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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第19章 巫女神舞
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第4話 巫女

 巫女。

 そう呼ばれている人物について俺たちが知っている事は全くないと言っていい。


「巫女が誰かに命を狙われているのですか?」


 メリッサの質問に首を振る。


「分かりません。私が聞いたのは『春の「豊壌の舞」をした日に私が死ぬ』という言葉を受け取っただけです」


 詳しい事情が分からない。

 死の原因どころか事故か他殺かすらも分かっていない。


 だが、死ぬことだけが確定している。


 詳しい事を聞きたいところだが、ミシュリナさんは『巫女』の事を心配するあまりオロオロしているばかりだ。


「まず、『巫女』についてから説明したいと思います」


 『巫女』――グレンヴァルガ帝国をさらに東へ進んだ先にあるメンフィス獣王国において『聖女』のように重要な役割を担っている存在で、『迷宮主』とも同じように神の遺産を継承した者。


 役割は主に二つ。

 舞を神に捧げることによって国を災害から守る。

 そして、神からの言葉――神託を授かることができる。


 どちらも国という大きな存在を動かすうえで必要不可欠な要素となっていた。


「内容によっては未来を知ることすらもできる神託ですが、その対象は酷く限定的です。その内の一つが国の危機を回避する際に発揮される、というものです」


 そのため、リオの眷属であるマリーさんの未来観測(フーチャービジョン)みたいな汎用性はない。

 国の危機に関わるような大事でしか未来を知ることができない。


「それと神に関わる事です」


 主に新たな神の遺産を継承した者が現れた時。

 この神託によって俺が『迷宮主』になったことやミシュリナさんが『聖女』を引き継いだ事を知ることができた。


「ですが、数日前に届いた手紙で私たちにも知らされていない事があると教えられました」


 それが――『巫女』の死。

 代々の『巫女』に口伝で受け継がれている事で、その神託を受け取ってしまうと死を避けられなくなってしまう。死を受け入れた『巫女』は次代の『巫女』に自らの知識を託す。


 その事実を知っているからこそ『巫女』は自分の運命を受け入れて生きることを諦めている。


「私たちと『巫女』の出会いは、ミシュリナ様が『聖女』になってすぐの事です」


 新たな『聖女』が生まれたことで近隣諸国の重鎮にお披露目を行っていた。

 その際に国の重鎮と共に挨拶の為に訪れた『巫女』が自分も同じような存在だと語って仲良くなった。


「その時、一緒にいた私も仲良くなって生涯の友になる事を誓いました。あんなに若い彼女がこんなにも早く亡くなるなんて信じられません……いいえ、信じたくありません。ただ、私たちには戦闘能力はそれほどありませんし、イシュガリア公国の立場もありますので護衛に専念することができないのです。報酬は私たちの手でなんとしても支払うので……」

「ちょっと待って下さい。相手は若いのですか?」

「そうだよな。『生涯の友』っていう事は……」


 メリッサの言葉に俺も気付かされた。

 単純な『友』という事なら齢が離れていてもおかしくない。


 しかし、『生涯の友』となると同年代でなければ寿命に差がなければ難しい。


「はい。同年代……というよりも皆さんと同い年です」


 俺たちと同じ16歳か17歳。

 それは死を受け入れるには若過ぎる。


「『豊壌の舞』というのは?」

「その年の豊作を祈願する為の儀式です。春の種植えが終わった頃に今年の豊作を神に祈願する為の舞を奉納します」


 その舞があるからこそメンフィス王国は収穫が安定していた。

 逆に舞が失敗した年には天候不順の為に凶作に陥っていた。もちろん単純に天候が悪かったせいで収穫が芳しくなかっただけなのかもしれない。だが、長年の間に積み重ねられた常識により当時の巫女のせいだとされた。


「儀式の際には露店などが出されて賑やかになるので、凶作の心配などしていない平民の子供たちにとってはお祭りがメインになっていますね」


 豊壌の舞は国内向けに行う儀式。

 近隣諸国の要人だからと言って招待される訳ではないし、参加しなければならない訳でもない。


 それでもミシュリナさんは友達として個人的に何度も参加していた。その時、個人的に見て抱いた感想が子供たちの楽しそうな笑顔だった。


「つまり、国が主催するお祭りの最中に国の重要人物である『巫女』が命を落とすことになっている」

「はい」


 肯定するミシュリナさんの言葉には悲しみが含まれていた。


 二人とも生まれながらにして国に仕えなければならない人物だった。それ故に同年代の親しい友人もいなかった。クラウディアさんも付き人という立場があるので友と言うのとも少し違う。

 同じような境遇ということで親しくなるのにそれほど時間が掛からなかった。


 そんな初めての友達が亡くなるかもしれない。


「依頼は引き受けます」

「ありがとうございます。そこで、報酬なんですけど……」

「それについては『巫女』にお願いしたい事があります。なので、こちらの願いを聞き届ける事を報酬にしたいと思います」

「え……」


 色々と差し出すつもりでいたミシュリナさんにとっては衝撃だった。


「こちらとしては『聖珠のレプリカ』を定期的に提供することも吝かではないと覚悟していたのですが……」


 魅力的な話ではある。

 聖珠のレプリカが定期的に手に入る、ということは迷宮に膨大な量の魔力を定期的に与えられるということになる。


 とはいえ、浄化した際の残り滓みたいな物だったとしても大量を手に入れるのは大変なはずだ。


「彼女が受け入れない場合にはどうします?」

「その時は、二人から色々と用意してもらえれば問題ありません」


 こちらとしては『巫女』から情報を貰える事の方が大切だ。


「分かりました。それでは、準備ができているようでしたら今すぐにでも現地へ一緒に向かって欲しいところなのですが……」

「……儀式はいつ頃に行われますか?」


 確認してみると儀式は4月の中旬。

 今は4月になったばかり。


「あと2週間ぐらいしかないのか」


 外国へ行くとなると数週間レベルで時間が掛かる。

 ……と言うよりも陸路を使った普通の手段では絶対に間に合わない。


「大丈夫です。私の【転移】でイシュガリア公国の東端にある港町まで一気に移動します。そこから船でメンフィス王国まで3日。『巫女』のいる王都までは4日で辿り着ける計算です」

「それなら間に合うのか」


 移動時間を短縮することができる俺たちだからこそできる強硬策。

 『聖女』であるミシュリナさんは自分の影響下にある教会へ一瞬で転移することができる。イシュガリア公国にある教会のほとんどは『聖女』の影響を強く受けているので国内のあらゆる都市へと転移が可能だ。


「俺は依頼を引き受けるつもりだけど、お前らはどうする?」

「愚問ですよ」

「護衛依頼ということは危険を伴うことになります。そんな場所へ主を一人で行かせる訳にはいきません」


 シルビアとメリッサからは同行の許可を得られた。


「話は全て聞かせて貰っていた。私も同行する」


 屋敷に戻って来たイリスも同行する気に溢れている。


「頼んでいた物は?」

「ここに来る前にオリビアさんに会ったから渡しておいた」


 夕食に必要な物も問題ない。

 すぐにでも出発してしまうので今日の夕食を俺たちは食べられないが。


「全員の許可は得られた。すぐにでも行こう」


 旅に必要になりそうな物は収納リングや道具箱の中に揃っている。

 最悪、何か足りない物が発生した場合には誰かに買いに行かせればいいだけだ。


「はい――」

「ちょっと! あたしは!?」


 アイラが叫ぶ。

 部屋の中にいる全員からジト目を向けられた。こいつは自分の体を理解していない……と言うよりも仲間外れにされたみたいで面白くない。もちろん仲間外れにしたつもりはない。


「お前は留守番だ。そんな体で戦闘なんてできるはずがないだろ」

「う……」


 アイラも今の調子は分かっている。

 渋々と留守番を納得するしかなかった。


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