃げ出す恐慌に似た恐怖による騒がしさだ。

 とても同じ場所で起こっている騒がしさとは思えない。


「それで、今日はどんな用だ?」

「獣王様に伝言があって今日は来ました」

「伝言?」


 こんな状況で誰から――


「女神様からの伝言です」

「なに!? だが、ノエルが死んだことで『巫女』はもういない……いや、お前も貴族たちと同じか」


 貴族の息が掛かった巫女が偽物の神託を伝えて自分たちにとって都合がいいように民衆を誘導しようとしていた。


 しかし、貴族の影響を受けた巫女は既に老いてしまっている。

 神罰を受けた彼女たちの語る神託が信用されるはずもなく石を投げ付けられてしまっている。


 貴族たちの手によってそんな状況にされている。

 しかも、そんな事をされたせいで王城からの言葉も信用を失っていた。


「いいえ、俺は正真正銘女神の言葉を預かって来ました」

「バカな事を言うな。巫女でもないお前らに女神様の言葉が聞こえるはずがない」

「どうやら忘れているみたいですから教えてあげますけど、今の彼女は現世に降臨しています。女神様の言葉を聞く事なんて今となっては巫女でなくても可能になっています」

「クソッ……その事を忘れていた!」


 女神様は歩いて大神殿前の広場を後にしている。

 既に用がないのなら元の場所へ帰ればいいのに自分の足で消えたということは何らかの理由があって留まっていると考えてもおかしくない。


「どこにいる?」

「何が?」

「女神ティシュアだ。こんな状況だ。俺の方から出向いて交渉する」

「交渉して……何をさせるつもりですか?」

「決まっている。全てを『許す』と言って貰う」


 決して神から見捨てられてしまった訳ではない。

 反省した姿を見せたことで女神様の溜飲は下がり、今まで通りの生活が送れるようになった。


 そうすれば国民も落ち着いてもらえるかもしれない。


「俺の伝言はそれです」

「それ?」

「――『私が罰を与えるのは諸悪の根源だけです。貴方たちに被害が及ぶことはありません』。姿を見せるつもりはないけど、言葉を伝えるぐらいならば問題ないと言っていました」

「そうか!」


 女神様から赦しは得られた。

 気分を良くした獣王様が執務室を出て行く。



 ☆ ☆ ☆



「――これが女神様からの言葉だ」


 王城前で民衆に向けて女神様からの伝言を高らかに宣言する獣王様。

 獣王様の声は王城前にいた人に届けられた。さらに声を遠くに届けることができる魔法道具まで使って王都全域に届けられているので多くの人が女神様からの伝言を聞くことができたはずだ。


「赦しは得られた。だから神罰を畏れる必要などない!」


 これで全てが解決される。

 事前に官僚たちとも話をして一発逆転の策として頼った。


「ふざけるな!」


 獣王様の言葉を聞いていた民衆の中から石が飛んで来る。


「ぐっ……!」


 飛んで来た石が獣王様の額を切っていた。


 最初の一人をきっかけにして次々と投げられる石。

 突然の事に1発目は防げなかったが、2発目以降は駆け付けた護衛によって打ち落とされている。


「落ち着いてくれ!」


 声を張り上げる獣王様。


「また、俺たちを騙そうって言うんだろ!」

「もう騙されないぞ」


 貴族たちが欺瞞情報を流していたせいで獣王様の言葉は誰にも信じられなくなっていた。


 これ以上の説得は無駄だ。

 そう、判断した獣王様が護衛に守られながら王城の中へと姿を消して行く。


 近くにあったベンチに腰掛けると応急処置が施され、駆け付けた医者によって額に包帯が巻かれる。


「結局、俺は無力だ……」


 女神様から赦しを得られても伝える手段がない。


「この状況になったなら伝えてもいいと言われた女神様からの伝言があります」


 突然、王の前に現れた俺を警戒する護衛たち。

 俺はシルビアから【気配遮断】をフルに活用としているので彼らの意識の隙間に潜り込むことなど簡単だった。


 護衛が武器に手を掛ける。


「止めろ!」

「しかし……」

「奴は単独で雷獣を討伐した。お前たちは束になったところで雷獣を仕留めることができるのか」


 できる訳がない。

 それでも護衛として不審人物の接近を簡単に許す訳にはいかない。


「これから確実に忙しくなる。無駄な事で大切な命を散らすな」

「はっ……!」


 敬礼して王から離れて行く護衛。


「なんだ?」


 力なく尋ねて来る。

 以前に感じたほどの覇気がない。

 どうやら民衆から石を投げられたのが本気で堪えたようだ。


「『この民衆から信用されない状況を改善する』。それがノエルの義父でありながら義娘を裏切った貴方に対する罰だそうです」

「そうか……」


 国王としての責任を果たすと言った獣王様。

 その道は想像以上に困難な物だった。

 その事を認識させる為に女神様は俺に伝言を頼んだ。


「俺は、どこから間違っていたんだ?」

「おそらく最後でしょう」


 最後までノエルの味方であり続けるべきだった。


「俺は先代国王の息子の中で最も腕っ節が強いっていう理由だけで国王になった人間だ。一部の貴族は俺の強さに惹かれて従ってくれているけど、多くの貴族が王族らしくない俺を侮って権力を巡って争っていた。あのままだと暴走した貴族連中のせいで国が割れる。だから、貴族の中でも最大派閥だったレムタール侯爵を取り込もうと色々と画策してノエルを……」

「けど、それは神の代理人を裏切る行為だった」


 国という内側が割れるのを防ぐ為に貴族を味方にしようとした。


 しかし、それによって国そのものを支えていた柱が抜ける事になってしまった。そうなれば割れるのではなく、国がバラバラに崩壊する。


「ノエルにも申し訳ない事をした……」


 死んだノエルを想って涙を流す獣王様。

 その涙は本物のようにも思えた。


「女神様から最後の伝言です」


 獣王様にだけ聞こえる耳元に近付く。


「『ノエルは生きています』」

「そんな……!」

「詳しい事情は言えません。ですが、女神様の奇跡によって生き返った彼女はこれから自由に生きると言っています」

「そうか……」


 ノエルの死を本気で悲しんでいるようだったら生きている事を伝えて欲しいと頼まれていた。

 何よりノエル自身が義父に伝えたがっていた。


「彼女もあなたの前に姿を現すつもりはありません。最後に彼女へ伝言はありますか?」

「すまない――いや、何でもない」


 伝言を頼もうとして止める獣王様。

 きっと自分には謝る資格すらないと判断した。


「では、伝言は全て終わりましたので帰ります」


 王都を跳んでノエルたちのいる場所へ帰る。

 護衛たちでは追いかけるほどの技量がないので見送るしかなかった。


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