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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第17章 亡霊行進
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第13話 公国の四家

「失礼します」


 伝令の兵士に連れて来られたのはウィンキア近くの荒野にいくつも用意された野営用の天幕の中でも最も大きな天幕。


 その中では初日と同じように会議が行われていた。

 ただし、行われているのは今後の軍事行動についてではなかった。


「貴様らが兵力を渋るからこんな事態になったのだ!」

「私が治めているのは国の反対側なのですよ。いきなり兵力を用意しろと言われても困ります」

「こちらにだって都合、というものがあります」


 天幕に入ると二人の男性と一人の女性が言い争いをしていた。


 彼らは荒野には不釣り合いな上質な服を着ており、二人の男性はお腹の出た40代ぐらいの中年男性で指には宝石の嵌った指輪をいくつか着けていた。女性も高齢であることを隠す為の派手な化粧が施されていた。

 戦場に赴くような貴族ではない。


「誰ですか?」


 詳しそうなミシュリナさんとクラウディアさんに確認する。


「あの方たちはイシュガリア公国の領土を治める貴族の方々です」


 イシュガリア公国の中央を治めているのはミシュリナさんやギルバートさんの実家であるイシャウッド家。

 だが、公国の総てをイシャウッド家だけで纏めるには公国は広すぎた。

 そのためイシャウッド家を支える四家が東西南北の領土を統治するようになった。


「言い争いをしているのは北以外の領地を治めている貴族家の方々です」


 最初に怒鳴っていたのが大量のアンデッドが発生するという問題の起こった南側の領地を治めるサルオール家の現当主であるアラン・サルオール伯爵。


 次に兵力を出すことが難しいと言ったのが西側を治めるウィルキンス家の当主であるテント・ウィルキンス伯爵。

 西側と南側なら近そうに思えるが、彼らの治めている領地の間には大きな山脈があるため商隊などの少人数ならどうにかなるのだが、軍隊のような大規模な人数を移動させるのは難しい。そのため一度中央部を通らなくてはならなかったので合流が遅れてしまった。


 最後にサルオール伯爵へ反論したのが東側を統治するエンフィールド家の女当主であるカトリーナ・エンフィールド伯爵。

 エンフィールド家では、問題が発生した南側へ挟撃する形で戦力を派遣しようと準備をしていた。しかし、そんな折に発生した南東()側にある村での新たなアンデッドの発生。報せを受けたエンフィールド家では即座に南東側への対処の為に兵力が割かれる事になった。


「北側のノスワージ家の当主もいますが、何も喋らずに黙っていられますね」


 天幕の奥では眼鏡をかけたインテリの男性が腕を組んで目を閉じたまま黙って彼らの諍いを聞いていた。

 どうやら諍いに介入するつもりはないみたいだ。


「来てくれたか」


 いつまで経っても諍いを続けたままの3人を呆れた様子で見ていたギルバートさんが近付いて来る。


「一体、何があったんですか?」

「言い争いだよ」


 俺たちが聞いたのは遠征していたはずの冒険者と騎士が逃げ帰って来たという話だった。

 しかし、ウィンキアの近くにある荒野にはそれなりの数の兵士がいたが、みんな戦場から帰って来たばかりの汚れた格好ではなく、これから戦場へ向かう綺麗な格好をしていた。それらしい人影はなかった。


「戻って来たのは後方部隊で伝令兵の数人だ」


 その伝令兵は必死の思いで逃げ帰って来た。


「アンデッドの大群と接触したのは今朝の事。昨日の深夜の内には疲れを知らずに歩き続けるアンデッドの大群を見つけていたのだが、こちらの疲労も考えて接触するのは今日の日の出と共に行うことになったらしい」


 そして、日の出と共に行われたアンデッドの討伐。

 初めの内は誰も犠牲者を出すことなくアンデッドの討伐を行うことができ、大凡200体ぐらいのアンデッドを2時間もする頃には討伐することに成功した。


「こっちは1000人以上いたはずですよね。そんなに時間の掛かるものなんですか?」


 冒険者だけでなく兵士も合わせれば最終的に1000人近い人数になったと事前に聞いていた。

 それなのに2時間もかけて討伐することができたのは俺たちと同じくらいの数。南側へ向かった冒険者の中にも浄化魔法が使える魔法使いはいたはずだし、彼らを中心に作戦を立てればもっと簡単に討伐ができるはずだ。


「いえ、あんな簡単に討伐できるのは皆さんだけですからね!?」

「そうなの?」


 メリッサと目を合わせて思わず首を傾げてしまう。

 二人とも、そんな大それたことをしたという認識がなかった。


「普通は浄化の魔力を練り上げるだけでも時間がかかりますし、200人を相手に一気に浄化できるほどの魔力を持っている魔法使いなんてそうそういませんから」


 通常は時間を掛けて数十人を相手に魔法を使用する。

 それにアンデッドなので万が一にも大きなダメージを受けてしまうので魔法使いを守る役目にある前衛陣もダメージを受けないよう慎重になりながら攻撃するので時間がかかってしまう。


 そういう訳で時間が掛かっていても問題ではないと現場では判断されていた。


 問題が起こったのは、そのすぐ後。

 後方で支援に徹していた冒険者の一人が突然アンデッドになってしまった。


「は?」


 その話を聞いた瞬間、呆けてしまった。

 アンデッドは生きていた人が死んだことで生まれる魔物だ。何もないところに突然生まれるような魔物ではない。


「私にも詳しい原因は分からない。だが、少し前まで普通に生きていた冒険者が死んでアンデッドとなり、仲間を襲い始めたのは間違いない」

「……」


 気付いた時には手遅れだったらしく、すぐ隣にいた冒険者を襲っている最中だった。襲った冒険者は餌を求めるように他の冒険者へと襲い掛かり、最初に襲われて死んだ冒険者もアンデッドとなって襲い始めた。


 アンデッドになったのは間違いない。

 だが、前日まで笑い合っていた相手が討伐するべき相手ということもあって周囲で見ていた冒険者たちも首を刎ねることを躊躇してしまった。


 そんなことをしている間に二人目の犠牲者が出てしまった。


 けれども、二人目の犠牲者が襲われている間に決意した冒険者が持っていた剣で首を刎ねた。

 アンデッドになった冒険者の首を刎ねた後で、彼に襲われてアンデッドになってしまった者も討伐した。


 その場は混乱に見舞われたものの一応は落ち着きを見せた。


 しかし、しばらくすると全く別の場所で同じように突然アンデッドになってしまう者が現れた。


 前線ではない後方で起こった混乱。

 その混乱は全体へと伝わり、アンデッドの大群を相手にしているような状況ではなくなってしまった。


「そして、その異常は軍の方にも出てしまった」


 その時になってようやく軍も異常事態だと認識した。

 そうして、急ぎ救援を求める為に数人の伝令を先に戻らせた。


「こちらとしてはアンデッドと今も戦っている彼らを助ける為にも救援部隊を向かわせたいところなんだが……」


 イシャウッド家の抱える戦力はほとんどが前線へ赴いている為に少ない。

 そうなると増援として駆け付けてくれた他の家から優先して出してもらう必要があるのだが、どの家も戦力を出すことを渋っている。


 南のサルオール家はアンデッド被害が起こったせいで戦力が不足していると言っているし、ウィルキンス家とエンフィールド家は色々と言い訳を述べて言い争いをするばかり。北のノスワージ家は到着したばかりなので状況が把握できていなかった。


 彼らが恐れているのは、突然アンデッドになってしまうこと。

 イシャウッド家を支える貴族家とはいえ、自分の領地を持っている同じ貴族のような感覚なので大公は、国王というよりも少しばかり位の高い貴族、という感覚でしかなかった。


 そのため大公からの命令にもなかなか従わず、異常事態に対して自領の戦力を少しでも残しておこうと考えていた。


 溜息しか出て来ない。


「どうするんですか?」

「君たちの意見も聞きたい。少し、移動しよう」


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